第8話 装嵐と決戦

「凄ぇ! 普段の竜機咆ブレスの、三倍以上の威力だ! しかも同時に五本も撃てる! これなら――ッ!」


 実際には、頭と手足からレーザーを撃ち出しているため、倒れた状態ではそれぞれの部位が撃てる範囲は限られている。しかし、仰向けの大の字に倒れる姿勢のおかげで、ほぼ全方位をカバーできていた。

 視界も旧式とは違い、全周モニタになっている。


 撃って、撃って、撃ちまくる。


 的は壁に開いた穴から次々湧いてきた。

 飛行型は、同じ飛行型竜機ワイバードラーが相手をしていた。的確なタイミングでサポートをする。

 超大型は、いつの間にか消えていた。壁を壊すためだけに召喚されたらしい。


(デカブツは、出しっぱにするのも大変だからな)


 つまり、敵は無数の小型と空を飛ぶ一体だけという状況だ。


(この調子なら――いける!)


 レオンの射撃により、防壁内の敵の数は減少していた。乗り越えて入ってこようとする敵は、その場で撃ち落とせる。穴から入ってくる数より、撃破される数の方が多い。


 もう少し続けば、押し返せそうな雰囲気だった。




 ――しかし。

 突然、レオンの視界が暗くなる。

 引き金を引いても、弾が出ない。


「おいっ、どうした!? 動け、動けよ!?」


 揺すっても、何も反応が無い。


「エネルギー切れよ!」


 外から、リナの声がした。


 レオンは銃座から這い出る。


「あんなバカみたいに撃ちまくって、エネルギーが持つワケないでしょ!?」

「バカみたいってなんだよ、オレは――」


「アンタだったんだ」


 レオンの言葉を遮って、リナが目を細める。


「今朝、西門でヘリャルケーを倒したの、アンタだったのよね?」

「……いや? オレは倒してないけど――」

「とどめを刺したって意味じゃなくてね!? 竜機咆ブレスだけで、身動き取れなくさせてたでしょ!?」

「それは、まあ……うん」


 リナが顔を赤くする。


「恥っずかしい……。私は当の本人の前で、咆撃手について語っちゃってたのね」

「気にすんなよ。勘違いは誰にだってあるさ」


 リナの顔は、普通の女の子みたいだった。先ほどまでの死んだような目が嘘のようだ。


「ずいぶん、元気になったみたいだな」

「おかげさまでね」


 ステラとリナを重ねていたからだろうか。ちょっと前は仇とすら思っていたハズなのに、レオンはリナの回復を嬉しく感じていた。


「お前は逃げろ」


 そう言って、レオンは壁の方を向いた。


「はあ!? 待ちなさい、アンタどこ行くつもりよ!?」

「コイツはもう動けないんだろ? だったら、動くヤツを探す。確か大竜機が一体こっちに来てたハズだ」

「――西門から出撃してたヤツなら、瓦礫に潰されてぺしゃんこよ」


 リナの言葉に、レオンは驚いて振り返った。


「見たのか!?」

「見た――というか、それで動揺して墜とされた」

「そんな、イザムさん……」


 唇を噛み締めるレオンを見て、リナは確信していた。

 朝方、イザムが話していた男――それが目の前のレオンなのだと。


「けどっ、竜機衛士ガンドライダーは集まって来てる! どっかに一体くらい転がってるハズだ!」

「バカ言わないで! それは戦場のど真ん中に生身で飛び込むってことよ!?」

「わかってる」

「わかってない!」


 壁側へ向かおうとするレオンの袖を、リナが掴んで引き留める。


「死ぬわよ」


 その一言で、レオンの足が止まった。


「じゃあ――じゃあ他にどうしろってんだよ! ここで逃げたって、何も変わらないだろ!」


 レオンがリナの手を振り解く。


 パァン!


 リナが、間髪入れずにレオンの頬をはたいた。

 胸倉を掴んで、引き寄せる。


「私のせいで、アンタの妹は死んじゃった――その上、アンタまで死のうとしないでよ!? 悔しいけど、アンタの技術は私以上よ。そんなアンタを見殺しになんてできない。――私が行く。最初に言ったでしょ、アンタは避難しなさいって」


 決意の籠った眼差しで、リナは見つめる。


「放してくれ。――それに、オレは『アンタ』なんて名前じゃない。オレの名はレオン――」


「――、それ」


 リナが、レオンの胸元を見て固まっている。


「アンタ、まさか――」


 胸を掴まれた拍子に、飛び出してしまったらしい。

 レヴァテイン王国の紋章が刻まれたペンダントが。


「貴族の生き残り!? なら、なおさら基地に戻りなさい! 整備部総出で歓迎してくれるわ!」


 ペンダントを見た瞬間、リナの目に希望の火が燈った。

 どうやら、レオンの知らない何かがあるらしかった。


 とりあえず、勘違いを否定する。


「――違う。オレは貴族じゃない」


 その瞬間の、リナの落胆たるや凄まじく、レオンの心臓が鷲掴みにされるような感覚があった。


「ああっ、待った最後まで聞けって! いいか、オレの名前は――」




「――レオン・レヴァテイン」




「つまり、貴族じゃなくて、王族の生き残りだよ」



   ☆



 争いの火種になるかもしれないと、今までひた隠してきた真実を明らかにした。


(――こいつが、希望の種火になるんなら)


 レオンが名乗った後、リナは少し放心していた。

 そして、事実を理解したら腹を抱えて笑い出した。


「ウソでしょ!? アンタ王族なの!?」

「だから、レオンだって」

「アッハハハハ、そりゃ、竜機ガンドラーに乗れないハズよ」

「どういう意味だ?」


 ひとしきり笑った後、リナは急に顔を青ざめさせる。


「待って? じゃあ私、王女を殺しちゃったんじゃない!?」

「お前のせいじゃねぇよ。それで? どういう意味だ?」


 リナは慌てて、気を取り直す。

 小さく咳払い。眼鏡を直す仕草をしてから、解説を始める。


「あのね? 竜機ガンドラーは帝国技術の粋を集めて作ったドラゴンフレームに、王国式召喚術で竜の魂を召喚して動かしてるの。だけど召喚術をまともに理解している人が竜衛機関に居なかったから、正しい手順なんてわからないし、半端な魂しか呼び出せてない。だから半端な、不適正な召喚をされた竜魂がレオン――召喚術の中心も中心、王族であるアンタを見たら、恐れをなしても仕方ないのよ」

「そういう……モンか?」

「そういうモンよ。そして、私たちライダーは今度は竜の力を借りて魂となり、ドラゴンフレームに乗り込むの。そうすることで入力に限りのあるインターフェースを使わなくて済むし、Gの影響もある程度は無視できる」


 リナ・ロストロート。竜衛機関のエースだけあって、座学方面も優秀だった。

 レオンは何を言っているか半分もわかっていない。

 一つ、感じたことは――。


「つまり魂で動かすから、『逆境に挑む者だけを乗せる』ってコトなのか?」

「そういうコトね」


 リナはうんうんと頷いている。


「だから――レオンが召喚しちゃえばいいのよ」

「オレが? 何を?」

「竜の魂を。ドラゴンフレームごと」


 召喚術ってそういうモノでしょ? みたいな顔でリナがレオンを見る。


「できるかな、オレに」

「できるわよ。王族なんでしょ?」

「けど、また乗せてもらえなかったら――」

「何弱気になってんのよ!『竜機ガンドラーは、逆境に挑む者だけを乗せる』のよ! しゃんとしなさい!」


 リナが背中をバンバン叩く。


「お前なぁ……」

「――リナ。私の名前は、リナ・ロストロート」

「知ってるよ」

「なら名前で呼びなさい。お前、じゃなくて」


 レオンが頭を搔くと、生きていたスピーカーから緊急警報が流れる。


『大規模な空間共振反応を検知! 二つ……三つ……さらに反応増加! 囲まれてます~~~~~~!!!!!!??????』


 オペレーターの混乱が実によく伝わる放送だった。


「このままじゃ、マジでレダインが亡ぶわよ」

「そんなの、何度も経験したくないな」


 状況は逆境。


 ――逆境上等。


「言っとくけど、オレ召喚術使うの初めてだからな?」

「ならアドバイスしてあげる。とにかくデカい声を出しなさい。こんな状況なんだもの。声が届けば、必ず竜機ガンドラーは応えてくれる。だって――」

「「『竜機ガンドラーは、逆境に挑む者だけを乗せる』!!!!!!」」




 力の限り、声を張り上げる。




「出ろォォォォォォォォォォォォおおおおおおッッッッッッっっっっっっ、」


「ガンッッッ――――――ダァァァァァァァァァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 振り上げたペンダントが、眩い光を放つ。

 レオンを中心に、地面に幾何学模様が広がり――輝く。

 そこから、力が溢れ出ているのが感じられた。



   ☆



 ――竜衛機関『レッド・メダリオン』 竜機ガンドラー開発・整備部。


「ヤバいヤバいヤバいヤバい!?」

 突然の事態に、語彙力を失った研究員がいる。


「何かわかんないけどドラゴンフレームが光ってます!!!」

 見たらわかることをデカい声で報告するヤツもいる。


「フィードバックレベルオーバーフロー! 検知器ぶっ壊れました!!!」

 足元でコンピューターを弄っていた者は、被害を報告した。


「空間共振反応増大中!!! でもいつもとパターンがちょっと違う!!!」

 敵が飛び込んでくるかもしれないと焦りながら、どこか興奮している人間もいた。


「なんかどんどん光が強くなってるんですけど!!!???」

 非・研究者は、そんな頭のネジが飛んだ人たちに囲まれて怯えていた。


「爆発か!? 爆発してしまうのか!!!???」

 ちょっと期待の混じった声で言うお前はなんなんだ。


「システム落とせ!!!!!!」

「もうやってます!!!!!!」

 手出しすることはできなかった。


「「「「「「うわああああああああああああああああああああああああ」」」」」」



   ☆



 地面に展開された召喚陣は、レオンとリナを魂に変えて空へと打ち上げる。


 直後、それを追いかけるように二体の竜機ガンドラーが飛び出して、二つの光をそれぞれが喰った。




 ――召喚は、成功した。




「《装嵐竜機 ドラスト=マギア》――それがお前の名前か」

「《決戦竜機 デュエランダー》――って、アンタお姉ちゃんを喰った――」


『オレサマは喰っちゃいねえよ! ヒャッハー! 久しぶりに暴れられるぜ!!!』


竜機ガンドラーが喋った!?」

『無論だ。我々は人類よりも知恵ありし竜種なるぞ』

「なんでもいい、お前たちの力を貸せ!」




 ドラスト=マギアには、浮遊能力があった。飛行ではなく、浮遊だ。ゆったりと浮き上がり、上空から戦場全体を見据える。


(――どこから落とす!? 敵が多すぎる!)


 全周モニタをタップして、重点をマーキングしようとする。


『我々を侮るか、人間』


 すると、視界に映るすべての敵がロックオンされていく。


「お前――凄いな!」


 巻き上げた瓦礫が、敵に降り注ぐ。雑魚はそれだけで全滅した。

 ドラスト=マギアの咆撃ブレスは、嵐そのものだった。ヘリャルケーの装甲が紙のように千切れて撃破される。その爆風すら飲み込み、押し流す。




 一方で。


「――なんか落ちてるんだけどっ!?」

『オレサマには飛行能力なんて無いぜ!?』

「なら何ができんのよ!?」

『ぶん殴るんだよッ!』


 リナは笑った。

 正直なところ、それが一番性に合っている気がしたからだ。


 ――着地。地面が放射状に罅割れる。

 その直後から、走り出せた。着地狩りなどさせない速さ。


 地表を砕きながら走り、敵を殴る。蹴る。

 その攻撃は的確に核を撃ち抜き――爆発すら許さなかった。


「――ねえ、何でお姉ちゃんは死んじゃったの?」

『ああ!? オレサマの力不足だよ。シアの操縦についていけなかったんだ。アイツ、マジで無茶苦茶な指示してきてよお……! 全部できてたら、相討ちになんかならなかったんだ』

「……そう、わかった」




 西側の壁の向こうに、超大型が姿を現す。


『おいでなすったぜ!』

『あれが首魁か?』

「さあな……けど、暴れ足りないと思ってたところだ! 行くぞ、リナ!」

「応ッ!」


 ドラスト=マギアがデュエランダーの腕を掴み、一緒に飛んでいく。


 超大型は拳を引いて、また壁に穴を開けようという魂胆らしい。


『オレサマを投げな、ジイさん!』

『年長者は敬え、若輩』


 嵐と化したドラスト=マギアが、膨大な回転の力を乗せてデュエランダーを撃ち出す。大気との摩擦で全身の装甲は赤熱し、紫電を迸らせていた。


 超大型が拳を突き出す。

 デュエランダーはそこへ向けて、自分自身でも複雑な回転を加え――最終的に飛び蹴りの姿勢になった。


『喰らいなァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!』




 ――激突。




 デュエランダーの全長よりも巨大な拳が、弾き返される。


『勝機!』


 姿勢を崩した超大型の足元へ潜るドラスト=マギア。吹き荒れる風が、超大型の軸足を浮かせる。


 獣の吠え声のような叫び声をあげて、超大型がひっくり返る。


「行くよレオン!」

「応ッ!」


 四人(二人と二機)は声を合わせた。


「「『『必ィィィィィィッッッッッッ殺!!!!!!!!!!!!』』」」


「『ロア・テンペストォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!』」

「『グランド・リッパーーーーーーァァァァァァ!!!!!!!!!!!!』」










 爆散。










 衝撃波が、レダイン連合城砦国家の西側半分の防壁を叩く。

 防壁表面は熱で溶け、変形しても、その後ろにある住家は守られる。


 爆発で真空になった空間に、波が引くように空気が押し寄せる。


「終わっ、たか……?」


 レオンが見下ろす大地には、敵影は欠片も残っていなかった。

 ゆっくりと降りて、リナと合流する。


「悪ぃ、オレもう限界――」


 パンッ、と。なんの前触れも無く。二体の竜機は、光の粒子となって消えた。と言っても、消滅したワケではない。元いた場所に戻るだけだ。これを送還という。


 ただ、操縦席に居たライダーは空中に放り出されるワケで。


 落下するレオンの身体を、リナがどうにか受け止めた。


「ちょっと、大丈夫!?」

「もう……無理……。疲れた……限界……」

「ウソ!? 待ってよ、死なないで!?」

「死には……しない……」

「そうなの!?」

「そう……。召喚、術……って、そういう……モン……」

「そう。なら今は休みなさい。が見守っててあげる」


 いや、お前はどっちかって言うと妹だろ――とは言葉にできず。表情だけで抗議した。だが、それも長くは続かない。

 レオンは、リナの膝枕に抗えなかった。


 すぐに、寝息を立て始める。


 穏やかな寝顔だった。

 リナは顔を寄せ、耳元で囁く。


「――お疲れ様。アンタはもう立派な竜機衛士ガンドライダーよ」


 夕日が、二人の影を映し出していた――。




   終わり

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