ウワサが立つくらいなら

紅鷺える

ウワサが立つくらいなら

 待ちに待った昼休み、うちらは一個の机で向かい合ってお昼ごはんを食べる。そんでテキトーにおしゃべりして、一度しかない高校生活をテキトーに消費してく。


「あ〜そうだ穂利ほのり、三組のかわい子ちゃんに手ぇ出したんだって?」


 種積たねつみ穂利。入学早々、うちに真っ先に話しかけてきた女子で、それ以来なんだかんだで友達になった。かなりの男たらしで、誰かしらと付き合ってる疑惑が週一ペースで持たれるっていう、いわゆるビ……お騒がせ女だ。


 んで、今回は男子に飽き足らず女子に手を出したってウワサ。当然こいつをイジるネタになるので、容赦なく話題をぶっ込んだってわけだ。日頃の行いやね。


「んなことしてねーっての。どっからそんなウワサが立ったんよ?」


「え〜分かんない、なんかみんな話してたから。種積さん女子もいくんだ〜、って」


「いやこわっ。ただフツーに話してただけだってのに」


 あんたの言う『フツー』は、みんなにとっては『男たらし』なんよ。こっち側からすれば、あんたの方がフツーじゃないわけ。ウワサ立つ時点で自覚しな?


「あっそ。にしても、そんなことでウワサ立つなんて相当やね」


「わかる。マジうっとーしーんよね。でも、ある意味都合いーかも」


 なにそれ。まあ、あれだけウワサが立つようなら『何やっても許される感』はあるのかもしんない。といっても、穂利的にはフツーに生きてるだけなんだろうけど。


「うわ、そのうち痛い目見そ〜。ほどほどにしときなよ?」


「確かに、ワタシと関わるとそのうち萌華もえかまでひでー目に遭うかもね」


「怖すぎでしょ。でもそんなんじゃ友達やめないけどね」


 いくら穂利がビ……お騒がせ女だろうと、うちにとっては高校生活を一緒に、テキトー最高に楽しめる友達なんだ。それに女子高生のバカやっていいうちは、穂利とならいくらでも痛い目見られるし……いや、そりゃ見たくはないけども。


「――ワタシは友達やめてもいーかな、萌華次第だけど」


「は?」


 自分でも驚くほどマジな『は?』が出てしまった。こっちはあんたのこと、友達だと思ってんのに……ん? でも今こいつ『友達やめてもいい』って言ってたよな?

 一応、今の関係は友達って扱いなのか。んでやめる? どういうこと?


「ねぇ、言ってることわけ分かんないんだけど」


「ならヒント。男たらしってウワサのワタシが、なんで女に話しかけたと思う?」


「え? そんなん知らないよ。穂利がフツーに話してただけって言ってたじゃんか」


「えっと、フツーに話してたのはそーだよ? けどさ、なんで話してたのかってのは別じゃん? なんでワタシがわざわざ萌華以外の女と話すんやー、ってこと!」


 穂利が珍しくうちにキレた。ってか、キレてるとこ自体初めて見た。なんか穂利的にはうちが悪いことになってるっぽいけど、分からんもんは分からん。

 説明すんならちゃんと分かるように説明してほしい。そうじゃないなら怒んないでほしい。かわいい顔が台ナシじゃんか。


「だからどゆこと? うち以外の女子とも話したっていいじゃんよ。ホントに手ぇ出してるわけでもなし……」


「ねー萌華。今のワタシら、みんなからどー見られてると思う?」


 なんでそこでみんなが出てくんのさ。うちは穂利としかしゃべってないんだけど。うちは穂利と一緒にいられるなら、別に周りの目なんてどうでもいいし、興味ない。

 そりゃ、悪いようには思われたくないけどさ、フツーに評判よりも友達とるって。


「穂利が良くないウワサ立てられてるから、うちも悪そうに思われてるとか?」


「あーごめん、それはそーかも……ってそーじゃなくて! ワタシが萌華に手を出してるって思われてるわけ。ま、


 穂利は頬杖をついて、気持〜ち下からうちのこと見つめてくる。うわ、あざとっ。

 普段からこういうことやってっから、みんなに男たらしって言われんでしょうが。


「ねーねー萌華ー。ワタシと友達やめて恋人始めてくんねー?」


「……は〜!? なんでうちと穂利が付き合うわけ!? 女同士で!?」


「んなもん関係ねーって。好きな人と付き合いてーから告ってるだけ。ワタシ、実は萌華のことめちゃ好きなんだから。一目惚れってやつよ」


 なんて欲に正直な……まあ、一目惚れされるくらいには顔がいいってことだから、嬉しいのは嬉しいけども。それ言うなら、穂利のが何倍も顔いいけどね?


「そりゃど〜も。え、じゃあさ、入学してうちに真っ先に話しかけてきたのってさ、なん!? 最初に手ぇ出されてたのはうち、みたいな!?」


「……うん。でも萌華ってば全然気づかんのね、フツーに友達として関わってくんだもん。ま、友達として一緒にいるのも楽しーけどさ、やっぱ好きな人とは結ばれてーじゃん? だから三組の子に手を出すフリしたんよ」


 なんか回りくどいことやってんなぁ。まあ、穂利からの好意に気づかんかったうちが悪いんだろうけどさ。

 あの時って、なんて話しかけられたんだっけ? でももう穂利との日常で、記憶の奥底に埋もれちゃってる。掘り返せないくらい、一緒の時間を重ねてんだよな。


 下手に掘り返していくと、無意識に追いやっていた『好き』にぶつかっちゃう。

 あ〜ヤバい、うちって穂利のこと大好きだったりすんの? ずっと『友達用』だと思ってたこの感情って、実は恋人に向けるもんなのかな?


 ――そうやって一回意識したら、うちの脳みそで想いがぱちぱちとハジけた。

 男は仕方ないにしろ……いや、誰にも取られたくない。だってうちの穂利だもん。


「……付き合お。ウワサが立つくらいなら、その相手はうちとがいい」


 あの種積穂利が巻き起こした、最後にして最大のウワサ。その日を境に、みんなからの反応も劇的に変わった。穂利の言ってた『ひでー目』ってやつだ。

 良くも悪くも、うちらはみんなから距離をとられるようになった。うちや穂利のことを狙ってたっぽい男子は全員手を引いたみたいで、今ではうちと穂利がイチャついてる様子をありがたがってる。なんで?


「穂利〜、一緒帰ろ〜?」


「うぃー、なんなら手繋いで帰ったりますー?」


「ます〜!」


 ウワサされても変わってないのは、変わらないのは、これからもうちらだけだ。

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