灼熱の竜機衛士 from: Star Generation

荒咲 木綿

第1話 咆撃と勘違い

 まるぅく、くり抜かれた視界の上半分は青空で、下半分は黄土色の荒野。その中央で、黒い点にしか見えない外敵が蠢いていた。


 ——外敵、で間違いない。


 鳴り始めたばかりの警報が、敵の襲来を告げている。


 竜機咆塔ガンドラーヘッドの銃座で、レオンは舌舐めずりをして、操縦桿を握り直す。

 そして、引き金を引く。微かな衝撃と咆哮のような鈍い音がして、円い視界の上端から光弾が現れる。光弾はみるみる小さくなり、やがて黒点の隣で土煙を立てた。


「外れた……流されたか。ならちょい右の……ちょい下、っと!」


 再び発射。光弾は山なりに飛んでいって——見事、目標に着弾した。


「やるね、レオン君。本当に、バイトにしておくには惜しい腕だよ」

「あざっす! イザムさん!」


 レオンは照準器から顔を外さずに答える。

 続け様に放たれた二発目の光弾が、外敵を貫き撃破した。


「《使徒の一 アンへリアル》を撃破! 竜機咆ブレスだけで!? やるなぁ! けど気を抜くなよレオン君、まだまだ敵は出て来るぞ!」


 レオンの隣で声を上げるのは、いわばバイト先の先輩だ。


(一発目で動かして、二発目で足止め。そんで三発目で——っし、撃破!)


 レオンは二体目の外敵アンへリアルを倒す。


「これなら竜機衛士ガンドライダー到着までは余裕で大丈夫そうだね」


 このバイトは、時間稼ぎのバイトだった。

 というか本来は、見張りがメインのバイトである。十万人が暮らす小さな国——レダイン連合城砦国家を襲い来る外敵から守るための見張り。


 敵と戦うのは、竜機衛士ガンドライダーの役目だ。レオンの役目は、緊急出動までの僅かな時間、敵が近づき過ぎるのを防ぐこと。

 そのために、竜機ガンドラーの頭部だけが固定砲台として城砦の各地に配備されている。


「先輩は、一級隊員なんすよね? なんでこんなバイトやってんすか?」


 外敵を次々に撃ち抜きながら、レオンが問う。


「一言で言えば趣味、かな? 上は見張りなんてバイトで充分って思ってるみたいだけど、俺はこういう仕事こそ大事だと思ってる。それに——君みたいな、熱意溢れる若者を導くのは、年長者の務めだからね!」


 イザムは当たり前のように言うが、レオンは知っている。正規隊員の多くが見張りや咆撃手を見下していることを。だからレオンは、精鋭と呼ばれる一級隊員となってなお、非番の日に見張りをするイザムを尊敬していた。


 不意に、レオンの視界を赤い線が横切る。


「来たあっ!」

「さすが、空を飛べると早いな——ドラグレア」


 赤い尾を引き空を駆けるのは、レダインを守るための組織――竜衛機関『レッド・メダリオン』の誇るエース機だ。

 その名は——紅竜機ドラグレア。


 上空から赤い光線を何条も浴びせかけ、地上を群れる外敵どもを屠っていく。


「かっけぇ〜〜〜!!!」


 その活躍に目を輝かせながら、レオンは心ばかりの掩護射撃をする。ドラグレアの死角から飛び上がった外敵を、撃ち落としただけだが。

 ドラグレアがレオンの方を見た。ハンドサインで感謝を示す。


「えっっっ!? 今のファンサ!? ファンサってやつっすよね!?」

「レオン君は、ドラグレアのファンなのかな?」

当然とーぜんっすよ! 紅くて、強くて、カッコいい! ファンにならない男がいますか!?」


 イザムは愉快そうに笑う。


「ハハハッ、そうだね——、待った。アレは!?」


 雑魚の群れの中から、倍近い体躯の個体が現れた。


「《使徒の三 ヘリャルケー》だ! それも2体も!」

「——強いんすか?」

「本来なら、大竜機二機以上で迎撃にあたる相手だ。ドラグレア一機じゃ荷が重いぞ」


 イザムの言葉通りだった。ドラグレアが、雑魚アンへリアルを蹴散らしながらヘリャルケーへ挑み掛かるが、明らかにパワー不足に見える。光線は足止めにもならず、斬撃を仕掛けてもドラグレアの方が大きく弾かれてしまう。2体いるヘリャルケーの、1体しか押さえ込めていない。


「だったらぁ——っ!」


 レオンがもう一体を撃つ。着弾点が僅かに赤熱するが、すぐに元通りになる。まるでダメージが通っていない。


(けど——注意は引けんだろ!)


 ヘリャルケーは、体を街の方へ向けた。


(よおし、そのままこっちに来やがれ!)


 ヘリャルケーは突進する。近づくにつれ、レオンにもその姿形が見えてくる。概ね人型ではあるが、背中に大きな輪を背負い、両肩が肥大化して怒り肩のようになっている。逆に脚は先細りで、地面から僅かに浮いて滑るように走っている。


(キモッ、いし——速ぇ!?)


 左右に、細い脚が地面を蹴ることで瞬間的にズレる。射線を外してくる。すばしっこく、並の咆撃手には当てられないだろう。


(けどなァ——!)


 しかし、ヘリャルケーの頭部と思しき部位に光弾が直撃した。


(右、右、左——そこッ!)


 連続で当てる。


(動きが単調なんだよ——ッ!)


 光弾をバラまき、相手の動きを制限することでレオンは咆撃ブレスを当てていく。それも、全弾同じ場所あたまに。


 ヘリャルケーの動きが鈍る。


(いまさら怖気づいたのか? 遅ぇよッ!)


 ダメージの蓄積で白熱し始めた頭部を庇おうと腕を上げる。だが、それは視界を塞ぐことでもある。


(まずは脚一本もらいっ!)


 光弾が、ヘリャルケーの細い脚を吹き飛ばす。

 これで機動力は激減した。


(オラオラオラオラッッッ!!!)


 地面に片足を引き摺って、ふらふらと飛ぶヘリャルケーに、吸い込まれるように光弾が命中する。

 無数に。

 連続で。


 そして、遂に。


 ヘリャルケーが、断末魔にも似た叫びを上げた。


 頭部が燃え、背中の輪は割れて、痙攣するばかりになった。

 だが、倒し切れていない。


(ま、ここまでやりゃあ――)


 そこに、ドラグレアが颯爽と飛んで来て、腕のブレードを突き立てる。

 飛び去った直後、ヘリャルケーは爆発した。


 爆風と地響きが、まだ離れているハズのレオンのところまで伝わってきて、外敵の強大さを改めて実感する。

 点にしか見えなかったアンへリアルでも体長10m超、ヘリャルケーはその倍だから20m以上だ。どちらも、生身の人間では太刀打ちできない。奴らは人類にとって、脅威となる存在だ。


 その後は、ようやく駆けつけた他の竜機衛士ガンドライダーたちがアンへリアルを掃討した。



   ☆



「ドラグレア、カッコ良かったっすねぇ〜〜〜!!!」

「うん。さすがは我らのエース様だ」

「オレもいつか、イザムさんやドラグレアの衛士ライダーみたいになれますかね?」


 照準器を外し、後片付けをしながらレオンが尋ねる。バイトを上る時間だった。


「なれるさ。竜機咆ブレスの腕だけなら、もうすでに俺以上だし——そうか、今日は入隊式だったね。レオン君も、晴れて竜機衛士ガンドライダーの仲間入りってワケだ」


 レオンが銃座を離れると、入れ替わりにイザムが席に着く。

 照準器を構えたところで、思い出したように言う。


「そうだ。入隊式の前に、訓練用竜機——未来の相棒を選ぶと思うけど、あれ早い者勝ちだから。急いだ方がいいよ? 後は俺やっとくからさ」

「マジっすか!? 妹に顔見せたらすぐ向かいます!」


 レオンは慌てて上着を羽織る。

 イザムが着ている上着と同じデザインで、まだ新品の『レッド・メダリオン』の隊服だ。


 照準器を覗きながら、イザムは言う。


「最後に一つ! 忘れてないよね。『竜機ガンドラーは——」

「『——逆境に挑む者だけを乗せる』! わぁーってますよ! じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」



   ☆



 レオンが出て行って、すぐ。

 コツ、コツと乾いた足音がイザムの耳に入る。見張りを続けたまま、声を掛ける。


「次のシフトの人——じゃないね。その訓練された足音は——」


 ふっ、と顔を綻ばせて、イザムは来客に向き直った。


「久しぶりだね。リナちゃん。今はリナ特級隊員、と呼んだ方がいいのかな?」


 イザムの前には、紅のパイロットスーツの上に隊服を引っ掛けた、小柄な女性が敬礼していた。


「いえっ、先輩にそう呼ばれるのはくすぐったいので、やめてください。お久しぶりです、イザム先輩♪」

「紅竜機ドラグレアの相棒ライダー、『レッド・メダリオン』のエースがこんなところになんのようだい?」


 リナと呼ばれた彼女が照れ笑いをすると、彼女の赤みが強い金髪が揺れる。後頭部に一纏めにされ、花が咲くように四方八方へ跳ねているからだ。


「先輩に、改めてお礼を言いたくて。今日の入隊式、私がドラグレアで展示飛行します」

「凄いじゃないか。さすが、我らがエースだ」

「やめてください……。私がここまで来られたのは、先輩のおかげです。お姉ちゃんを亡くして、絶望のどん底にいた私に、道を教えてくれた」


 リナの言葉に、イザムは下を向いた。一度、唇を強く引き締めて、訊く。


「目的は、変わってないのかい?」

「——はい。お姉ちゃんを喰い殺した竜機ガンドラーに復讐する。私はそのために衛士ライダーになったんですから」


 イザムは顔を上げる。リナの瞳は、初めて会った時のまま、まだ暗闇を見つめていた。

 己の不甲斐なさを痛感しながら、イザムは話題を変えた。


「君が来るって知ってたら、レオンを引き止めたんだけどな」

「レオン? 誰ですか、それ?」

「バイトの子でね、君のファンなんだ」

「ふぅん……。無責任ですね、引き継ぎもせずに帰っちゃうなんて。バイトも先輩目当てなんじゃないですか?」


 リナの顔に、少しだが表情が戻った。笑顔ではないが、それでも無いよりはずっとマシだ。


「そんなことないさ。妹思いのいいお兄さんだよ」

「あっ」


 リナは思わず声を出してしまった。


(レオンって、そりゃ男の子か……。いやでも、油断はできない! 男同士でもあり得るって、教官も言ってたし!)


「それに、彼は俺が帰らせたんだ。彼も今日は入隊式だからね。早く行って、いい相棒を探せって」

「そう、ですか。……でも、本当に妹を思うなら、竜衛機関こんなところに入るべきじゃないですよ」


 リナは拳を震わせた。置いていかれた妹の気持ちは、嫌というほど知っているから。


「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれないよ?」


 イザムが笑いかけるが、今のリナには届いていない様子だった。


「私、そろそろ行きますね。展示飛行の準備があるので」

「うん。また、いつでもおいでよ。機関の中では難しくても、ここなら大丈夫だから」

「ありがとうございます、先輩」


 去り際に、思い出したようにリナが言う。


「そうだ。もう一つ、お礼がありました。先輩が背中を守ってくれるおかげで、私は安心して戦えます。今日も、ヘリャルケーを竜機咆ブレスだけで大破させて——お見事でした。いつも、ありがとうございます」


 言い捨てて、走り去ってしまった。


「それ、俺じゃないんだけどなあ……」


 訂正は、届きそうになかった。イザムは苦笑しながら、見張りに戻る。そろそろ交代が来る頃だ。




 一方、駐機させたドラグレアへ向かうリナは、駆け足をしながら、紅潮した頬を扇いで冷ましていた。

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