俺の手どこいった?

まこわり

第1話 占い師に手相を見てもらった日と翌日

 ある夜、 役者志望の青年、屋久舎やくしゃ弾悟だんごがバイト先のコンビニから帰宅していると、中年女性の占い師に呼び止められた。


「ちょっと、そこのお兄さん、手相見せとくれよ」


 看板には「ニトの手相占い 一回1,000円」と書いてある。


「俺ですか? でも俺、役者の卵ですから金持ってませんよ」

「いいから、サービスで見てあげるから。なんか、あんたの手相、すっごく珍しい気がしてね」


 占い師のニトは弾悟だんごの左手の手相を見ると、ニヤリと笑って解説した。


「やっぱりあんた、良い手相してるね。これは『幸福を招き、不幸を退しりぞける』手相だよ。やっぱり、あんたの手相見てよかったよ。こんないい手相は、逆にお金を払ってでも見たいぐらいだよ」


「じゃあ、1,000円ください」

「調子に乗るんじゃないよ!」



 * * *



 翌日、弾悟だんごは目を覚ました。場所は自宅である安アパート、何の変哲もない朝……のはずだった。

 男は、顔を洗うときに違和感を感じた。しかし、その違和感がどこから来るのかわからなかった。とりあえず、歯磨きをしようと左手に歯ブラシを持ち、右手で歯磨き粉をつけようとすると、弾悟だんごは気づいた。


(あれ? 俺の左手の親指、こんなに指毛ゆびげ生えてたっけ?)


 弾悟だんごは左手の甲を見ると、指毛どころか手首から先が明らかに毛深い。自分の右手と見比べても毛深い! 


(病院? しかし、急に手が毛深くなるなんて病気聞いたことがない。こんな未知の病気、医者が診てわかるのか? そもそも、病気なのか??)


 弾悟だんごがいろいろ考えを巡らせていると、手自体が自分のものではないのではないかと思えてきた。

 弾悟だんごは役者志望でもあるので、貧乏ながらも見た目に気遣っている。手もパーツの一つとして手入れを欠かしていない。


(こんなゴツゴツした手は、俺の手じゃない……これが『幸福を招き、不幸を退しりぞける』手相の効果なのか!?)


 弾悟だんごは何が起きたのかわからなかった。いずれにせよ、今日はバイトも休みで、演劇の稽古もない。とりあえず朝飯を食べたら二度寝することにした。



 * * *



 同日、別の場所で一人の男が目を覚ました。

 ワンルームの小ぎれいなアパート、パジャマ代わりのタンクトップからは胸毛がはみ出ていた。そればかりか、腕もすねも獣のように毛むくじゃらだった。

 男は獣のように鋭い目つきで起き上がり、布団の上に座った。


「今日こそ……パワハラ上司を殺して、俺は自由になる……。しかし、日本の警察は優秀だ。どうせすぐに捕まるだろう。だから、捕まるまでの間旅に出る。これまで行けなかった場所に行くんだ……」


 血を見るのが嫌いな男は、そのパワハラ上司の首を絞めて殺そうと考えていた。枕を上司の首に見立てて、両手で絞める仕草をしようとしたところ、左手に違和感が。


「ない……?」


 男の左手の手首から先が無くなっていた。

 痛みは全くないし、血が出た形跡もない。男はその手首の断面を見たが、たいらでつるんとしていて皮膚と同じ色だった。


「一体どういうことだ?」


 自分の左手が無くなったという事実を知って、男は気分が悪くなって、そのまま寝込んでしまった。




 しばらくたつと、電話が鳴って男は起こされた。

 スマホの画面に表示された名前はパワハラ上司だった。男はおそるおそる電話に出た。


「おい、どうした? いつもなら出勤している時間じゃないのか?」

「すいません……体調が悪くて、今日は行けそうにありません……」


「なに! 仕事の疲れが出たのか!? まあいい、今日はゆっくり休んでいろ! 明日も体調が治らんようだったら休め! 休養は大事だ! その代わり、回復したらみっちり仕事してもらうからな! それじゃあ、お大事に」


 男は、つぶやいた。

「体調不良の俺を疑うことなく心配してくれた。パワハラじゃなくて、ただ熱血漢なだけか?」


 会社を休んだ男は、そのまま次の日を迎えると、左手首は元に戻っていた。そして、上司への殺意は消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月14日 19:06 毎日 06:11

俺の手どこいった? まこわり @makowari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画