第9章:選択の夜

スマホの電源を入れるか、入れないか。

それだけのことが、こんなにも重く感じるなんて。


美月は、指先を宙に浮かせたまま、画面を見つめていた。

通知はゼロ。誰からも連絡はない。

でも、もし電源を入れれば――警察に追跡される可能性がある。


(でも……このままじゃ、私が“殺したこと”になっちゃう)


彼の顔が、記憶の奥から浮かび上がる。

怒鳴り合い、泣き、傷つけ合った日々。

でも、最後に見た彼の姿は――ただ、静かに倒れていた。


「……私じゃない。

でも、私が黙ってたら、誰かが罪をかぶるかもしれない」


その“誰か”の顔は、ぼんやりとしか思い出せない。

でも、確かに“誰か”がいた。

あの夜、あの家の前に。


美月は、スマホを手に取った。

電源ボタンを、そっと押す。


画面が光り、時間が表示される。

その数字が、現実に引き戻す。


(……逃げるの、やめよう)


彼女は、連絡先一覧から“最後に登録した番号”を選んだ。

それは、彼の名前の下に、こう表示されていた。


「緊急時:霧ヶ峰署・霧島刑事」

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推理はAIに任せてます-霧ヶ峰・照明偽装事件ファイル @ykinoshita36

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