マグラ

みのりんご

マグラ

 ついに、最後のツキノワグマを仕留めることに成功し、自衛隊の掃討作戦は完了した。


 五年前から爆増した、クマ被害。

 農作物荒らしはもちろん、人が襲われる事件も多発した。

 年々増え続けるクマ被害に痺れを切らした日本政府は、ついにツキノワグマ掃討作戦を展開する。

 あるインフルエンサーの「クマが絶滅して、なにか困るんすか?」という発言も、一般大衆におけるツキノワグマ掃討論に拍車をかけた。


 一部の生物学者らはこれを批判したが、日本の九十九パーセントがツキノワグマ掃討作戦に賛成しているいま、それを止められる者はいなかった。


 大規模な駆除作戦が開始され、生物学者たちは泣く泣く処分されるツキノワグマの標本を未来へ残そうと努力した。

 その時、箱根町で駆除されたツキノワグマから、専門家でも首をかしげるような胃内容物が発見された。だが、その報告書は、他の無数の駆除記録に埋もれていった。


 そしてついに、ツキノワグマは絶滅した。


 ――――――


 マグラ出現!


 箱根山から突如として現れた怪獣マグラは、逃げ惑う人々を容赦なく襲い始めた。

 ひとり、またひとりと人を食べるたびに、マグラはわずかに大きくなっていった。

 ガラスの森美術館では、食われた人の血飛沫が美しいアートのように彩られていった。


 ついにマグラは、体長五十メートルにまで巨大化した。

 それでもなお、巨大な前肢で人々をつまみ上げて、咀嚼し続けた。それに伴い、マグラはまた少しずつ大きくなる。


 日本政府は非常事態宣言を発し、自衛隊を出動させた。

 マグラ掃討作戦である。


 マグラは箱根を蹂躙した後、小田原へ向けて歩み始めた。逃げ遅れた人は全て捕食している。先程よりも、また五メートルほど大きくなっていた。


 自衛隊は、小田原でマグラを迎え撃った。

 一〇式戦車が次々と攻撃を開始する。

 マグラは少し仰け反り、ダメージを受けたように見えた。だが、致命的な傷を負うには至らなかった。戦車を一台ずつつまみあげ、中の隊員たちを貪りはじめる。


 小田原作戦が失敗したことを受け、ついに米軍が出動。

 マグラに向けた、絨毯爆撃が展開された。逃げ遅れた地域住民を巻き込むかもしれないが、米軍は、そんな日本政府側の意見などガン無視して、情け容赦のない無差別攻撃を行った。

 絨毯爆撃を含む、米軍の総攻撃により、とうとうマグラは死亡した。


 ――――――


 箱根・小田原を恐怖のどん底に突き落としたマグラは、一体なんなのか?どこから来たのか?科学者たちは、こぞってマグラを調べ始めた。


 ある生物学者は、マグラの体細胞に注目した。

 彼は、同じような構成をした細胞を、なにかの論文で見かけたことを思い出す。

 様々な研究論文を孫引きし、ついにその細胞の正体を突き止めた。

 それは、かつて箱根町で駆除されたツキノワグマの胃から出てきた内容物の細胞と、全く同じものだったのである。


 ――――――


 同じ頃、マグラが出現した箱根にある芦ノ湖の湖底から、後に「ネブラ」と呼ばれる怪獣が、水面へ向けてゆっくり泳ぎ出した。

 かつて、ネブラの存在を抑え込んでいたものは、すでにこの世界から消えている。


 ネブラは、これから見ることになる新しい世界に、胸を踊らせていた。

  

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