第8話「毒という武器」



---


毛虫に負けてから、三日が経った。


HPは完全に回復した。体の調子も戻っている。


でも、私はすぐに狩りを再開しなかった。


「まず、考えないと」


あの失敗から、私は多くのことを学んだ。


一番大きな学びは——毒は強い、ということ。


私を瀕死に追い込んだ、あの毛虫の毒。たった少し触れただけで、あれだけのダメージを受けた。


「もし、私が毒を使えたら……」


そう考えるようになった。


蠅は、病気を運ぶ生き物だ。前世の知識では、そうだった。


この世界の蠅も、同じかもしれない。


「スキルを確認しよう」


名前:なし

種族:スモールレッサーフライ

レベル:6

HP:20/20

MP:10/10

攻撃力:6

防御力:4

素早さ:24

スキル:飛行Lv2、複眼Lv3、屍食Lv3、危機感知Lv2、消化液Lv2


「消化液……」


このスキルは、獲物を溶かすためのもの。


でも、考えてみれば、これも一種の「毒」だ。相手の体内に注入して、内側から溶かす。


「もっと強くできないかな」


私は、消化液について考え始めた。


今の消化液は、小さな獲物を溶かすのがやっと。大きな相手には、効果が薄い。


でも、もし——


もっと強力な消化液を作れたら。


もっと毒性の高い液体を分泌できたら。


「試してみよう」


私は隠れ家を出て、実験を始めた。


まず、いつもの獲物を探す。


小さな芋虫を見つけた。私と同じくらいのサイズ。


「よし」


いつものように仕留める。


でも、今回は殺すだけじゃない。


「消化液を出すとき、意識を集中してみよう」


スキルは、意識することで強くなる。この一ヶ月で、それは分かっていた。


複眼も、最初はレベル1だった。でも、意識して使い続けることで、レベル3まで上がった。


消化液も、同じはずだ。


私は芋虫に取りつき、口吻を突き刺した。


そして、消化液を出すときに——


「もっと強く。もっと溶かす。もっと——」


意識を集中する。


消化液が、芋虫の体内に流れ込む。


いつもより、反応が早い気がする。芋虫の体が、より速く溶けていく。


「……っ!」


何かが、変わった。


《スキル「消化液」がLv3になりました》


「やった……!」


レベルアップだ。


でも、それだけじゃなかった。


《条件を満たしました》

《新スキル「腐食毒」を習得可能です》

《習得しますか? YES/NO》


「腐食毒……?」


新しいスキル。


迷わず、YESを選んだ。


《スキル「腐食毒Lv1」を習得しました》


スキルの説明が浮かぶ。


《腐食毒Lv1》

消化液に毒性を付与する。

対象に継続ダメージを与える。

小型の生物に対して効果大。


「これだ……!」


私が求めていたもの。


毒。私だけの武器。


「試してみないと」


私は次の獲物を探した。


小さなダンゴムシを見つけた。


いつものように急降下し、頭に口吻を突き刺す。


そして——腐食毒を意識する。


「毒を、流し込め……」


口吻から、いつもと違う感覚。消化液に、何かが混ざっている。


ダンゴムシが痙攣した。


普通なら、消化液が効くまで数秒かかる。でも、今回は——


一瞬で動きが止まった。


「……すごい」


毒が効いている。消化液だけより、ずっと早く仕留められた。


《経験値を獲得しました》


「これなら……」


もっと大きな獲物も狩れるかもしれない。


もっと強い相手とも、戦えるかもしれない。


「毒、最高……」


私は、新しい力に酔いしれていた。


あの毛虫に負けたことが、逆に良かった。


毒の恐ろしさを知ったから、毒の強さを求めるようになった。


失敗が、成長に繋がった。


「よし、もっと試そう」


私は狩りを続けた。


腐食毒を使って、次々と獲物を仕留めていく。


芋虫。ダンゴムシ。小さなナメクジ。


全部、今までより早く殺せた。


「効率が、全然違う……」


経験値の溜まり方が、格段に上がった。


そして——


《レベルが7になりました》

《新しいスキルを習得可能です》

《以下から一つ選択してください》


一、毒耐性Lv1

二、飛行強化Lv1

三、気配遮断Lv1


「毒耐性……!」


やっと来た。


あの毛虫の失敗を繰り返さないために。迷わず、毒耐性を選んだ。


《毒耐性Lv1を習得しました》


「これで、少しは安心」


毒を使い、毒に耐える。


蠅らしい戦い方が、形になってきた。


「いい感じ……」


私は満足して、隠れ家に戻った。


今日は大収穫だった。新しいスキル、レベルアップ、毒耐性。


全部、あの失敗から始まった。


「失敗も、悪くないな」


もちろん、死ぬような失敗は駄目だ。


でも、生き延びられる失敗なら——学びに変えられる。


「明日からは、もっと攻めよう」


腐食毒がある。毒耐性もある。


今までより、少しだけ強気でいける。


「待ってなさいよ、この世界」


私は、着実に強くなっている。


最弱の蠅から、少しずつ——


「いつか、這い上がってやる」


その言葉を胸に、私は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る