TOXIC CASE -連続自称自殺事件-
月城あめ
CASE1-1 【連続自称自殺事件】
【CASE1-1】
夢を見る。
血溜まりの上に、両親が横たわっている夢だ。
その前に、自分は立っている。
手は汚れていない。
だが、思うことがある。
——自分が、殺したのではないか。
目が覚める直前、いつも同じ疑問が頭をよぎる。
***
『異能対策課』と書かれた扉の前に立つ。
迎井陸翔は、今日で交番勤務からここの異能対策課――通称TOXIC課で働くことになった。
TOXICという異能を使った事件を主に取り扱う部署で、事件が複雑化することが多い。
事件解決のために、成績優秀のエリートか、TOXIC保持者しか入れない、選ばれた人間が集まる部署と言われていた。
エリートと称される課に、自分が入ると思えば少し緊張してしまう。
迎井は一度深呼吸をする。
しわ一つないスーツを一度伸ばした後、扉をノックした。
「はーい」
中から少し高めの男性の声が返ってくる。
その声を聞き扉をゆっくりと開けると、中は綺麗な刑事部屋となっていた。
ロッカーや書類棚が並んでおり、真ん中に机がいくつか置かれている。
清潔に整えられた室内で、一人だけパソコンに向き合って座っている男性がいた。
「失礼します。本日付で交番勤務から異動した迎井です」
「あはっ、君が迎井くんだね。よろしく」
中性的な甘い顔立ちの男は、にっこりと笑って立ち上がる。
そして、ゆっくり迎井の方に近づいてきた。
襟足の長いウルフカットからは警察官らしさを感じないが、女性受けしそうな見た目だ。
「よろしくお願いします」
「せっかく同じ年なんだしさ、気軽に話そうよ」
「気軽に、って言われましても……」
同じ年だからといって、同級生のように接するわけにはいかないのが警察組織である。
年下の上司、年上の部下などはざらにいる。
だからこそ、無難に敬語で話すことが暗黙の了解となっていた。
そう思い、気軽に話すことを渋れば相手は笑顔を浮かべながらも、眉を下げる。
「うーん……警察官って素晴らしい組織だけど、縦の関係性が強すぎるのは部下の思考を鈍らせると思うんだよね。それに、間違ったことを間違いだと言えない空間になってるし……キミはそう思わない?」
「……はい?」
急になんだ、という意味を込めて迎井がそう聞き返す。
何故初対面で警察組織の不満を言われているのだろうか。
迎井が怪訝に思っていると、男は目を細め穏やかに微笑んだ。
「あはっ、ごめんね!ボクは白根叶斗だよ。よろしくね」
「白根……って」
異動前に貰った名簿を思い出す。
確かに、そこには白根の名前があった。
しかし、階級欄に記されていたのは、『係員』だ。
これは、警察組織に配属しながらも、警察官でない人間を表す階級であった。
「あぁ、一般職員なんですね」
「そうだよ。しかも、ボクは警察学校に一切入ってない一般職員でさ。……TOXICを持ってるから、警察官に引き抜いてくれたんだよね!だから、正直上下関係とかちょっと苦手でさ。同じ年なら、気軽に話したいなって思ったんだ」
なるほど。
先ほどの発言も、一般的な立場からこの組織を見て感じたことを口にしただけなのだろう。
そう考えれば、タメ語で話しても問題はなさそうだ。
「そうか……だったら、遠慮なくいかせてもらうよ」
「あはっ、嬉しいな。警察官には畏怖に近い尊敬の念を抱いているんだ! 気軽に話してくれたほうが、気分が楽だな!」
「……そうか」
白根は、やはり少し変わっているのかもしれない。
TOXIC課の人間は変わり者が多い、と異動前から聞いていた。
見た目だけでなく、性格もかなり独特そうだ。
とはいえ、悪い人ではないのだろう。
そう思っていると、ふと気になることがあった。
「そういえば他の人はいないのか?」
部屋の中には白根しかいないが、ほかにも人がいたはずだ。
「あ、確かキミと水岸さんは同期なんだっけ?」
白根の問いに、迎井は頷く。
TOXIC課への異動は、不安が大きかった。
だが、同期の水岸がいるというだけで、気持ちは少し楽になっていた。
同じ学級で過ごし、仲が良かった女性警察官である。
とはいえ、水岸の姿はおろか、上司の姿も見当たらない。
「あぁ、今みんな出払っちゃってるんだよね。別の応援要請の方に行っちゃった。また後日、挨拶しよっか!」
「そうか、大変だな……」
そう呟くと、白根はくるりと向きを変えた。
「さて、今からキミのデスクを教えるから、こっちに……」
その瞬間、固定電話が鳴り出す。
ワンコールも終わらないうちに、白根が受話器を取った。
「お疲れ様です。TOXIC課白根です」
内容までは聞き取れなかった。
だが、次の言葉に、迎井は思わず目を見開く。
「『連続自称自殺事件』の可能性が高い自殺死体が発見された……。すぐ向かいます」
白根は受話器を置くと、迎井の方に向いた。
「さて、そういうところだから、準備して行こうか」
「……ああ」
殺人事件と聞いた瞬間、肩に力が入る。
殺人という現場に行ったことなど、警察人生において一度もない。
何をしたらいいのか、知識としてはあるが実際にやったことなどないのだ。
とりあえず、時間をメモすることは警察官において重要な事だ。
ただいまの時刻は九時半。
それを備忘録に記し、現場に出る準備をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます