手を繋ぐ

ritsuca

第1話

 はじめにそいつを認識したのは、手だった。

 少しばかり特殊な事情を持った子どもばかりを集めた楽園がくえんで、わかりやすい「事情」がないのは異質だ。「ない」ことが「事情」ではあったのだが、そんなこと、当の本人と大人が知っていても、周りが汲んでくれるなどということもなく、ただただ距離を置かれた。

 何度目かのクラス替えと席替えを経て、文字通り俺の前にそいつは現れた。

 学校というのは兎角配り物が多い。全寮制の楽園がくえんでも、保護者へのプリントはなくとも生徒へのプリントは毎日コンスタントに配られていたもので、前後の席ともなれば色々なものを渡し、渡される機会は日に何度もあった。

 前の席から俺にプリントを渡すときは、普通だった。むしろ、これまで前の席に座ったやつらと比べれば、随分とフラットに接してくれている、と思った。

 問題は、後ろから前にプリントを回すときだった。嫌そうな素振りを見せるとかではない。わざと取り落とすでもない。ただ一拍、間をおいて、それからそっと、端の方の本当にギリギリの部分を持つのだ。

 あまりにも気になって、席替えで席が離れてからもちらちらと様子を見ていた。誰に対しても同じように、受け取るときだけ一拍おいて、そうして用心しいしい、中指と親指で摘むように持ってから残りの指で受け取る。

 それが彼の「事情」なのだろうな、というのは、なんとなくわかった。難儀しているようだな、とも思ったけど、それくらいだ。

 それから何年か経って、高等部に上がった。初等部、中等部の間は寮は四人部屋だし似たような「事情」の持ち主同士で集められる。高等部と大学は、同じ性別で相性の良い同士、二人部屋になる。好い仲になる奴はなる、ならない奴はならない。

 それで、同室がそいつだった。高等部に上がると段々自分の身の振り方も考えられるように、「事情」の活かし方や何かを教わる授業なんかも増えてくる。中には、同室同士で受ける授業なんかもあるんだが、まぁ、大変だった。たぶん、下から数えたほうが早かったんじゃないか? 中々腹を割って話せなかったし。

 それでも、今はこうして一緒にいたりいなかったりする。そいつ……ってのはまぁつまり、君にとってのおじさんのことだけど、そいつもちゃんと医者としてやってけてる。だからまぁ、そんなに怯えなくて良い。

 ん、そうだな。もう寝よう。おやすみ。


 あぁ、もう寝たよ。春から楽園がくえんに通うんだって? 子どもだけで泊まりに来たから、隠し子でもいたのかと思って、いもしない相手に嫉妬した。

 はは、知ってるって。お前そんなに器用じゃないもんな。あー、こら。口寂しいなら、下で呑み直そう。な?

 ん。……なぁ、手を繋げる、って、いいな。

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