訳あり勇者

ナナシ

第一章

失われし記憶探しの旅(1)

まとめ


Episode1


突如として自らの平和を遮断されたが居た。

自身の身体の崩壊が始まるも、

最後の時まで仲間を守り抜き花びらのようになった者が居た。

仲間と共に辛い過去や現在を乗り越え歩み続いた日々、何度もかけがえのない存在の死の反復。

そして闇に潜む数多な恐怖が、周りに気付かれぬ溶け込むように人々に付き纏っていた。

しかし今、その悲しき物語を終わらせるべく、一つの闇が最後の希望を握りしめる


闇商人1『…今後ろから何か聞こえなかったッスか?』


闇商人2『ん、まさか商品の目が覚めたのか?…まぁ安心しろ、どっちにしろ逃げられん。そんな事を心配するぐらいなら、今この場で魔物に出会さないかどうかを心配したらどうだ』


闇商人1『そ、それもそうッスけど……ほんと何なんスかいつも偉そうに…』


闇商人2『なんだ?』


闇商人1『何でもないっす…』


闇商人2『とにかく、後ろの商品を傷付けないように移動しないとな。出来るだけこの荷馬車をゆっくりと動かさないとな』


荷馬車の後には大きな袋。闇商人2はそれを顎でしゃくってみせた


闇商人1『…それにしても先輩…よく見つけましたね…こんな広い森の中で…』


闇商人2『まぁな、こんな空気が澄んでいる森の中で生き物の匂いがすればすぐに分かる。ま、お前みたいな素人にはまだ難しいか』


それを聞いた闇商人1は一瞬不機嫌な顔を出そうとするも、耐える


闇商人1『そうッスね…』


二人は黙って荷馬車を歩かせる。森の中はそよ風が吹いており、とても魔物がいるとは思えないぐらい新鮮な空気だった。

ふと、闇商人1はこんなことを言い出した。


闇商人1『先輩…気のせいかもしれないッスけど、居なかった気がするんス、一ヶ月前にこの森を訪れた時に…こんなガキ』


その言葉を聞いた闇商人2はぴくりと身体を動かした、その表情には確かな動揺が、そこにはあった。


闇商人2『確かに、一ヶ月前にこの森を訪れた時は…生き物の匂いなんてまったくしなかった…』


静かに後ろを目線を向ける、袋に包まれている商品がそこにはあった


『ましてやこんなガキ…』


闇商人2は少しため息をついてから…口を震えながら話した。その瞳は普段冷静の先輩とは思えない、多少の動揺が見えていた


『全く、この世は不思議…いや、意味わかんねぇことばっかだよ…今は3人の英雄達が魔王を倒してこの世は平和になった事とおさまっているが…』


どう考えてもおかしい。


11年前、魔王を打ち倒した瞬間、突如として三人が行方不明となり、そして突如現れた森の中の少年。

魔王が滅ぼされたのにも関わらず何故か存在する魔族…

まぁ、これに関しては…親玉が死ねば子である魔族も死ぬんじゃないかと思った完全な【仮設】だからな…不思議な話ではないか…

魔王が滅ぼされた後は、確かに前より平和にはなったが…妙な不安に駆られる。


そんな時だった。


二人の闇商人が話していると、静かな森の木の上で、気付かれないように、一人の女性が遠くからの方で例の『商品』を見つめていた


???『あの子が…』


例の『商品』を見つけた謎の人物は口角をゆっくりと上げ、少し気持ちが高ぶったように


???『…久しぶりね』


と声を漏らす。闇商人の二人は気づくことは無かったが、物凄く心臓自体を掴みとられるような恐怖を感じた


闇商人1&闇商人2『…!!』


二人の背筋が凍った。一瞬、一瞬だが、『何か』の気配が背後に現れた。それは人間とは別の、何かの気配


気づけば、後ろの大きな袋は無くなっていた


闇商人1『今のは…!?…待って無い…!商品が!!』


あり得ない、商品を奪った後に逃げた?いや…気づかれずにあんなスピードで…?


闇商人2『バカな…匂いも全く違う…なにか人間じゃない別の存在が一瞬だけ……一体…誰だったんだ?』


一方その頃…謎の人物に助けられた例の【商品】は目を覚ます


…っ!


身体…痛い、目の前が真っ暗だ…ここはどこ……


全身が痛くおもいっきり負荷がかかったような状態だったが、直ぐに部屋の暖かさによって身体が刺激され、身体の負荷が多少程解消する。


???『目…覚めたか?』


……え?


少年がゆっくりと目を開ける、目の前には女性が一人、その女性の顔はどこか冷たく、雪のような表情で少年に語りかけていた。


…ここは、何処ですか?


それを聞いた女性は不機嫌そうな表情で


???『何処だ…か、答える前にまずはお礼からだろう?私がお前を助けなかったら、身体をバラバラにされて売られる所だったぞ』


…ひ!?


ベッドから身体を起こし、思わず少年は後退る、目の前の女性に強い恐怖感を抱いていたが、直ぐにその心が溶けていき、次第に口をゆっくりと動かして


『あ、ありがとう…ございます……』


目の前の女性は無表情だが、心なしか少しその無表情が和らいだ気がした。しかし彼女は直ぐに無表情に戻り続けて氷のように言葉を放つ


???『ん、それでいい。…名前はなんて言う?何処から来たか覚えているか?』


名前…?名前は…私の………………………


???『アイテル……場所……私が…………場所…………居た所……………』


名前は微かに思い出せるが、何処から来たのかは全く覚えてない、いや、分からないに近い状態だ。


アイテル『分かりません……何処から来たのか………何処で生まれたのかも……何があったのかも………どうして分からないのかも………全部………』


彼女はあたふたしているアイテルを見て確信するように言葉を放った


???『覚えていない…その反応…記憶喪失ってやつか…』


アイテルは困惑した表情で彼女の顔を見上げる


アイテル『きおく……そうしつ?』


彼女の顔を見るも、驚いた様子は無かった、まるで見慣れているかのようだ。


???『過去に大きな出来事で頭に大きな衝撃が入り、その衝撃によって、他にあった過去の出来事は全て脳の奥の方に深く眠ってしまう状態だ、

つまり、君の昔の記憶は深く眠っていて、君はその記憶を思い出せない状態だ』


彼女から淡々と話される言葉に頭が追いつかない、だが、概ね理解はつく。自分の記憶が今、消えていると言う事に


アイテル『じゃあ…つまり…今僕の記憶は…無いって事ですか?』


アイテルの言葉は、ただ知りたがっていた一人の少年の叫びでもあった。それは悪意に満ちていない潤っている瞳で彼女に問いかけた。


???『無い…と言うよりかは、眠っているに近いかもな、一般的にはそれは記憶が消えた、とも呼ばれている』


アイテル『そうで…すか……私の記憶は今消えてるんですね……』


アイテルは悲しそうな表情で地面を見つめる、その地面は湿っていて、アイテルの心を表しているかのようだった。


???『ベリル』


アイテル『え?』


女性に何かを言われた言葉にアイテルは顔を上げた、そこには無表情だった女性が、少し広角を上げて、暖かく、穏やかな笑顔で話しかけていた。


ベリル『私の名前だよ、ベリル、宜しくな』


彼女はそっと手を伸ばす、その手は雪のように白かった。


アイテル『は、はい…宜しくお願いします、ベリル……』


アイテルは彼女の手をそっと触れるように手を重ねた。彼女の手は雪のように冷たく、ひんやりしていたが、同時にほんのり温かかった。


ベリル『ん…それにしても、本当に良かった、アイテル…か。自分の名前を覚えていることが出来て』


その言葉を聞いたアイテルは【はっ!】とする。そして、新たな疑問が浮かび上がり、その疑問をすぐさまベリルに伝えた


アイテル『…名前…覚えてる…なんで……記憶は……消えてるはず………あ…言葉も……喋れる………どうして?』


ベリル『記憶が消えるって言うのは、今までの起こった【出来事】が脳の奥に眠っているだけで、経験した出来事は忘れてはいない。

だから言葉と言う存在は、完全にアイテルの【脳】ではなく、【身体】に染付くように覚えている、だから知識は抜け落ちていなかったり、言葉が話せたり出来るんだ』


彼女に説明され、今までの疑問が少しだけ解消されたような気がした。ただ、不満が全く消えたわけではない、これからどうしたらいいのかも分からない状態で生きていくことは到底難しいからだ。


ベリル『…だがな…君の脳はまだ完全に眠っている訳では無いようだ』


アイテル『え?』


ベリル『まずは自分自身の名前が覚えている事、本来もっと酷い症状は名前すら脳の中に閉ざしてしまうからな…そうなれば、記憶を引っ張り出す事がかなり難しくなる』


その言葉を聞いたアイテルは少しだけ安堵する。


アイテル『良かった…完全に記憶が消えてるわけじゃ…無いんですね…だったら記憶が戻る可能性は……』


ベリルはアイテルを安心させるかのように優しく、柔らかい口調で問いかけた


ベリル『高い…とまではいかないが、取り戻すにはかなりの時間が必要だ…まぁ私は…お前の過去の記憶がどんな物かは知らん、何をすれば記憶が元に戻るかは、断言できん』


最後に冷たく放つが、それでもアイテルは彼女がしてくれた事を思い返し、感謝が宿った潤った瞳で彼女に語りかけた


アイテル『ありがとう…ベリルさん』


お礼を言われた彼女は表情を崩し、柔らかな笑顔となった。


ベリル『…ん。』


しかし、アイテルの脳内には最後の疑問が思い浮かぶ、それは…貴方は何者か…と


アイテル『ベリルさん…貴方は…何者なんですか?…どうして私を助けてくれたんですか?』


ベリルはおしとやかな表情でアイテルの疑問を一つずつ解消していくように答えた


ベリル『…そうだな…じゃあ…改めまして…私の名前はベリル・サルス、人間と魔族の間の存在だと思ってくれればいい…そしてお前を助けた理由は…』


お前がこれから歩む道に答えがある


アイテル『え?…それって…どういう意味ですか?…どうして今教えてくれないんですか…?』


これから僕が歩む道に答えが…?

それに…ベリルさんは人間と…魔族の間…?


いつかは終わる、彼の記憶探しの旅が、…眠っている記憶と共に、今始まった。


訳あり勇者

Episode1 完

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