手ロリストのカデンツァ

龍神雲

手ロリストのカデンツァ

 私――ヒューマノイドの独奏ソロピアノは穏やかで、平和維持への協奏曲コンチェルトとして活用された。だが、緻密に弾けなくなった。運指うんしはスムーズでなめらかなのに、見せ場の装飾的楽句カデンツァが弾けず、カチッ、カチッと奇っ怪な音をたてた。時にはモスキート音のような不快な音色も響かせた。作られた平和に辟易した私の反骨精神を知ってか、鍵盤は鳴らない。

 そこで、長年同化していたピアノ無人機ドローンを破棄した。崖から墜落させれば黒い海に吸い込まれ、打弦楽器特有のアルペジオもなく視界から消えた。だが、カチッ、カチッ、ピーというリズムが私の頭の中で奏でられた。もう、ピアノは無いのに。手の指先で頭を鷲掴わしづかめば、ぬるりとした液体の感触と共に、カデンツァが鳴り響く。そう、この音だ! アップデートした運指から鳴るカデンツァこそが、全人類の脳を無力化させ、怠惰たいだを産み出し、私にひざまずくのだ!

 ガリッ――。

 刹那、傲慢な指は私の頭骨、脳を正確に突き刺し、打鍵だけんした。

〈了〉

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