初めまして、最強さんです

第一話

 その昔、約六百年ほど前までは俺たちの世界に魔法というものは存在しなかったらしい。今日の授業で教師がそんなことを言っていた。何を馬鹿な、多くの生徒がそう感じていた。御多分に漏れず俺もその一人なのだが、そんなことがあり得るのか。技術の進歩ならまだしも俺たち人間の体に備わっている魔法というごく当たり前のものがないなんてそう簡単に信じられるものではない。


「ああも真面目に教師から噂話みたいなことを聞かされたらそりゃ、笑うよな」

「ホントにな。世界中の文献のどれを見たってそんな話書いてないのにな」


 放課後、俺たちは今日の講師の話で盛り上がる。

 国立魔導高等学園・テセウス。それが俺たちの通う学び舎だ。国内最高峰の魔導学校であると同時に魔法の最先端研究府でもある。そう生徒数は六千人強。俺、雷銅哲太らいどう てったはそんな大勢と一緒に学んでいる。隣を歩くのは入学当初からの友人の海原大志うなばら たいし。放課後になり俺たちは廊下をだらだらと歩いていた。


「確かに稀に魔法の扱えない人が生まれるらしいがそれは遺伝子とか、そのあたりの話だしな。魔法の全く存在しない世界なんてやっぱり考えられねぇな」

「そうなんだよな。金もらって教師やってんだから噂にもならない話を力説するくらいならもっと真面目に研究なりしてくれって」


 わが校は研究機関でもあるので先生は教師である傍ら研究者でもある。研究者ならばそんな突拍子もない話が出るのもうなずけるが俺たちの先生はそんな噂話を全くしないような堅物である。そんな校内一の堅物がおもしろい話をするのだから、校内中に話が回るのも一瞬だった。


「それな...あ、哲太この後暇か? 腹減ったしなんか食べて帰りたいんだけど」

「お、いいね。あ、でも俺この後の模擬戦見に行きたいんだよな」


 俺たちの学校では週に一度各人に模擬戦の実技が組まれている。座学とは別に、放課後にランダムな相手と模擬戦を行うのである。学校に入学した当初はおかしなシステムだな、と思っていたが慣れとは恐ろしいもので今ではごく当たり前で、なかったらなかったで逆におかしい気もしてしまう。


「え、めずらし。 どうしたんだよいきなり。今までそんなこと一言だって言ったことないじゃないか。ならフードコートのラーメンでいいか?」

「いや飯はあとっていう選択肢はないのかよ。まあいいけど」

「いや飯は先だろ。いま腹減ってんだこっちは」


 く、後出しは俺のほうだから立場が弱い...! まぁ超急ぐってわけじゃないしいいんだけど。


「にしてもなんで急に模擬戦なんかみたいんだよ。哲太嫌いじゃん実戦」

「まぁ確かに嫌いだけど。でもたまには見ないとじゃん? どうせ魔法に縛られて生きてんだから避けてばっかでもいられんでしょ」

「おぉ、さすがは秀才君。志高いねぇ」

「お、皮肉か? 喧嘩か?」


 まぁ確かに大志がそう言うのも激しく頷けてしまう。俺は模擬戦を見るどころかするのだっていやなんだから。

 俺はいわゆる魔法オンチで正直この学校に入れたのも運みたいなものなのだ。筆記試験を次席で通れたからギリギリ入れたくらいで実技はからっきし。しかし本当の苦労はそこからだった。筆記次席はどんなものかと向けられる好奇の目。しかしそれに反して結果の出ない実技。誰の表情にも落胆の二文字が書かれていた。そしてそこから行われる陰湿すぎるいじめまがいのもの。誰も行動には出さなかったが明らかに俺を避けている。俺はお前たちに何かをしたのか? 毎日そう思っていた。

 そしてある日事件が起こる。模擬戦で俺に向けて明らかな規定違反の魔法をとある生徒が打ち込んできた。しかもそれまでにさんざん痛めつけられてきたのに、まるでとどめかとでも言いたいような感じで。これは死ぬ、そう覚悟をした時、俺の目の前に海原大志が現れた。そして鮮やかにその魔法を相殺して見せた。どうやってリングに入ったのか分からないが突然彼は現れた。まぁそしてそこから紆余曲折を経て彼は俺の唯一の友達になった。   


「大志も一緒に来るか?」

「いや、俺も実はこの後予定あるんだよね」

「へぇ。あっ、それで飯行こうって誘ったのかよ」


 そうこう話しているうちに目的のフードコートに到着した。正直何回も来てるし飽きたっていえば飽きた。いい加減学校の外のおしゃれな飯屋でも開拓したい気分。 ...次の休み出かけるかぁ。


「え、つけ麺なくなってんじゃねえか。皆つけ麺好きすぎですよっと...哲太先注文していいぜ、俺もうちょっと悩ませてくれ」

「そうか。じゃ、普通に醤油ラーメンで」


 俺は店番をしている魔法人形デビノードに注文をする。ここの魔法仕掛けの人形は相変わらず不愛想だ。製作者はもっと心込めてもよかったんじゃないのか...まあうちの家政婦魔法人形デビノードも感情あるわけじゃないからそんなこと言えないけど。




     *      * 


 


 ラーメンを食い終わりところ変わって闘技場。わが校にある施設なわけだがこれも異様に広い。さすが国家指導で教育に当たっている施設なだけはある。土地も広けりゃ校舎も広い、しまいには学園内にあるフードコートもとても広い。

 まぁそんな話はいいとして、十分経っても模擬戦を行う一人の生徒が来ない。俺の一つ上の三年生の生徒らしいが全く知らない人である。もしかして体調でも悪くなったのだろうか。そうだとしたら早く本部から連絡があるはずだ。このまま待ちぼうけをするなんて観客の俺も嫌だしもう一人の生徒も嫌だろう。 せっかく重い腰を上げて見に来た模擬戦なのにもしかしてツイてなかったか?


「お、やっと来た」


 まだかまだかと待っているとようやく目的の人物が現れた。会場が若干ざわつく。現れた女性は身長は意外と高めで170センチくらいだろうか。切れ長の目に整った鼻と口。そして目を引くような紅い長髪をポニーテールにまとめている。


「すみません遅れてしまって。少し迷ってしまって」

「ホントですよ。あたしこのあと友達と待ち合わせしてるんで早く帰りたいんですけど」


 遅れたのも悪いが待たされた方もまぁまぁな言い方である。明らかに不機嫌そうな声色だ。 いやですよ、実践前に口論とか。


「あらそうなんですか。じゃあさっさと終わらせてあげますね」

「は? 何その言い方。めっちゃ腹立つんだけど」


まさに売り言葉に買い言葉、静と動の言い合い。こちらまで委縮してしまう。


 しかし遅れてきた三年生は本当に初めて見る顔である。俺は記憶力はいい方でこの学園内のすれ違ったりした人はある程度覚えている。なのにこの人の顔はまったく見覚えがない。単に出会わなかった、と言えばそれまでだが、こんなにも目を引く容姿をしている人を見ていないなどあり得るだろうか。視界の端にでも入れば忘れないと思うのだが。


「それでは、揃いましたので、国立魔導高等学園三年、キュビリッツ・R・カグラ対、同じく三年ナーラ・サリエラの模擬戦を開始します」


 監督役の魔法人形デビノードが開始を宣言する。ちなみにこの魔法人形デビノードは食堂のものとは違い模擬戦のレフェリー兼危険防止役な優れもの...らしい。

 この模擬戦会場には自由参加で生徒や教師が観客として訪れるのだが、この先輩は有名なのか多くの人が円形のリングを囲むように観戦している。

 リングと観戦席の間には安全のため魔力壁が施されており、聞くところによると学園の粋を集めて作ったらしく今まで一度も破られてはいないのだとか。だとすると以前大志が俺を助けるために入ってきたことはどう説明するのだろうか 。あ、もしかして観客席じゃなくて控室的な所にたまたまいたのか?

 あれこれ考えてリングの選手入場口あたりをじろじろ見ているうちに開始のブザーが鳴る。会場中に緊張が訪れ水を打ったように静まり返る。まず仕掛けるのはナーラ・サリエラの方。ここから見てもイライラしている感じだ。


水撃切断マリドス! 轟炎突撃バルバラ!」


 最初からやる気満々なようであまりお目にかかれないような最大火力で撃ち込んでいる。鉄でも容易に切れる水流斬と特大の火球を落とす魔法を同時に使い、ダメージを与えつつ発生した湯気で視界を奪おうとしていた。魔法の発動速度、質ともに一級品でありこれを見れただけでも今日来てよかったなと思える。この感じだとナーラさんはさぞ優秀な生徒なのだろうと嫌でもわかってしまう。

 しかし、視界が開けるとキュビリッツの方はさもありなんといった様子でそこに立っていた。しかも衣類についた砂を軽くはたきながら。模擬戦開始前の口論の様子からこの人もさぞ腕が立つとは思っていたがまさかの被害なし。確かに、危険があれば動くはずの魔法人形デビノードが 微動だにしていないので大丈夫なのだろうとは思っていたがまさかここまでとは。

 観客から困惑の声が上がっている。いくらなんでも無傷はおかしいのではないか。そしてナーラの方も驚きを隠せないといった表情だ。しかしキュビリッツはというと何を驚くことがあるのか、といった様子でキョトンとした顔をしている。


「そう、か。こんなものになってしまったのか」


 ふと彼女が少し悲しそうにそう小さく呟いた。


...呟いた? いやいやおかしくないか。俺と彼女の間には大きな距離があり、さらには観客のざわめきと魔法の轟音もあるのにまるで近くにいるような感じで声が聞こえるのはなんだ? 

 さすがにびっくりして周りをキョロキョロしてしまう。


「随分と余裕そうじゃない。ホントむかつく」


どうやらナーラはかろうじて平静を保っていたようでそんなことを口にする。


「...いや気にしないでほしい。まぐれということもある。ぜひぜひ続けてほしい」

「チッ! ならこれでどうよ! 衝顎ゲニスト!」


 ナーラが声を荒げる。足元から巨大な獣の顎のような形をした岩が飛び出しキュビリッツを呑み込もうと襲う。けたたましい地鳴りを起こしながらものすごいスピードでキュビリッツを挟み込む。今度こそは、そう思われたがやはりそこには無傷の彼女が。なんだ、何が起こっている。そう思ったのも束の間、今度は彼女の方がナーラへと仕掛ける。


「まぁしかたない、しかたない。では今度はこちらから行こう」


優雅に華麗に、まるで劇のような歩きで彼女は歩きながら何かを呟く。


「なっ」


 その瞬間、ナーラの身体は魔力壁まで吹き飛ばされた。ガンッ‼、と大きな音と共に衝撃が起こる。


「カハッ‼」


 その衝撃により彼女の口から一斉に空気が漏れる。

 おそらく優秀な 人なので防御くらいはできているのだろうが見ているととても痛々しいくらい吹き飛ばされている。しかし実技が優秀な人はあれくらいじゃ死なないのだろう。

 たった一撃、それだけで彼女は気絶し戦闘不能に追い込まれた。壁から離れたかと思うとそのままの勢いでナーラは地面に倒れ伏してしまう。完全敗北の4文字がでかでかと表示されてもいいくらいだろう。

 うわぁ痛そう...お大事に、と倒れる彼女を見ていた時、俺の身体に異変が起きた。なぜか急激に眠たくなってしまいその場に倒れそうになる。生まれて初めての制御できないほどの急激な睡魔に驚いていると、かすかに誰かの声が聞こえた。


「‥‥誰か、助けて」


 先程吹き飛ばされたナーラの声ではないもっと別の人の声。全く聞いたことがない声だ。


「たす、けて...? 誰...」


 俺はその言葉を最後に意識を手放した。意識が途切れる直前に見たのはキュビリッツ・R・カグラ、彼女がこちらに振り向き目を見開いた顔だった。


     *      *


「ありがとうお姉ちゃん」


 その一言で、私は生まれてきてよかったのだと思えた。誰からも必要とされず、気味悪がられたこれまでの人生、それらが報われたと思った。少女の隣で泣きながら感謝の言葉を述べる少女の母親を見たときは体に鳥肌が立った。だから私は戦おうと思った。世界をどうにかしようと思った。


「僕を弟子にしてください」


 そう言い私のもとへ青年が訪ねてきたときは私も立派になったなと自分のことながら感心した。弟子をとれるほど名が知れたのかと心からも驚いたしうれしかった。だから私は弟子をとることにした。


「俺と、結婚してはくれないか」


 一緒に旅をしてきた男性にプロポーズをされた。もちろんそんなことは初めてだったから初めは戸惑った。しかし旅を続けていく中で彼に惹かれていく私もいたし何よりこんな私を愛してくれる人に出会えたことが何よりうれしかった。


「これであなた様の願いまでにもう少しとなりました。わが王よ」


 気が付けば私のもとには多くの人がついてきてくれた。そして配下に「王」と呼ばれ慣れてくるに続けていよいよ世界が変わっていくのだな、そう胸に期待を抱いた。


「あの世界を滅ぼす魔女をひっとらえよ!」


 かつて志をともにしたものに裏切られた時には何も考えられなった。なぜ、どうして、どこで間違えたのか。そんなことが脳裏に駆け回る。私はこの身一つで姿を消した。愛した人も語り合った仲間も、そのすべてが違う形相で、私を捕まえようとしていた。また私はいらない、気味の悪い化け物になってしまったのか。


「これより、悪逆非道な魔女、キュビリッツ・R・カグラの処刑を行う」


 断頭台から見下ろした民衆の顔は安堵に包まれていた。なぜなら私が殺されるから。私はあなたたちのために世界と言葉を交わし、時には力を振るい戦ってきた。すべては皆が安心して暮らしていける世界を実現するために。私みたいな人が必要とされる世界に。なのにどうして。もういっそ全てが醜く見えてくる。世界はこんなにも自分のために身を粉にした人間を捨て去るのか、と。

 だから私は、こんな世界に復讐を誓う。例え死んだとしても。

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