図書室定番イベントの怪異。
夕藤さわな
第1話
「姉ちゃん、姉ちゃーん。ただいま、おかえり、聞いて聞いてー」
「はいはい、おかえり、ただいま、なんだい、我が弟。今日はちょっと帰りが遅いじゃん」
電車通学で高校に通っている私と徒歩で中学校に通っている弟が家までの最後の直線で鉢合わせることは珍しい。
「図書室に寄ってたらちょっと遅くなっちゃって。んでさ、その図書室で起っちゃったのよ」
「何が?」
「噂に聞く図書室定番イベント、同じ本を取ろうとして手が触れ合っちゃうアレ」
「読めた。相手は同性だな」
「甘いぜ、姉ちゃん。異性だ。……多分」
「……多分?」
「で、その彼女? なんだけどさ」
「なんで疑問形?」
「ちょっと愛が重め系と言うか。束縛系と言うか。一分一秒たりとも離れたくない系というか」
「出会って数時間でそれはやばくね? あ、それで遅くなったのか。なかなか帰らせてくれなくて」
「帰らせてくれなくてっていうか帰ってくれなくて? 離れてくれなくて?」
弟の話にうわぁー……と顔をしかめる。
「やめとけ、やめとけ。それ、絶対にメンヘラ化するから。ストーカーになるから。絶対に家バレないようにしろよ。あんただけじゃなくて私たちも殺されるパターンだから」
「いやぁー、それがさぁー、ついて来ちゃってるんだよねー」
「はぁっ!!?」
弟の返事に勢いよく振り返る。ここまでの会話を聞かれてたとしたら弟だけじゃなく私たちが殺されるパターンどころか私だけ殺されるパターンだ。
ところが――。
「……誰もいませんが?」
周囲には誰もいない。夕焼け小焼けで日が暮れてカラスがカァカァ鳴いているだけ。首を傾げる私に弟はゆるゆると首を横に振る。
そして――。
「こちら、彼女? になります」
「やばいはやばいでもそっち系のやばいかよ」
婚約指輪を見せびらかす風ポーズで弟が見せびらかしたのは手首から上しかない手。女性とわかる細くて、死んでいるとわかる青白い肌をした手は恋人つなぎをしてみたり、指切りげんまんをするように小指を絡めてみたり、べたべたねっとりめちゃくちゃ執着している。
「姉ちゃん、これ、どうしよう」
「知らんよ。とりあえずお祓いにでも行ってこい。それかタマ氏にシャーしてもらえ」
ちなみにタマ氏は我が家にお住まいの三毛猫、二十一才である。霊は猫が苦手とかって噂があったようななかったような程度のテキトーな感じで言ったけど弟は深々と頷いて納得した。
「タマ氏にシャーしてもらってダメだったらマツケ〇サンバ踊るわ」
「お祓いに行けよ」
「マツケンサ〇バ踊ってダメだったら行く。というわけで、姉ちゃん。タマ氏にシャーしてもらってダメだったらいっしょに踊ってくれよな」
「なんでだよ。一人で踊れよ」
とかなんとか言いながら玄関のドアを開けた私と弟は――。
「シャーーーッ!」
家に入るなりタマ氏、二十一才の特大シャーを食らい――。
「……効くんだ」
「……効いたね」
べたべたねっとり弟の手に絡みついていた手首から上だけの手は秒で姿を消したのだった。
……次は猫飼ってない運命の相手に出会えるといいな、メンヘラ手子ちゃん。
図書室定番イベントの怪異。 夕藤さわな @sawana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます