第2話



鏡の前には二人の女性がいた。

公爵と同じ銀髪、目を引く赤い瞳の少女―――私、ネメシアが映っている。


そして侍女の装いをした優しげな女性が、私の髪を優しく梳いている。

彼女はリサ。物心ついた頃から、ずっと私の傍にいてくれる人。


「リサ、いつになったらパパに会えるの?」


すると、髪を梳くが止まった。

鏡越しに映るリサは、ほんの少し悲しそうに微笑んでいる。


「…公爵様はお仕事でお忙しいので、今は時間を作れないみたいです」


そう言いながら、リサは私と目を合わせず髪を梳き始めた。


パパとは、産まれてから一度も会ってない。

もう7歳になるのに……。


一瞬、鏡越しにママの肖像画が、目に入った。

私と同じ赤い瞳と薄紫色の髪が、きらきらと見えた。


「リサはママの髪も梳いてたの?」

「えぇ、奥様もネメシア様と同じ綺麗な髪でした」


リサの口角が、ほんの少しだけ上がった。


「私ね、リサが話すママのお話、大好きなの」


リサは昔から沢山ママの話をしてくれる。

どんな声で笑っていたのか、まだお腹の中にいるときに、どんな風に話しかけてくれたのか。


ママは近くにいない―――。

けど、リサが優しく話してくれるたびに、胸の奥が温かくなる。


だからかな…。あんまり寂しいって思わないの。


「だから、これからも沢山話してね!」


鏡でリサと目が合う。


「もちろんですよ」


とても優しく笑う。

私はそんなリサも大好き。


その後もリサとはママの話を聞いたり、本を読んでもらったりして、変わらない日常は、穏やかに過ぎていった。

カーテンから差す光は、やがて月明かりへと変わっていく。



「ママに会いたいなぁ……」


さっきと違い、返事はない。

部屋の中に、私の声だけが残る。


私は体を起こして、カーテンに手を掛ける。

目に映るのは、綺麗な星の光。


「奥様は、ネメシア様を産んだ後とてもお体が弱ってしまって…。

お医者様も、皆で看病をしたのだけれど、空へ旅立ってしまったの」


昔、なんでママがいないの?と、リサを困らせる質問をしたことを思い出した。


「でもね…奥様は、最後までネメシア様のこと心配していました。

"この子が、何事もなく幸せに笑ってくれますように"って」


リサに本を読んでもらった時に、

"星は空へと旅立った者の魂の形"と教えてもらった。


私はその話を聞いてからママを思い出すたびに、夜空を見上げるようになった。


―――近くでママを、感じたくて。


今日も変わらない、静かで綺麗な空だった。


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