夢見草は美しい

月島 永

第1話 綺麗な新学期

桜が舞う新学期。

風が吹けば桃色の花びらが舞い散り、美しい。

「今日はどんなクラスかしらね」

桜の道を車で横切る光景はまるで工芸品を見ているかのよう。

「お嬢様、ただの使用人には分かりかねます」

「そうよね、ごめんなさい」

もう一度窓の外を見てみると桜の木のそばを走っている少女が見えた。

その子の制服は同じ私立聖女学院しりつせいじょがくいんのもの。私のは生糸きいとで出来ている。

その子のものは特注品ではなく普通ふつう制服せいふく。この事から普通の人として入学してきたと分かる。

この子は去年いただろうか。背丈から見て後輩と言うわけでもなさそうだ。

「あの子は誰かしら」

「……申し訳ございません、存じ上げません」

私がバカだった。使用人に聞いてもわかるはずがないのに。

「そう……ありがとう」

言い終わる頃にはあの子を追い越していた。



気が付くと門を通り抜け、校庭に貼り出されている紙を見る。

ニ年三組 原宮はらみや りん

それが私の名前。去年のクラスはあんまりだった。

見ての通り友達はいない。昔からのこと。

誰とも話さず静かに姿勢を気にしながら新しい教室へ向かう。

一部の子はうちわを振ってくれてるけど、それ以外は見向きもしていない。

「凛さま……」

「ごきげんよ」

軽く会釈をする。それだけでこの子は喜んでくれる。ほかの子は喜ぶどころか白い目で見られている。

「あの、今日はお暇ですか」

「ごめんなさい、今日はちょっと用事が」

用事と言うのは嘘に近い。だが本当のことでもある。

茶道に書道書道。そして華道かどう弓道きゅうどう馬術ばじゅつなどちょっとした用事が毎日あるのだ。

「そうですか……わかりました」

諦めたのか肩をすくめゆっくりと歩いている。かわいそうだといちいち思っていては原宮家では成り立たない。



二年三組の教室の前に着くと一つ問題が見つかった。私より作法がきれいでかつ友達がいる子。

玖島くしま 彩音あやね。昔からのライバルで私よりも優れていて、正直嫌い。

「あ、凛……。同じクラスだね」

「そうですわね、彩音さん」

この感じはいつもの事。気にせず教室に入り席に着こうとするが……。

「凛……私の前よ」

「……」

なぜ、いつもこうなってしまうのか。出来るだけ離れたいのに離れられない。

気にせず席に腰掛ける。気づいたのかまたは飽きたのかは分からないけど、彼女は声をかけてこなくなった。ありがたい。



しばらくして、あの子がやってくる。そう、あの子だ。

「お、お、おはようございます」

周りの反応から見て、転校生ではないらしい。1年も会わないなんてあるのだろうか。

「あら、紗衣?」

もちろん私が言ったのではない。後ろの人が言った。

その声に気づいたのかあの子はあれの方を向き小さく手を振る。

「あ、あ、彩音さん」

動きは元気だが喋り方がどうも気になってしまう。

あれの友達なんだろうか。

今は机で覆いかぶさるように伏せているのであの子の行動は見えない。

コツン、コツンという足音と、服の擦れる音。そして、鞄が足に擦れる音。何よりすべての音が耳を通して入ってくる。

紗衣さえ、席前の隣よ」

「あ、ありがとう」

まって、あれが言うってことは、あの子は私の隣。

椅子の引く音が聞こえる。そして座る音。すべての音が聞こえる。

顔はまだ机に伏せたまま。それに、あの子は横にいる。顔を上げるなんて不可能に近い。

「よ……」

あの子の声が一瞬聞こえた。顔をあげて返事したほうがいいのは分かっている。原宮家での教えは何だったのか考えさせられてしまう。

そっと顔を上げた。

「よろしくね」

頭よりも先に口が動いていたということだろうか。よく分かってはいない。だけど、あの子は私の言葉を返してくれた。

「これから、よろしくね」

その、はにかんだ笑顔はあの桜や見慣れた伝統工芸品よりも美しい。

職人が作る料理よりも美しい。

「ええ」

思えばこれが私の人生を変えるほんの一、ピースだった。


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