私達の言えない秘密

萎レモン

第1話 きっかけ

『…結野真衣です』


『…申し訳ないけど私にはあまり関わらないで欲しい』


『…貴方には関係ないでしょ』





〈佐藤〉


「HRの前に…転校生を紹介する」


その言葉に教室中が一気にざわめき出す


「転校生ってどんなのだろーね?男?女?」


「女…だといいな」


「えー?!私は男がいー!」


「どっちだろうね」


そんな友人達の会話に僕は心の中でぼそっと返す


(女…って実は知ってるんだけど)


「入ってこーい」


そう話しているうち“彼女”が先生に呼ばれ扉を開け、黒板に名前を書く


結野真衣むすびのまいです、よろしくお願いします」


そう形式的に自己紹介する彼女を僕はすでに知っていた



きっかけは父親の再婚


出張先で同僚の女性と気が合い、飲みに行ったとかでそのままなし崩し的に一線を越えそのまま付き合うことになった…らしい


元々結構前からそうなっていたらしく今回こちらに帰ってくる折に結婚しようと父親からプロポーズしたんだとか


そうして一緒に住むことになったのだがその女性にも連れ子がいた


それが“結野真衣”さんだった



「空いてる席は…佐藤の隣だな。色々教えてやってくれ」


そう言われ結野さんはざわめきの中しずしずとこちらに近づき、席に掛ける


「あの、よろしく」


「…よろしく」


すでに家で数回すれ違っているが基本無言なのもありどことなく気まずい


もちろん先生には事情を話している。だからこそ隣の席になった…してくれたのだろうし、多分


そんな気まずさの中、ただ時間だけが過ぎて行きHRが終わる


「んじゃ、今日も頑張れよ」


先生が出ていくや否やクラス中が結野さんに注目を浴びせる


「結野さんってどこから来たの〜?」


「彼氏っている!?」


「結野さんさ、ウチらと話そーよ」


「クラスニャイン入ってよ!」


皆がそれぞれ思い思いに話題を投げかける


「ごめん、ちょっとトイレ行かせてくれないかな…?」


そんな興味の矛先を折り結野さんはそそくさとトイレへと立ち去る


「結野さん綺麗だったねぇ!蒼太そうた、彼女にどーよ!」


「彼女なんかいらないって…ゆうはどう思った?」


その行き先をぼーっと見ていると前の席から友人の蒼太としずくが話しかけてくる


「…まぁ綺麗だとは思ったかな」


「ひゃー!美人さんは大変ですなぁ!私もだけど!」


「誰がだよ誰が」


「ひっどー!化けて出てやるからな!」


「なんで死んでんだよ、生きろ」


「そなたは美しいって?」


「やっぱ美人だと思ってんじゃーん!このこの〜」


「言ってねぇよ」


そんな会話の中、僕は頭では彼女に学校ではどう対応すべきなのかを考えていた





〈結野〉


「はぁ…」


教室の喧騒を離れトイレの個室で一人ため息をつく


正直人付き合いは苦手だ


他人はもちろん家族…たとえ血の繋がった人のことでさえ完全には理解出来ないのにどうして皆、人と関わりたがるのか


私にはそこからもうわからない


「…っと」


ポケットに入れていたスマホで時間を確認する


(もうちょっとで予鈴鳴る…戻らないと)


暗い思いを胸に個室の鍵を開け、外に出る


(家族…といえば)


ふと佐藤くんの顔が浮かぶ


先生の配慮なのだろうか、隣の席になっている“家族”…の存在にも頭を悩ませながら私は教室に向け足を運ぶのだった





「あっ、結野さん帰ってきたよ!」


ドアを開けると予鈴が鳴ったにも関わらず私に注目が集まる


転校生という珍しい立場なのもあり、そりゃそうかと思う反面やはりどうにも苦手意識が出てしまう


なるべく皆に気取られないように違和感のない笑顔を作る


「ごめんなさい、急に出て行っちゃって」


「大丈夫大丈夫!それよりニャインやってる?」


「いや…前の学校だとあんまり友達いなかったからやってないかな」


なら今スマホにアプリ入れちゃおうよだとか一番に連絡先交換するのは俺だとか自分勝手な意見が飛び交う


嫌々ながら周りの雰囲気に合わせて適当に会話していると一限の数学の先生が教室に入ってくる


「おい、何集まってんだか知らんが授業もう始めるぞ」


ただ淡々と仕事をこなそうとしているおじいちゃん先生の声に各々が自分の席へと戻っていく


そうして私も自分の席に戻る中、それでも尚こちらに向いている視線を感じ隣の席を一瞥する


やはりと言うべきか佐藤くんが私を見ていたようで一瞬目が合い瞬時に逸れる


家で何回かすれ違っているのだから今更物珍しさもないだろうに何故見ていたのだろうと少し疑問に感じつつ鞄から授業を受けるのに必要な道具類を漁る


そうしてノート、筆箱と次々に出していきとある異変に気付く


…教科書がない


誰かに盗まれた…なんて訳もないしおそらく家に忘れてきたのだろう


面倒くさいけど先生に伝えよう、そう思っていると隣から机をトントンと小さく叩かれる


「…何?」


「もしかして教科書ない…?」


「ん…まぁ…」


「じゃあこれ、良かったら一緒に…」


そうして佐藤くんはおそらく今日の範囲であろうページを開けてくる


「…ありがとう」


学校なこともあり断り辛く渋々それを受け入れる


家で「関わらないで」と言った手前少しの気まずさを感じる中、私達はただ黙々と机の間に置かれた教科書を見て授業を受け続けるのだった





「はぁ…疲れた…」


二階の自室に帰ってきて部屋着に着替えた途端、いの一番にベッドに横になる


結局あの後も休み時間になった途端毎回人が密集し口々に話しかけてきた


その度に笑顔を作り雰囲気に合わせ話題に乗っていると流石に疲れが溜まってしまう


そうして数分寝転がっているとだんだんとある欲求が高まってくる


(…アレ、やろうかな)


そう思い立ちベッドから起き自室のクローゼットの下にある大きな段ボールに手をかける


そこにはいつも通り縄の束とガムテープ、そして布が何枚か入っていた


(今日は…テープにしようかな)


きっかけは前の父親の部屋で見つけたとある本


ろくに片付けもしない彼の部屋を代わりに掃除していた時に見つけたそれには拘束、緊縛された女性が大勢載っていた


当時中学生一年生だった私はそういうものにもなんとなく興味が出始める頃だったこともあり、それから目を離せなくなってしまった


その本はろくに管理もされておらず自分の部屋に持っていっても気付かれていなかったようでそれとネットで知識を得て、こうして自縛趣味になるまで至ったのだ


…とはいえ脱出困難になっても困るので簡易的なものしかしたことはないのだが…


「…っと」


道具を用意した後、スマホをスタンドに置き固定し録画を開始したら準備は完了だ


まず、口に布を一枚詰めその上からテープを貼る


その後テープを長めに切り取り何回か服に貼り付けて剥がすのを繰り返し、粘着力を弱くする


そうしたテープをゆるく両手首の下辺りへと纏わせ腕をひとまとめにする


剥がそうと思えば簡単に剥がせるが後から録画を見ると意外と様になっていたりする


試しに腕を振ってみたり弱く力を入れてみたりするがガムテープはびくともせず私の腕を固めている


なんとか拘束から逃れようという思いでガムテープへ向けて指を伸ばそうとするが当然届くはずもなくただパキ…パキ…とそれがひしゃげる音がするのみだ


そうした音や不自由さを味わう度に自分が“囚われの身”になっているという実感が身体中に伝わりゾクゾクと言いようのない感覚に襲われる


そうして一通り楽しんだ後に録画を止め腕にしっかりと力を入れてガムテープを外す


そしてその動画から顔が見えていない部分をいくつか切り抜き写真として保存した後、少し吟味した後にSNSアプリを開き自分のアカウントにログインする


(あ…前の投稿いいねついてる…)


そんなことを思いながらいつも通り無言の投稿に4枚写真を載せインターネットに放流する


フォロワー数は37人、見られて昂る…なんてことはないがこの人達は私を見てくれているのだと思え少し心の支えになっている


(今…何時だろ)


アプリを閉じ時間を確認する


(あと一時間半で晩御飯…というか今日の当番私か)


引っ越し初日に適当に決めたご飯の当番


同じ会社で働いていることもあり両親共々深夜に帰ってくるのが普通なので曜日によって佐藤くんと交代でご飯を作っている


(豚肉とキャベツと…あと何があったっけ…)


そう冷蔵庫の中身を思い返しながら先ほどまでののことを忘れキッチンへ向かうため階段を降りるのだった





あれから一週間が経った


クラスメイトの問答に全てのらりくらりと対応した結果皆の態度は当たり前に冷ややかなものに変わっていった


「でさー……ヤバくない…」


「鳴瀬……そう……マジマジ…」


興味関心が薄れ関わってこない者


「うん……え…そうなの?…」


「らしいよ…あっやば…こっち見てる…」


こちらを見てヒソヒソと何か話している者


「結野さん放課後遊びいかねすか?俺ずっと話したいなって思ってて〜」


下心を隠そうともせず接してくる者


「ごめんなさい、今日は予定があって…」


「えーマジ〜?次いつ空いてます?」


「それが結構埋まっちゃってて…」


(…なんて嘘だけど)


「ふーん…そっすか」


いわば一時のブームであり、それが過ぎればただの絡みづらい人


転校生なんてそんなものだろうし私自身が避けているのでこうなるのも当然だ


もちろん今の状況が凄く心地良いというわけではないが人と関わるのよりはずっと良い


…ただ唯一変わっていないことといえば佐藤くんのあの態度だ


あれ以降、味を占めたのか事あるごとに関わってくる


次の授業は移動教室だとか雨の日に折り畳み傘を貸してくるだとか


それだけならまだしも最近はお昼一緒に食べないかだとか明らかに必要のないことにも関わってくる


それも学校…人目のあるところでばかり接してくるのでその度にある程度丁寧に対応しなければならず少し面倒だ


(なんでそこまで私に関わってくるんだろう…)


ふとそんな疑問が湧いてくる


それに私から追及しなければおそらく彼はいつまでも今と同じように接してくるのだろう


(今日の晩御飯の時、聞いてみようかな…)


そう思いながら私は授業のある残り数時間をいつも通りに過ごすのだった





「…」


「…」


いつも通りリビングで互いに無言で晩御飯を食べ終わり食器を台所に持っていく途中、あの件について聞いてみる


「…最近学校で話しかけてくるよね」


「…うん」


「初対面の時、私には関わらないでって言ったはずだけど」


「…ごめん、でも困ってそうだったから」


「お昼ご飯一人で食べるのって困ってるって言う?」


「う…」


「何か目的でもあるの?」


「えっ、と…」


「言い淀むってことはあるんだよね」


「…」


「…言いたくないならもういいけど。迷惑だから」


「…それだけ。じゃあ」


「待って!」


その言葉に一応、自室に戻ろうとしていた足を止める


「…何?」


「確かに結野さんの言ったこと、気持ちを無視してた。ごめん」


「でも…友達になりたい」


「…なんでそこまで私に執着するの?」


「…仲良くなりたいから」


「答えになってない」


「……辛そうだから」


「…は?何?」


「ただでさえ引っ越して慣れない場所だし」


「それに勘違いだったら申し訳ないけどクラスメイトと話してる時の顔、笑ってるけど少し辛そうだったから」


「…佐藤くんもそのクラスメイトの一人なんだけど」


「だから“クラスメイト”じゃなく友達になりたい」


「結野さんの拠り所…なんて上から目線で図々しいと思うけど、せめて辛い顔はしてほしくないから」


「でもごめん…結局結野さんに嫌な思いをさせてるんだったら同じだった」


「だからもう…」


「……わかった」


「え…」


「友達…ってのは正直まだだと思うけど…私も頑張ってみる」


「…っ!ありがとう」





自室に戻りベッドに横たわる


「…」


『それに勘違いだったら申し訳ないけどクラスメイトと話してる時の顔、笑ってるけど少し辛そうだったから』


一瞬、どきりとしてしまった


今までも中学や前の高校で無理矢理関わってくる人は何人かいた


大抵は遊びの人数合わせだとかヒーロー気取りのお調子者だとかで私のことなんて何も考えていない人ばかりだったし私が拒絶するとすぐに離れていった


…それに無理してるって気付かれたのも初めてだったな


(…少し信じてみてもいいのかな)


私はそんな少しの期待のような思いを胸にスマホで寝るまでの暇つぶしをするのだった

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私達の言えない秘密 萎レモン @Saltlemon7140

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