魔法の使えない魔法少女、物理に特化する
しいな
第1話 魔法少女の勧誘と勧誘
ビチャッ
水のような音が混じった、低い音。
目の前に広がる濁った赤色。
「あ、あぁ……」
毛が赤に染まった白くてふわふわとした生き物は、目を見開きながら少しずつ後ずさりする。
「……ね、妖精さん。私、これでなれるね!魔法少女!」
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「キミ、魔法少女になってみない?」
高校からの帰り。
普段は人通りなんてほとんどない薄暗い道。
白くてふわふわな妖精が現れ、一言放った。
初めは幻聴かとも疑った言葉。
「私、が?」
何か言わなければ、と咄嗟に絞り出した言葉。
声は今までにないくらい出にくく、震えている。
「もちろん!キミには素質がある!」
瞬間、心臓がドッと跳ねる。
夢のようだった。
胸の高鳴りは落ち着くことを知らず、顔が熱かった。
「やります!やらせてください!」
反射的に出てきた言葉。
小さな頃からずっと大好きだった。
ずっと憧れていた魔法少女。
魔法少女に、ついになれる。
小さな頃の記憶がフラッシュバックする。
暴れた魔物から助けてもらった、魔法少女との大事な大事な記憶。
そこからずっと、魔法少女のキラキラにあてられて取り憑かれたように魔法少女を追いかけた。
本をボロボロになるまで読んだ。ネットで情報を集めまくった。
私の、念願の夢。
YES以外、返事は考えられなかった。
「本拠地までもうすぐだよ」
妖精はふわふわと飛びながら、ゆっくり移動する。
(かわいい……)
魔法少女の本拠地へ移動中。
2人とも、高いテンションで話す。
「はぁ、いい返事をもらえてよかった。キミには他には無い、特別な才能がある!」
(この子なら、ボクの成績を良くしてくれるに違いない!)
妖精からは安堵の様子を感じる。
「こちらこそ……!ずっと憧れてた魔法少女になれるなんて!」
そう言いながら、頬に手をあてる。
外からみても伝わってくる興奮。
「魔法少女にはどうしても危険が付きまとう。だからみんな中々OKしてくれないんだよね」
「私は全然大丈夫です!」
そう言い、ニコッと笑う。
(ああ、ここが人通りの少ない道でよかった!こんな所を人に見られたら、笑われちゃう)
「そういえば、自己紹介がまだだったね!ボクはアル・ブラン。好きに呼んでくれていいよ。それと、ボクに敬語はいらないから!一応魔法少女の方が立場は上なんだ」
(へえ、魔法少女の方が上なんだ……)
意外だな、と少しモヤモヤしつつ自己紹介を始める。
「私は春野日和。高校2年生!よろしくね、アル」
自己紹介を済ませ握手をかわす。
ふわふわで、小さい可愛い手。
魔法少女の相棒……
じわじわと、少しずつ実感が湧いてくる。
(早く着かないかな)
なんて思いながら、走り出したい衝動を抑えてゆっくりと本拠地へ向かった。
そこから少し歩いて、本拠地に到着した。
「ここが……魔法少女の本拠地……!」
大きくて、堂々と建っているビル。
写真で何度も見た、見慣れた憧れの場所。
「あ、ちょうど魔法少女が出動するところだ」
そう言い、アルは上を見上げる。
日和も上を向くと、最上階から魔法少女が箒で飛んで行った。
「かっこいい……」
「キミももうすぐあんなふうになれるよ!」
日和は目を輝かせる。
(そうだ、もうただ憧れているファンじゃないんだ)
「さ、行こうか」
流石の日和も緊張しながら、足を踏み入れた。
エレベーターに乗り、目的の階まで向かっていると魔法少女とその相棒の妖精が乗ってきた。
金髪ウェーブの、優しい雰囲気の魔法少女。
綺麗で大人びた雰囲気は、いかにもベテランという感じだ。
(ほ、本物……!近い!これは私服かな?貴重だ)
アルはなぜか気まずそうな顔をして黙りこくっている。
バレないようにチラチラと見ていると、ベテラン魔法少女はこちらをじっと見てくる。
(やば、見てたのバレた……?)
「見ない顔ね。あなた、新人さんかしら?」
日和は急に話しかけられ、焦りを隠せない
「は、はイっ……!」
(声裏返った……)
「ふふ、そんな緊張しないで。大丈夫よ。試験頑張ってね」
チン、とエレベーターが到着し、ベテラン魔法少女達が降りていく。
「……試験って?」
気まずそうに俯いていたアルは顔を上げ、答えた。
「あ、ああ。言い忘れてたね。魔法少女になるためには魔物を1匹倒す試験をクリアしなきゃいけないんだ」
それを聞き、一気に緊張感が高まる。
日和の気持ちは不安で包まれた。
「まあ大丈夫さ。誘われる時点で元々素質がある。形式上のもので、これで落ちた子なんていないから」
日和は胸を撫で下ろす。
「良かった……魔法少女になれないかと」
「大丈夫!さあ、行こう」
廊下を少し歩いていても、すれ違うのは妖精ばかり。
「着いた、ここだよ。ここは妖精の事務所。ボクの上司に口頭で伝えたらいいだけだからすぐ終わるから、少しここで待っててね」
「わかった!」
人間は入れないのか、とガッカリしながら廊下で待つ。
すると、エレベーターの方から人間と妖精が歩いてきた。
「すぐ済ませてくるわね!」
「はぁーい」
妖精の方は事務所へ入っていき、人間は同じく廊下で待たされていた。
艶のあるメッシュの入った黒髪に、ダボッとした服装。たくさんのピアスと長い爪。
(サブカルな雰囲気……かっこいい人だな。同じ新人さんかな?)
そんなことを思っていると、あちらからも話しかけてくる。
「ねえねえ、もしかして今日からの新人?あたしも新人なんだよねー」
「私も!」
気だるげな話し方で、飲み込まれそうな気になる。
「まじぃ?うれしー。仲良くしよーね」
「こちらこそ!」
友達ができた!とはしゃいでいると、アルが何かを持ちながら戻ってきた。
「やあ、おまたせ。変身キットも貰ってきたから早速行こう」
やっと、やっとなれる!
日和は急ぎ足で妖精の方へ向かう。
「じゃ、またね!」
「またねー」
軽く挨拶を交わし、その場をあとにした。
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「あ、名前聞き忘れた」
2人の背中を見ながら言う。
「……まあ、いいか。また会う気がするし」
すると、こちらの妖精も出てきた
「おまたせ。さあ、いきましょう。」
「あーい」
「……あら、あの子」
妖精は2人の方を見ながら言う。
「あ、あの子新人なんだって。友達になった」
「ああ、それはよかったけどそっちじゃなくて……あの妖精、成績万年最下位の子なのよね……大丈夫かしら」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日和たちは、屋上へ到着した。
「これはどうやって使うの?」
平静を装うが、手は指の先まで震え、気を抜くと変身キットを落としそうだ。
「真ん中のスイッチを押せば大丈夫だよ。あとは変身キットがキミに合う服を自動で作ってくれる」
さあ押してみて。
アルに催促され、思い切ってボタンを押す。
「な、なに……?!」
服がパッと消え、光に包まれる。
「大丈夫!魔法少女の衣装が形を作ろうとしてるところだ」
(魔法少女は身バレ防止で変身を見せてくれないからな〜……新鮮……!)
変身を自分の目で見れることを噛み締める。
隅々まで目に焼き付けていると、次第にポンッと軽快な音が聞こえてきた。
それと同時に、光っていた体の一部が可愛い衣装へと変わる。
最初に髪の毛。
可愛いサイドテールに、ハートと花の髪飾りが光る。
次は靴。
高いヒールの真っ白なロングブーツがカツっと音を鳴らす。。
最後に洋服。
フリルが贅沢に使われた、可愛い白とピンクのワンピース。
「わ、可愛い……!!」
「変身キットは本人の好みと合う衣装を仕立ててくれるからね」
魔法少女の王道のハートがメイン。
1番好きな花のマーガレットがサブ。
この2つが散りばめられた洋服は、確かに日和の好みドンピシャだった。
「すごい!」
感心して変身キットを見ると、いつの間にか変身キットはステッキへ変形していた。
可愛い羽とハートのついた、スタンダードなステッキ。
「これで魔法を放つんだよ」
知ってる。
よく、知ってる。
自作も試みた。
本物の感覚を確かめるように、ギュッと握りしめる。
「さ、箒へ乗って出発しよう。乗り方は……」
「大丈夫」
説明を聞くことなく、迷うことなく、ステッキの柄の底を叩いた。
パッと空中が光り、箒がふよふよ浮きながら現れる。
「よく知ってるね」
日和は自信満々に言う
「まかせて!魔法少女はずっと憧れだったから……隠された情報以外、何でも分かるよ」
アルはふ、と軽く笑った
「なるほど、頼りになるね。それじゃ、行こうか」
「うんっ!」
勢いよく返事をし、浮いている箒を手に取る。
そして箒へ跨り屋上から飛び出した。
「普通は飛ぶのにも凄く勇気がいるのに……キミは本当に素質がある」
アルは横で一緒に飛びながら話しかけてくる。
(さっき歩いてた時は遅かったのに、こんな早くも飛べるんだな)
「よし、飛しちゃうよ!」
アルが早く移動できると分かり、スピードを上げて現場へ向かった。
現場へ到着して一目見た瞬間わかった。
道路の真ん中に存在する真っ黒で大きな球体。
そこから遠ざかるように逃げる人間。
あそこにいるのが、私の敵。
「あれは自分の空間を作るタイプだね。球体の中に本体の魔物がいる」
「そういうタイプは……入ってOK!」
「流石!」
咄嗟に判断し、風を切りながら球体の中へ突っ込む。
アルもそれへ続く。
トプッ
水を一瞬通り抜けたような感覚。
日和は球体の中に入った。
中はどす黒いのに明るくて、ドロドロと至る所が溶けている。
「あれが、本体……」
球体の中心にいる、人が溶けて融合したようなもの。
「キミなら知ってるね、魔法の出し方」
「もちろん」
ステッキを敵の方へ向ける。
そして、願う。
魔法、発動!
「……で、ない……?」
本来なら爆発音が聞こえてもおかしくない。
だが今は、静寂がこの場を包む。
「これは……」
静寂を破ったのは、魔法ではなくアルの声だった。
もう一度相手へステッキを向ける。
それでも、魔法は発動しない。
「……なんで、……いやだ」
もう1回。
もう1回。
もう1回。
「もう、1回……!」
掠れた、必死に絞り出した声。
何度願っても、願っても。
魔法のステッキが応えてくれることは無かった。
「なんでっ……なんで?!」
先程まで消えそうなほど小さかった声は、悲鳴のような声へと変わっていた。
「日和……ごめん。ボクが見誤った。もう……やめよう」
願い続ける日和を止める。
「……これも、知ってるよね。魔法が使える少女。それが魔法少女。魔法が使えなければ、魔法少女として契約できない。って」
「アル……」
日和は地面にぺたっと座り込み、アルを見つめる。
アルを見つめる日和の目は暗く、絶望一色だった。
「……っ!危ない!」
いくら試験用で弱いと言っても、魔物は魔物。
(なれない……?魔法少女に?)
長々と待っていてくれるはずもなく。
(そんな……そんな、嘘だよね)
長い触手のようなものが日和へ接近する。
(まずい、魔法少女の素質がない人間が魔物の攻撃を受けたら……!)
アルは体が動かない。
「いやだ、いやだ……いやだ!」
無我夢中でステッキをもった手を振る。
すると触手は日和に当たる寸前で、弾き飛ばされた。
「……え、?なに……これ」
日和は自分の手を見る。
ポカン、と何が起こったか分からないような反応。
それはアルも同じだった。
少しして、同じ攻撃が来る。……が、またも弾き飛ばされてしまった。
(私のステッキでの打撃が効いた……?……って、ことは)
日和は長考の末、思いついてしまった。
最高の、最低な案を。
「ああ……ふふ、あはは……あはははは……!」
日和は突然、お腹から声を出して笑う。
「そうか……そうじゃん!」
アルは戸惑い、考えが散らかり、言葉が出ない。
「見つけたよ!解決策!」
そう言うと、返事も聞かずに真っ直ぐ敵の方へと走っていく。
敵の攻撃を見事に避けながら。
その動きは、常人ではありえないものだった。
日和は敵の目の前に着くと、ステッキを振りかぶりながらそのままの勢いでジャンプする。
「まっ、待……!」
やっと出た言葉は、最後まで言い切ることを許されなかった。
ビチャッ
水のような音が混じった、低い音。
目の前に広がる濁った赤色。
「あ、あぁ……」
頭の割れた魔物が数秒蠢いたあと、動かなくなってしまった。
……パキッ
瞬間、日和の衣装についていたハートの飾りが全て真ん中で割れる。
「……ね、アル。私、これでなれるね!魔法少女!」
血まみれのステッキを持ち、衣装や顔に返り血を浴びながら笑顔を向ける少女。
どう見ても、正義の味方には見えなかった。
「よかったぁ。私、なれないかと思ったよ。魔法少女」
(おかしい、おかしい……!ステッキで殴り殺すなんて……ありえない!)
アルの中は、先程から大忙し。
日和の言葉なんて頭を通り抜けていってしまう。
(魔法以外で魔物は倒せないのに……魔法少女の素質すらない子が……?いや、まてよ、素質がないならな変身や箒は不可能なはず……)
頭は回るものの、何もかも分からない。
すべてが異例で、異常なことだった。
「おーい?」
「はっ……ごめん、ちょっと考え事してた」
じっと顔を覗き込まれ、我に返る。
「私、合格だよね?」
「いや、魔法が使えないのは……」
アルは思わず言い淀む。
(試験用だとしても、一撃で倒せるなんて相当な強さ。万年最下位にとってはこれ以上ないチャンス……だけど)
アルは、返り血をごしごし拭き取る日和を見る。
(していいのか……?この子を。魔法少女に)
アルが悩んでいることを察知したのか、日和は説得をしてくる。
「この試験の合格条件って、魔物を倒すことでしょ?私は問題なく倒せたよ?何がいけないの?」
いや、これは素なのかもしれない。
本当に問題なんてないと思っている、そう思える純粋さがそこにはあった。
「……分かった。試験は合格」
アルは目を伏せながら言う。
「キミは今日から、魔法少女だ」
魔法の使えない魔法少女、物理に特化する しいな @syu05042200
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