商売繁盛の神様は人情に弱い

タルトタタン

第一話

 俺は愛山稲荷神社の商売繁盛の神様、名前は狐次郎だ。

お正月になると、みんな願い事をしていく。

参拝者の心の声は、すべて俺に聴こえてくる。


 実は今、俺は化けておじいさんの姿をして参拝者の様子を眺めているのだ。

「 商売繁盛しますように 株式会社▲▲」


人々が願い事をすると、神社の奥で白い紙に文字が浮かび上がる。


(俺達狐は商売繁盛の神様だが、

 実際に願いを叶えるのは天の神々だ……俺たちじゃない)

(ここは意見書みたいなもんさ。月末にまとめて天に提出するだけだ……)


(しかし……)


「 一億当たりますように!」

二十代の茶髪の男が、硬貨をポイと賽銭箱に投げた。


狐次郎は目を細め、若者を睨む。

(お前……さっき十円玉しか入れてねぇよな)

(はぁん? 神様舐めとるんかい?

 十円投資して一億当たると思うか?天の神々の力信じすぎじゃね?)


 若者はそっと目を閉じた。

「来週発表の宝くじに当選すれば……娘の、海外での心臓移植手術ができる……」

「もしダメなら……俺の臓器、どこかで売れないかな」


狐次郎はぎょっとして若者を見つめた。


(なに──!)

(お前……めっちゃいい奴じゃねぇか!)

(臓器売っちゃダメ!)

(来週の宝くじ当選だと?ここは、月末締めだ! 間に合わねぇ!)


( しかたねぇ!超速達、使ってやるぜ!)


胸ポケットから白い紙を取り出し、

「念!」

と指を立てると、文字が浮かび上がる。


――

愛山二丁目

田中真司

来週発表の宝くじ

番号oooooに

一億当選を!

愛山稲荷神社

――


狐次郎はそれを紙飛行機にし、空へ放った。

(当たって、娘さんと幸せになりやがれ!油揚げ今度持ってこい!)


高校生カップルが、冷たい視線を向けて指をさし、笑う。

「あのおじいさん……キモ!」

「忍者ポーズして紙飛行機、飛ばしてた……」

「あはは! ぼけ老人」


(クソッ!他人を馬鹿にする奴の願いは……届けねぇよ!)


カップルの願い事の紙は宙に浮き、『ボッ』っと火がついて、一瞬で消え去った。


───


 次に、黒髪の女性が、千円札を丁寧に賽銭箱へ入れた。


「彼氏が出来ますように!」


(おいおい……ここは商売繁盛の神社だ)

(恋愛成就は部署違いなんだよ……)

(月末に出しても、『部署違う書類入ってる』って、天の神々にだいたい後回しにされるやつだ)


「年下で、眼鏡男子!趣味が同じで……小説家が良い」


(お姉さんよ!なんだよ、小説家って……いねぇーよ!)



「彼女が出来ますように!!」


(おいおい! 後ろの眼鏡!)

(フライングで願い事言うな! 待て待て!)


「黒髪で年上!小説好きがいい!」

「今書いてる小説がベストセラーになりますように!」


(はぁ?)

(眼鏡かけてて、小説家……?)

(黒髪のお姉さん……?)


(お前ら!前後で並んでるじゃねぇか!!)

(すげぇ!!俺、専門外なのに! 恋愛成就の神様みたいじゃん!)

 


(もう、くっつけたろ!)

狐次郎は落ち葉を二枚、

風に乗せて女性の顔元へ飛ばした。


「きゃっ」

女性がよろけ、後ろへ倒れそうになる。


「大丈夫ですか?」


眼鏡の男性が、女性の肩を支えた。

その拍子に、男性のスマホが地面に落ちる。


女性は拾い上げたスマホの画面を見つめ、目を見開く。

「えっ!そのXのアイコン」

「もしかして、小説家の鈴木桜さんですか?」

「えっ……はい、そうです」


「えっ!私……ファンなんです!ずっと」

「……」


狐次郎は、もう一度、少し強めの風を二人の間に吹かせた。

「寒いですね……立ち話もなんですし……近くの喫茶店でお茶でも」

「はい……ぜひ」


狐次郎はニヤリと笑い、二人の背中を見送った。


 ───

 夕暮れ時。

狐次郎は神社の奥へ入っていく。

扉を閉めた瞬間、若い獣人の姿へ戻った。


「……やっと俺たち神様の時間だぜ」

「書類、まとめるか」


(願い事は、鮮明に、明確に願ってほしいぜ……)



───


 一年後。

狐次郎は今度、中年のおばさんの姿に化けていた。

そこへ、茶髪の男性と娘がやって来る。

一万円札を賽銭箱に置いていった。


 あの茶髪の若者だ。

宝くじを三億当て、手術は無事成功し、残ったお金は日本小児医療へ寄付したらしい。


 狐次郎は、二人の背中を温かい眼差しで見つめていた。

(天から、願い事採用通知……ちゃんと来てたぜ……良かったな)

(あと……毎月の油揚げお供えありがとな)


───


 次に現れたのは、どこか見覚えの男女だった。

「赤ちゃんが元気に産まれますように」


(ん?)

(あのあとすぐ付き合って、入籍して……)

(もう赤ちゃんか!おめでとう)


「今月末には産まれるね」

(今月末だと?)  

(おいおい! 末締め、間に合わねぇ!!)


狐次郎はポケットから、白い紙を取り出した。

(安産祈願!? 部署違いだけどな!!)


俺は商売繁盛の神様狐次郎!!


部署が違っても!

人情で天の神々へ届けてやる!!


人間達!幸せになれよ!



『商売繁盛の神様は人情に弱い』


おしまい

 

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