後輩が気になるクールな先輩
柚月 ゆもち
第1話 きっかけ
非日常漂う、静かで、薄暗い、資料室。
棚の奥で、私は必死にファイルを探していた。
社会人1年目の夏。
初めての環境にも慣れ、徐々に仕事が楽しいと感じるようになっていた。
「確かここに…」
以前読んだマニュアル、改めて確認しようと資料室に探したものの、
元々探すのが苦手なこともあってか、場所が見つからずにいた。
すぐ見つかると思って、資料室の電気つけてなかったけど、
この状態で誰か入ってきたら気まずいな…
と思った矢先、ドアが開く音がした。
ーーーーうぅ、フラグ回収!!
反射的に棚の影に身を寄せる。
後輩「(どうか、見つかりませんように。)」
そっと棚の隙間からのぞくと、そこにいたのは
私の教育を担当してくれた、クールで美人な先輩。
後輩「(あちゃー、こんな状況じゃなければ声かけたかった…!!)」
私は出るタイミングを完全に見失っていた。
後輩「(先輩…、探す姿もきれいだな)」
思わず見とれていたがハッとのぞき見なんて駄目だと目をそらす。
すると、なんか聞き覚えのあるリズムが聞こえてきた。
「~~♪」
後輩「(なんだっけこれ、絶対知ってる曲だ。)」
悩んでいるとすぐ思い出した。
子供のころから好きなアニメの原作少女漫画の特装版についてきた、
ドラマCDに収録されていたキャラのイメージソングだ!!
公式にも載っていなくて、あまり知られていない曲…
でも大好きでずっと聞いていた曲…。
それを、
いつもクールな先輩が鼻歌交じりで歌っている。
しかも、歌声がかわいい。
……ギャップが、強すぎる。
先輩の意外な一面をみて興奮し息を荒くしていた。
そう隠れていたことも忘れて油断していたのだ。
先輩の意外な一面に見入ってしまい、
自分が隠れていることも、
すっかり忘れていた。
足元に置いてあった段ボールに足が当たり、
ガタン、と小さな音が鳴る。
一瞬で顔が赤色から青に変わる。
後輩「(やばい!!聞こえたかな!?)」
歌はぴたりと止まっていた。
息を殺しながら、そっと、先輩がいた方を覗くと
棚越しに視線が合う。
もう隠れることはできないと観念して先輩の方に近寄る。
後輩「す、すみません…。隠れるつもりは、なかったといいますが……。」
言い訳にもならない言葉を口した私は、とても焦っていた。
先輩は黙ったまま口を開かない。
先輩「……。」
後輩「(やっぱり軽蔑されたかな…?嫌われたくないよ。)」
きっと数秒の沈黙が長く感じた。
最初に沈黙を破ったのは先輩だった。
一度だけ深呼吸をして、
先輩「……何かあった?」
とまるで何事もなかったように言った。
後輩「(せ、先輩は何もなかったことにするつもりだ…!!
もちろんです!先輩!!私は何も聞いていません!!)」
全力で手を振り、
後輩「い、いえ!!私は何も聞いていません!!
けっして、特装版のドラマCDだけに収録していた、
イメージソングを先輩が歌っていたなんて、知りません!」
私のバカ…!!
テンパって思っていることと言いたいこと、全部まじって吐いてしまった!!
だって、だって…!!
いつもクールで美人で、隙がない先輩が、
るんるんな感じで、鼻歌交じりで歌っていただけでも驚きなのに、
歌声はかわいくて、ギャップがすごすぎて好きだし(?)
しかも昔から好きな漫画だしお気に入りの曲だったから!!
先ほどよりあまりにも長い沈黙…
先輩の顔を見れずにいたが、反応がなかったので
涙目になりながら、そっと薄目を開ける。
先輩は驚いた顔をして固まっていた。
そして困ったように笑い、
先輩「…知ってる人、初めて会った。」
先輩はポケットから、家の鍵につけているアニメのキーフォルダーを取り出して見せてくれた。
後輩「みーちゃんだ…」
アニメ版にだけに登場する、主人公の邪魔をするキャラだった。
先輩「会社の皆には、内緒ね…?」
その瞬間、
私のハートは完全に撃ち抜かれた。
いつもはクールな先輩の、誰も知らない一面。
それを知ってしまった私はもう逃げれない。
私はもう、
先輩から、目を逸らせなくなっていた。
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