ならもう俺が魔法少女になるしかなくね?

蜜柑の皮

第一章∶魔法少女の宿命ってやつ?

一つ一つ思い出して欲しいな

 鉄筋むき出しの建設途中のビルの中。

 銀の髪をなびかせて、一人の少女が駆け抜ける。


 そしてその後を追うように、ピンクの髪を持つ一人の少女が入り組んだビルの中を飛び回る。


 物理現象というもの完全に無視した飛行に、銀の少女は翻弄されながらも、巧みな動きでビルの中を駆け巡っていく。


 だがそれを許さぬかのように、ピンクの少女が一瞬のうちに彼女の目の前に移動。


 それとほぼ同時に地面に向けた一撃、爆撃が撃ち放たれる。


 だがその攻撃は、綺麗な四角にくり抜かれた地面が壁となり、完全に防ぎきってしまっていた。


 一瞬の冷ややかな目線の後、その壁を一撃で粉砕したピンクの少女は、既に走り出していた銀の少女の後を追う。


 二人の速度は既に車を超えていた。


 フロアの柱を挟み並んで走る二人の少女、そんな中で銀髪の少女がピンク髪の少女に向けて走りながら何かを投擲した。


 だが投擲されたそれは少女に触れる前に、何かに弾かれて撃墜──否、消滅してしまった。



「チッ……──」



 軽い舌打ち──その舌打ちが乾かぬ間に、ピンクの少女は突如、彼女の下から目の前に姿を現す。



「もーっ☆女の子が舌打ちなんてよくないゾ♡」

「うるせぇッ!!」



 だがピンクの少女が姿を現すのわかっていたのか、銀の少女は声を荒げていつの間にか握っていた軍刀を振り上げる。


 その切先が顔に触れる前に、ふわりと舞って後ろへと下がる。



「危ないなぁ」



 実に冷めた表情と視線を銀の少女に向け、右手に握られた2メートルぐらいのステッキを振るって立つ。

 二人の間には実に数メートルの間があり、それを挟んで立つ二人は睨み合ったまま一寸も動かない。


 銀の少女はいつも間にか左手にも握っていた軍刀を構え、目を細めゆっくりと口を開く。



「……終わらせるわけ、ないだろ」



 そう言って強く睨む銀の少女に対し、ピンクの少女は嫌味一つない笑みを浮かべてくるりと舞う。



「私と貴方、二人だけで幸せになれるんだよ? 望んだものだって手に入る。嫌な奴は消すことだってできる。いつか来る破滅だって、世界を終わらせようとする悪の組織だって──」



 そうして左手を胸に当て、まるで誇らしげに目を輝かせた。



「ワタシがあげるんだから☆」

「ッ──!」



 もはや狂気とも言えるその言葉に、銀の少女は畏怖を抱きながらも軍刀を手に、そのゴシックなデザインで彩られた軍服を翻し、ピンクの少女を目の前にして構える。



「それでも、抵抗しちゃうんだ──いいよ。気が済むまで、殺し合ってあげる。どんだけやっても無駄だけど」



 微笑みを浮かべるピンクの少女に向かって、銀の少女は軍刀を片手に走り出す──その瞬間、右目にが浮かび上がる。


 12の数字を針が指し示し、がちゃん、という歯車の噛み合う音が辺りに響く。



「──《時裂加層オーバークロック》」



 その呟きの後、銀の少女はその姿を目の前から消失する。

 否──消失したと、した。


 気づいた時には時既に遅し。

 銀の少女の握る軍刀の切っ先はもう、ピンクの少女の喉元へと触れてい──





























魔法少女はいつまでも輝き続けるものなんだよ?☆




















「……テメェ」



 握られたスポンジの剣は、振り抜かれた勢いによって破裂する。

 芯が折れ、スポンジは砕け散り、もはや物として扱うことはできない。


 そもそも最初から戦うための武器ではない。


 銀の少女は苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら、後ろへと遠くに飛び下がる。



「ね? 言ったでしょ? 無駄、だって」

「『なんでも思い通りになる現実改変』……分かっちゃいたが、やっぱ無茶苦茶だな」

「でしょでしょ!☆これが《自己嫌悪と自己憎悪リアリティ・ダウン》。現実は私に従う……全て、ね」



 微笑み続けるピンクの少女を睨みつけ、その手に握っていたおもちゃの剣を投げ捨てる。

 そして銀の少女はもう一度、小さな深呼吸の後に走り出す。



「再度、瞳に時を宿して──って、言うんだろうね、人は」

「なッ──」



 だがその走りは既に止められていた。


 走り出す、という事実は許容された。

 動き出す、という行動は許容された。


 だが。

 抵抗する、という試みを否定された。


 気づけば銀の少女の右腕は、ピンクの少女によって捕まれ、身動きを取れないようにされていた。



!! お前、なにをッ──!!」

「ちょっと寝ててもらおうと思って。走馬灯、って知ってる?」

「そう、まとう……!?」

「私の現実は貴方には届かない。でも──押し付けることはできるんだよね」



 そうしてピンクの少女──エリカは銀の少女の耳元へと口を近づけて、『それ』を囁いた。



「《死際回帰フラッシュ・バック》。夢を見るのはそんなに悪いことじゃないぞ☆」



 そうして伸ばした手は虚空を掴み、深い眠りへと誘われる。


 ゆっくりと、一つ一つ、全てを思い出すかのように。

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