ユグドラシル 外伝 豊田翼の帰還編 異世界から戻ってきたら男女貞操逆世界になっていた

志摩津活也

第1話 強制有給消化

 俺、豊田翼とよだ つばさはとてつもなく緊張している、なぜなら俺は今所属している会社の会長に呼ばれているからである。


(今任務から戻ってきたばっかりなのに、お師匠からの呼び出し? しかも会長としての呼び出しだし。俺何かミスでもしたのか? 全然思い当たる節がないが…。 まぁ考えてもわからないし新しい任務の指示が来てないから何かしらの仕事が無いかついでに聞いてくるか)


 そう考えながら会長室の前に到着した俺は緊張した手で会長室の扉をノックした。


 コンコン…


「第一戦闘課所属第076小隊隊長、豊田翼です。」


 どうぞ、お入りください。と女性の声が返ってくる。


「し、失礼します。」


 扉を開けるとそこに2人の男女がいた。

 目の前の会長席に座っている男性、俺の師匠で所属している黒金グループの会長であり、俺達戦闘員の最高司令官でもある御方。鐵一真くろがね かずまである。

 鍛え抜かれた身体に188cmという恵まれた体格、黒目に黒髪をオールバックにしている姿は彼を知らなければいかにも凄腕のビジネスマンに見えるだろう。

 そんな彼は白のワイシャツに黒のスラックスといったこの会長室にとっては少しラフすぎる格好をしていた。

 そのお師匠の隣に立っている女性、鐵恵くろがね めぐみはお師匠の秘書であり第4夫人でもある。 彼とは正反対のキッチリとしたネイビースーツでいかにも秘書ですといった格好である。 そんな彼女は黒目に腰まである銀メッシュの入った黒髪姫カットに赤縁の眼鏡をかけていて服装とはかなり印象が違う。そして168cmと、日本人女性としてかなりの高身長である。


(恵さんいつ見ても髪型と服装がミスマッチだな~、普通秘書ってもっと落ち着いているイメージなんだけどな)


 恵を見ながらそんな下らないことを考えていたら一真が話し掛けてきた。

 

「いやぁ~、仕事終わったばかりなのに呼び出してすまないね」


「あ、いえいえ、おし、いや鐵会長私に何か話しが有ると伺いましたが」


「いや別にそこまで畏まらなくていいよ、そんなに深刻な話じゃないから。 まぁ立ち話もなんだ、目の前のソファーにでも座ってくれ」


「わ、わかりましたお師匠、では失礼します」


 俺は促されるがままに目の前のソファーに座った。 それと同時にお師匠が恵さんにお茶を淹れてくるよう頼み、会長席から書類の入ったファイルを持ちながら俺の座っている反対側のソファーに移動し腰掛けた。


「まず何から話そうかな、とりあえず久しぶりだなね翼、最後に会ったの何年ぐらい前だったか覚えてる?」


「え、あー確か…2、3年?ぐらい前だったと思います、……たぶん」


 そう自信無さげに答えた俺にお師匠が手に持っている書類を見ながら言葉を続ける。


「そんな訳無いだろ。それは前まで居た世界で過ごした時間だよ、正解は…1159年前だね」


「………え、もう1159年も経ったんですか?」


(1159年か……もうそんなに経ったのか、一瞬過ぎて数えるのを忘れてたな。……まぁ確かに色んな世界で情報収集活動や本来死なない筈の勇者パーティーの仲間が死んだから代わり加入したり、復活する筈だった魔王の魂が別の世界の邪神の強化の生け贄にされて代わりに俺が魔王役をやったり、厳重に保管されている筈だった聖剣が何故か折れていてそれを修復するための素材を集める為に世界中駆け回ったり。……あれ?良く考えるとあれだけ色んなことをしてたんだからこんなに時間が経過してもおかしくない…か?)


「はぁ~~、お前今『1159年なんて一瞬でしょ』とか思っただろ、はそうだが普通は千年なんてとてつもなく長い時間なんだよ、の感覚を忘れるなって口酸っぱく言ってるだろ?」


「うっ、す、すみません」


(何でお師匠って俺の考えてる事がわかるんだ? 俺ってそんなに分かりやすいなか?)

 

 なんて思っていると横から恵さんがお茶を出してくれた。


「失礼します」


「あ、ありがとうございます」


「まぁーなんだ、急ぎの用事じゃないからとりあえず一旦お茶でも飲んだら?」


「はい。 ではいただきます、…ズズッ、はぁ~うまっ」


 取り敢えず出されたお茶を飲んで喉を潤わせた俺。


「じゃあ話の続きをしてもいいかい?」


「はい、大丈夫です」


「じゃあまず単刀直入に言うと、君を呼んだ理由は他でもない、有給を消化してもらう為だよ」


「有給消化ですか?」


「そうそう有給消化、君全然使わないから滅茶苦茶溜まってるぞ」


「……そんな事だけの為に呼んだんですか?」


「そんな事とは失敬な、会社としては大事なことだぜ? 部下の勤務形態把握や改善は上司の務めだろ?」


 そう言いながら俺の隣に移動してきて俺の肩を組みながら問い掛けてくるお師匠様。


「それに聞いたぞお前、今回の任務俺一人で大丈夫だからお前達は休んでおけって部下達に言ったらしいじゃん。お前は役職持ちの隊長さんだろ?自分は休まないのに部下休めなんて言う資格ないぞ? お前が部下のお手本に成らないと、それに上司が休まないと部下達も気楽に休めないだろ? わかった?」


「い、いやでも次の仕事が…」


「大丈夫、大丈夫もう他の隊員達に前もって今回の仕事が終わったら隊長殿が有給消化に入るって伝えてあるから気にせずゆっくり休みたまえ」


「い、いやでも…」


「や・す・み・た・ま・え……わかった?」


「……………ハイ」


「よろしい」


 そう話し終わったお師匠は会長席に戻っていった。


(休暇かー、まぁ長くても3週間くらいだから俺が居なくても大丈夫だろ、だけど家に居てもやること無いんだよな~、………買ってから一度も遊んでないゲームがあったな、それで時間潰そ)


「あ、そうそう、君にはこれから63年間の休暇を取って貰う」


 ………は?


「正確には63年5ヶ月と18日だね」


 ………………は!? 63年?………63年!?


「ど、ど、どういうことですか!? 63年って、な、なんでそんなに長いんですか!?」


「え、いやだって1159年分だよ?1159年分。

君は役職持ちだから有給は年20日として、単純に計算して1159×20だから23180日だね。それで23180日を年と月に直すと63年5ヶ月18日になるわけ」


「い、いやでも普通会社の有給の繰り越しって2年で消滅するものじゃないんですか? この前の飲み会の時に第3営業課の後藤さんが酔いながら使う前に有給消えちゃった~て愚痴ってましたよ? なのに俺のは何でそんなにあるんですか?」


「そりゃ俺達は普通じゃないしな。 そもそも理の環から外れた俺達と普通のが一緒の基準なわけないだろ?あと1159年なんて一瞬とか言う奴が63年ぐらいで長いって文句言うな」


「そ、そうですが」


「それになお前は働き過ぎだ、他の小隊の隊長からお前が仕事を請けすぎて、部下に振り分ける仕事が少なくて新人が育たないってクレームが来てるんだよ」


「うっ、そ、それは」


「だからこれは君だけの問題じゃないんだ、諦めてくれ」


(ま、マジか。 まさか家にいてもやることが無くて暇すぎてひたすらに仕事に打ち込んだだけなのにこんなな大事になるなんて)


「ま、この期に仕事意外に打ち込める趣味でも探したらどうだ? 63年なんて普通に生活してたらまぁまぁの時間だぜ、有意義使わないと勿体ないぞ」


「そ、そうですよね、………よし!わかりました、それではありがたく休ませていただきます」


「お、そうか、よかったよかった、じゃあこの有給申ーー」


「ただそのぉ~…」


「……ん?どったの?」


「いや、その……仕事意外の趣味を探すって何をすればいいんですかね?」


「えっ、…マジ?、……あーマジか、………まさかここまでとは」


 そう言ってお師匠は両手で顔覆い項垂れていた。


(うゎー、すげぇー申し訳ねぇ~、ほんっとうにとすみませんお師匠、こんな何の面白味のない弟子で)


 そう縮こまっている俺を見て何かを察したお師匠は申し訳無さそうに口を開いた。


「あー、その、なんだ、……俺も修行だけじゃなくもっと普通の生活とか娯楽とかを教えればよかったて今更ながら思うよ。………すまなかった」


「いやいや謝らないでください、あの修行の日々のおかげで今の俺がありますから、いくら感謝してもしきれませんよ」


「そうか、そう言われると俺も救われるよ。……じゃあ話しを戻すけど、良いかい?」


「はい」


「さっき何をすればいいか分からないって言ってたけど、…本当に何もないの?趣味探しとか関係なくても良いからやりたい事とか、よく考えたらあるかもしれないよ?」


(やりたいこと……か。 なんか無いか?やりたいこと、やりたいこと…………………あっ)


「……あります、やりたいこと、いや絶対にしないといけないことが」


「お、よく考えたら出てくるもんだな。それで?やりたいことって?」


「墓参りです」


 こうして俺の短くも長い休暇の最初の予定が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る