年を取ったら手が抜ける

烏川 ハル

年を取ったら手が抜ける

   

「おい、どうした? その姿!」

 一時的に仲間のところに戻った私は、ひどく驚かれた。

 片腕をくしていたからだ。


 日本語には「郷に入っては郷に従え」という言い回しがある。英語でも「When in Rome, do as the Romans do」(ローマではローマ人のするようにせよ)というのだから、日本に限らず、普遍的な概念なのだろう。

 だから私は、周りに合わせるよう努力してきた。今回仲間のところに戻ったのも、お盆休みは帰省するという習慣を真似たつもりだったのだが……。


「いや『帰省』は構わないけどさ。問題はその手だよ、手! いったい何があったんだ? 事故にでも遭わなきゃ、そうそう手なんて失わないだろ?」

「ああ、これか。うん、私もそう思ってたんだけどね。どうやら私たちが考えていた以上に、手というものは簡単に抜けてしまうものらしくて……。だから真似してみたのさ」

「はあ? 手が『簡単に抜けてしまう』だと?」

「うん、特に若い連中がね。『仕事で手を抜くのは普通ですよね』って。まあ、そう言ってる奴ら自身はまだ若いから大丈夫で、普通に手はあるんだけど……」

「おいおい、その『手を抜く』は慣用句だよ! 比喩表現だよ! 実際の手を引っこ抜いたら大変だよ!」

「あれ? だけど年配の方々も『年を取ったら自然に抜けてくる』とか『バレないようにカツラで誤魔化す』とか言ってたぞ?」


 だから私は「自然に手が抜けた」という体裁を整えるために、わざと自分で抜いてみたのだ。私の外見年齢ならば、そちらの方が普通に見えるだろうと判断して。

 ところが……。


「馬鹿だなあ、お前は。『カツラで誤魔化す』ってことは、その『年を取ったら自然に抜けてくる』ってのは『手』じゃなくて『毛』だろ? 漢字も似てるし母音も同じだから、見間違えるか聞き間違えるかしたんだな?」

 と、仲間から呆れられてしまう。


 私自身は既にこの惑星ほしに慣れてきたつもりだったが、地球人に擬態するのは、まだまだ難しい行為のようだ。

 幸い、この姿は擬態に過ぎないので、くした腕の再生も簡単。潜入先の『会社』に戻る前に、また生やせば良いだけで……。


「おい、馬鹿! 人間の腕って、そう簡単に生えてこないからな? それこそ人間じゃないってバレちまうから、お前、もう元の『会社』には戻るなよ!」

 仲間の貴重なアドバイスだ。

 どうやら私は、新しい生活拠点を構築する必要があるらしい。

 地球暮らしも楽じゃないな、まったく……。




(完)

   

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年を取ったら手が抜ける 烏川 ハル @haru_karasugawa

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