第2話 先輩の素敵な賄賂

先輩のデスクに頼まれた資料を持っていた時のできごとだった。


後輩「(あれ…先輩いないな、でもスマホはある…)」

スマホがあるということはすぐ戻ってくるかな?と予想し、デスクの前で待つことにした。


すると先輩のスマホが震える。

私は、音が鳴った方を咄嗟に見てしまった。

何かの通知がきたようだ。  後輩「(え、え?あれ私の絵だよね?似てるだけじゃないよね…???)」


先輩「あれ、待たせちゃった?」


後輩「…!!いえ!!」


資料を渡して帰ろうとしたが、どうしても気になって先輩に聞いてしまう。

後輩「先輩のロック画面見えちゃって、あれあのアニメの…」


言いかけたところで、あれは内緒だったと我に返る。

咄嗟に口をふさぐ。


先輩はふふ、と笑い

先輩「今日ランチ一緒に行かない?」

と優しく微笑むから、私は思わずときめいてしまった。


さらに先輩は耳元で

先輩「この前のこと、黙ってくれていたお礼。」

と甘く囁く。


――鼻歌の件だ…!


後輩「わ、賄賂ですか…。」

と戸惑いながら、返事をすると、


先輩は小さく笑った。


私は心ここにあらず状態で午前の業務を気合で乗り切った。

いつの間にか私は先輩がお気に入りだというカフェの席についていた。


先輩「さっきの話なんだけど、実はね…」

先輩は周囲に知り合いがいないことを確認した後一呼吸入れて、

先輩「私の好きなイラストレーターさんの絵なの!」

と嬉しそうに、けどどこか自慢げに先輩は言った。


私は唾を呑み込んで、恐る恐る聞く

後輩「えー、なんて人ですか?」

平静を装っているが、私の声は震えていた。


先輩は心なしかテンションが上がっているように見えた。

先輩「気になる…?」


そういいながら、とてもうれしそうにスマホを操作して

私に画面を見せてくれる。


先輩「“子猫ちゃん食べちゃうぞ@みなみちゃん”っていうアカウント名なんだけどね…」


聞き覚えのある名前。

表示されたアカウントを見ると

まぎれもなく、私のSNSアカウントだった。


イラストレーターになってないよ!?

ただの趣味です。

おこがましいです。

すみませんん。


頭は混乱し、

私の顔面でお湯が沸かせるのではと思うほど顔は熱くなり、

とてつもなく恥ずかしい。


しかも、端にある先輩のアイコンは、見覚えがあった。

いつも作品を載せるたびに、丁寧な感想をくれる人。


先輩だったんだ――――――――。



私です。と言いたい気持ちはあったが、

それよりも、趣味全開のこのアカウント、知られたらまずい…!!




走馬灯のように脳をフル回転させた結果、私は黙っている選択肢を取り

後輩「…初めて見ましたー」

自分でもわかるくらいの、棒読みの返事。


しかし先輩はそこには気づいていない様子で、イラストの魅力を熱弁してくれている。

先輩「このね、やわらかいタッチと繊細な色塗りが好きなの!

細かいところも丁寧で、この人この作品が大好きなんだなって伝わってくるんだよね!」


私は相槌をするロボットと化していて、

初めての先輩のランチで緊張しているのに、

先輩があまりにも褒めてくれるから、


絶対美味しいはずのご飯も

心がいっぱいいっぱいで、

味を感じず、でもすごくお腹もいっぱいになった。


先輩があらかた語りつくして、

時間を見た後、いつの間にかいつものクールな先輩に戻っていて、


先輩「そろそろ戻ろうか。」


私はホットして、立ち上がる。


お会計の時、

店員さん「当店をフォローしていただくと10%オフになります!いかがですか?」


私は奢ってもらうので少しでも安くできたらいいと思い、

後輩「あ、します。」

と答えて、しまったと思った。


私はアカウントが2つある。

趣味用と、世間用。

最後に閉じた時どっちになっていたっけ?

先輩が私のスマホを除くとは思っていないけど!

なんとなく画面をみていたら、、、?


だけど不自然に、今更断ることもできず…


後輩「(どうにでもなれ…!!)」

と思って開いてSNSは、世間用だった。

世間用といってもリアルの友達とか、付き合いでフォローするときに使う用。

あたりさわりのないものしか投稿していないやつだ。


セーフと思って、確認を済ませ、お店を出た。


後輩「ごちそうさまでした!とても美味しかったです!」

と先輩に後ろからお礼を言うと、


先輩から返事がなかった。

おかしいと思って、先輩の前に周りこむと、


先輩は険しい顔をしていた。

先ほどとの温度差がすごい。


後輩「せ、先輩?」


…。

……。


先輩「さっきのアカウント…」


後輩「え?変でした?」


先輩「みなみ先生のサブ垢…」

と先輩は小さくつぶやいた。


私は心臓が止まった。

そして、愚かな過去の私は世間用になる前はサブ垢として趣味用のプロフィールに載せていたことを思い出した。


どうでもいいフォロワーが多くて、先輩がフォローしていたこと知らなかった…!

ていうか、結構前なんだけど…!そんな前から知ってたの!?!?


先輩「そういえば、絵うまかったよね?」


先輩の声が少し低くなり、こちらを見つめる瞳は鋭い。

先輩「“子猫ちゃん食べちゃうぞ@みなみちゃん”さん?」


私の心臓が、どくん、と嫌な音を立てた。

名前を呼ばれた瞬間、もう世界が終わったかのように、

音と時間が止まったように思えた。

冷や汗が止まらない。


後輩「えー?違いますよ?」

私は嘘が下手だ。全部表に出るタイプ。

でも今日だけは、絶対ばれたくない…!!

自分は女優だと思い込ませて


後輩「人違いじゃないデスかー?」



先輩は私の方をじっと、見つめている。


先輩「…私ね、最初の投稿の時からフォローしてるんだよね。」


――――――古参ッ!!


続けて、

先輩はとてもきれいな笑顔で

先輩「ウソ、下手だね?正直な子だもんね?」


後輩「すみません…。私です。恥ずかしくて、嘘、ついちゃいました。」


逃げ場は最初からなかったんだと、あきらめて告白する。

言ったあと、肩の力が抜けた。


先輩「やっぱり!」

先輩は仕事モードとのギャップがありすぎる、

今日一のかわいい満面の笑みだった。


恥ずかしさで消えたくなったが、

その笑顔が、今日一番の“賄賂”だったかもしれない。

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後輩が気になるクールな先輩 柚月 ゆもち @mochimochiYuzuki

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