第17話



あれから私は、理由を作っては領地へ足を運び、ルミナの家庭教師の付き添いなど、忙しない日々を過ごしていた。

気づけば、ルミナが来てから二年が経とうとしていた。


「ルミナ様、もう少しで誕生日ですね」


ルミナはもう十二の年になる。

私は彼女の髪を丁寧に梳かしながら、鏡に映るその顔を見て、ずいぶん大人びいたと感じていた。


「そうね。今年こそはネメシアにも参加してもらうんだから」


ルミナは気合に満ちた顔をしていた。

昨年の誕生日には、私は公爵に仕事を命じられ、席を外さざるを得なかった。


「誕生日なんて、正直どうでもいいの」


ルミナは鏡越しに私を見た。


「でも、ネメシアがいないなら、意味がない」


凛とした瞳に、私は胸の奥が少しくすぐったくなった。


「…それでも、公爵様がお許しになるかわかりませんよ?」


私の言葉に、ルミナは勝ち誇ったような顔をする。


「そこは問題ないわ」

「…?」


ルミナは、くるりとこちらを振り向いた。


「だって、ネメシアが参加しないなら誕生日会しないって言ったもの」


あまりにもあっさりと、当然のことのように。

私は一瞬、言葉を失った。


「…それは」

「脅しじゃないわよ?」


ルミナは肩をすくめる。


「ただ、事実を伝えただけ。私そういう気分じゃないって」


その言い方が、あまりにも冷静だった。


「公爵様は、さぞお困りになったでしょうね

「ええ!それはもう、ひどい顔をしていたわ!」


ルミナはその時の公爵の顔を思い出したのか、眉を寄せ、指でしかめっ面を作ってみせる。


「…そしたら、ルミナ様へプレゼントを用意しなくてはいけませんね」


そう言うと、ルミナはぱっと目を輝かせ、こちらを見た。


「お姉様からプレゼント貰えるの!?」


思わず、部屋に響き渡るほどの大きな声になる。


「…コホン」


今この部屋には、私たち以外にも侍女がいる。

それに気づいたのだろう、ルミナは小さく咳払いをして、表情を整えた。


「ネメシアからいただけるなんて、とても嬉しいわ」


その一連に、私は思わず小さく笑ってしまった。


「当日まで楽しみにしててくださいね」




――――――


夜、部屋に戻ってからルミナへのプレゼントを考えていた。


私は椅子にこしを下ろし、机の上に手を置く。公爵令嬢への贈り物。形だけなら、いくらでも選択肢はある。高価な布、宝石、装飾品。

どれも正解だ。


けれど、私は"妹"として贈りたい。


だから、彼女が本当に欲しいのはきっとそういうものじゃない。

そう思うからこそ、余計に迷ってしまう。


「…何にしようかしら」


小さく呟いて、私は視線を落とした。

生まれてこの方、誰かに贈り物を選ぶなんて、考えたことがなかった。


その時、机の端に置かれた一枚の布が目に入る。


以前、ルミナの教育の一貫で行った刺繍の授業。その時に使った、刺繍入りのハンカチだった。


―――あの時。


「私はネメシアに贈りたいから、ネメシアも私に作って!」


セシリア様の前で、迷いなくそう言ったルミナの声が、ふと蘇る。

あれは、その時に作ったものだ。

ルミナの分がまだ完成してないから、という理由で渡さずにいた。


私はそっと、その布に指先を触れた。


「……」


―――決めた。

私は一枚の紙とペンを用意し、ある方へ宛てて手紙を書き始める。


ルミナの誕生日まで時間はある。

私は、彼女への贈り物を作ることにした。


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