世、妖(あやかし)おらず ー淡雪白手(はわゆきのしろて)ー
銀満ノ錦平
淡雪白手(はわゆきのしろて)
遠からずも近からず…、堂々と佇んでいるが大きくもなく…だからといって小さいとは感じない山が雪化粧で白粉に染まった山に足を運ぶ。
遭難する程の大層な山ではないので進む道が決まっている為、軽めの登山道具を揃えて目的の地へ進む。
雪山は夏場と違って厚着をすれば寒さは凌げるかもしれないが、逆を言えば暑くなっても厚着を脱げない状態だということでもある…。
相当な東北地方なら歩けど歩けど寒さで耐えられぬ…となるだろうが、この地はあまり雪は降らず、もし降ったとしても少しだったり大降りで積もったとしても歩けない程の雪道にはならないので、雪景色を堪能しながら山登りも出来るという中々の穴場である。
だが田舎も田舎にあるからか、あまり人通りも少なく、ここを通るのは地元民位しかいないのではないかと思う。
奥に進むと小さな山小屋が目に付く。
誰が建てたかも分からぬが、見た目は年季を感じない木造の小屋で、通る人達が整備してくれているので中は結構休憩場所としては満足度が高くて私も活用してるので、来る度に掃除や軽いメンテナンス等を行っていた。
肌寒さが増したので外を見ると空向こうに分厚い灰色の雲が近付いており、「今日はまた降りそうだな…。」俺はそう呟くも、先程着いたばかりでまだ長居したかったのもあり…小屋に留まる事になった。
雪に沈む土地を眺めながらも、小屋では別の世界が作り上げられその中で私は優雅に過ごしている。
人の叡智は、世界の上にもう一つ…更に何層のも別の環境世界を作り上げることで四季折々様々な環境変化を凌げる場所を正確に、建築を可能にしているという素晴らしくもそれは結局他の生物の住処を減らしてしまっているのと同義でもある訳で複雑な心境ではあるが、それでも環境というのは過ぎてゆく時と同じで一部除くとほぼ全て辺境と化していくのだ。
暖かい珈琲を注ぎながら、外の窓を覗く。
目に映るは頬を軽くポンポン…と馴染ませた時に滴る化粧の様に優しく降る雪に心を寛がせ、雲が過ぎ去るのを待っていた。
トントン…
一瞬、小屋の玄関戸を叩く音が聴こえた。
しかしこの天候で流石にこの山道を歩く変わり者などこの地域一帯でも私ぐらいしかいない筈だが、念の為外からの観光者か、何か用事でどうしても今ここを通らなければ行けなかったが断念して小屋に立ち寄った人の可能性を考慮し、念の為に玄関に向かい「はーい。」と声を掛ける。
返事は無く吹風のせあおだと思い、再び椅子に座ろうとした時…。
トントントン
再び戸を叩く音が聴こえた…。
私は無視を貫くが…
トントントン トントントン トントントン
何度も何度も叩く音が聴こえるので流石に不気味に感じ、再び玄関の向こう側に声を掛けた。
「誰かいるんですか!」
反応は無い。
仕方なく玄関扉を開ける。
変わらず誰もいなかった。
一応周囲を見回したものの、人の気配は無く、他の動物の仕業かと足元を見たが、足跡などあらず…少し様子を見たがそれでも誰か来る気配は全く無く、諦めてそのまま休息につく。
窓の近くのソファにシンプルながらもこの小屋に似合う木材のテーブル…高い物では無いと設備した人に聞いたが、寧ろこの山の雰囲気とマッチしていて私としてはとても満足しながら、暖かい珈琲を味わっていた時…再び玄関を叩く音が鳴り出した。
トントントン
私は苛つきを覚えてしまい、少し大袈裟に足踏みをしながら、思いっきり玄関を開けた。
…やはり誰もいなかった…が、すかさず周囲を見回す為右方向を思いっきり振り向いた。
角から何かひらひらと漂っていた。
布かと思ったが、風で靡いている動きではない…。
まるで淫らに人を招いている様な、ゆるりとした動きに見えてしまう。
いや…布では無く人の手に見える…見えてしまった。
吹雪いていないが、雪の降る寒い山道の小屋で態々いたずらか何かは知らないが戸を叩き手を招く仕草で困惑させようとしているのかとこの時はまだ、恐怖より困惑と若干の怒りで敢えて手招いている方向に向かい走り出す。
こんな寒い中に迷惑だと呆れと寒さに雪も苛立ちも積もり始めていたので思いかけず「おい!」と大声を上げてしまった。
すると手招きの様な動きをしていた物体は急いで引っ込んでしまい、私が小屋の角に着いた時には消えていた…。
私は、少し冬の寒さとは違う精神的内部からくる寒気に急いで小屋の中に入り、そそくさと薪ストーブを点けて内と外の寒気を暖める。
あぁ寒い…。
低下した体内温度を体を震えさせる事によって熱を作り出し、上昇させようとする生物本能の赴くままに思いっきり身震いさせるが、精神的な寒気は中々暖まらない…。
あれが気の所為などではないのなら、心霊現象というものではないのか…しかしこの小屋どころか山に関して曰く付きになる様な事件や事故が起きたという話を聞いたことがない。
逸話とか伝承等にも山が姥捨山だったとか、山に妖怪が住んでいたなんて話も特別耳にした事などなかった。
…ではあれは何だったのか。
明らか外は吹雪ではく、周囲も視界を遮る程の白一色ではないのは明白でもあって、余計に何が何やら…と混乱してしまっていた。
もし幽霊なら、よく手招いた場所を追ったら死体があった…という怪談話があったのを思い出して、余計に震えが止まらなくなってしまい、ここをいち早く出ようかと悩んだが…。
ストーブも付けたばかりで、後数時間は居残る予定だったので幽霊如きに私のプライベートプランを乱されるのは癪に障るので今後どんな現象が起きようと居座る決意をして、その後戸を叩く音を敢えて無視して改めて小屋でゆったり寛ぎ直した。
トントントン…トントントン…トントントン…
一定のテンポで叩く音も時間が経つと共に、環境音の1つなのではと思い始め、先程の揺らめいた物体も気の所為だったで結論付け、外の静かに降る雪景色を堪能していた…が
バンバンバン!!
窓から激しく叩く音が聴こえ、私は驚いて椅子から飛び出し、更に手に持っていた珈琲の入った紙コップを窓に投げつけてしまう。
紙コップなので割れる事はなかったが…窓には無数の手の掌の後が付いていて、これは不味いと流石に感じ取り…荷物も取らずに直ぐ様小屋を靴を履かずに出てしまい、そのまま下山しようと山道を走った。
靴下越しとはいえやはり山道は厳しく、砂利や石ころを踏んだ際の痛みも無視してそれはもう掛け下っていく…。
走る…走る…走る…走る…。
走る…走る…走る…走る…走る…。
走れど走れど、もうとっくに着いてるはずの、途中区間に設置されているベンチが見当たらない。
それどころか…周囲の景色や、踏んだ石ころや砂利の位置が同じ場所を走り続けている感覚に陥ったと思い込んでいるであろう私は恐怖に飲み込まれながらも、道から外れて森の中から逃げようとしたり、石や砂利を無作為に投げながら、本当に道が環状になっているのかの確認をしながらも…結局は答えが出ず、永遠と環の道をただ果てしなく走っている様な気がして、そのまま疲労が蓄積してしまい、等々足の力が入らなくなり座り込んでしまう。
前を見れど横を見れど上を見れど下を見れど…道は進んでいるのか、景色は変化しているのか、時間は経過しているのか…。
そして…あの空の雪雲はいつ通り過ぎてくれるんだ。
しかし、走らなければ身体は暖まらない。
私は永遠とこの雪道を走り続けなければならないのか…。
走る度に目の前の視界が、白色に染まっていく。
霧か…?
いや…雪…?
違う…どちらも違う…!
自分の掌を見て気付く。
掌さえも白く染まってきていた。
私は気付いた…!
外が白に包まれているんじゃない…。
私の視界が白に染まっているんだ…!
目を必死に擦るも、白は取れない。
何かの病気か?俺が何かおかしいのか?
分からない…分からない…本当に何が起きているのか…!
私は、自棄糞…自暴自棄に駆け上がった。
下って無駄なら登るしかないという、真っ当な思考では思い付かない考えに辿り着いてしまい、ならばせめてあの小屋に戻るしかないと必死に…それはもう必死に小屋目掛けて走り出す。
すると、先程まで変化が起きなかった景色が変化してきた。
山道の石ころも先程と同じ位置だった筈だが、所々別の位置に落ちていたりと漸くこの環道を抜け出せるチャンスを得たと希望に満ちて、一生懸命走り続ける。
白く濁っていた視界が段々と晴れ、気が付けば小屋のシルエットが漸く見え始めてきたので、私はもう何日かこの小屋に泊まる覚悟で小屋の玄関前にたどり着こうとした。
しかし…私は小屋の目の前で足を止めてしまう。
玄関の戸が開いていた。
確かに無我夢中で飛び出したので、戸を開いたまま出ていったのかもしれない…。
ただ…何か予感がした。
誰かが中にいるのではないか…という不気味な雰囲気を…。
私は躊躇した。
本来なら、なりふり構わず誰が入っていようと直ぐ様小屋に入るのに…私は何故か躊躇している。
扉の中から、白い霧のようなものが出ているようにも見え出して中に入ってしまえば…私は何か恐ろしい出来事を体験してしまうかもしれない。
どうすれば…私はどうすればいいのだ。
緊張か寒気が身体からしない。
震えも起きず、あれだけ走ったのに汗も出てきていないし熱くもない…。
体温を感じない…気がした。
それもきっと緊張しているからだろうか…。
迷わない筈の道に迷って混乱してしまって、その焦りでまだ状況認識が遅れているのか…。
兎も角…入るしかない。
一歩足を出す。
開いていた扉の奥は真っ暗になっていて何も見えない。
おかしい…。
確か私は電気は付けたまま飛び出してしまった筈だ…。
やはり…誰かいるのか。
しかし今の私は恐怖心が何故か湧いてこない。
私はそのまま、扉に向かう…。
鳥肌も立たない。
背筋も凍っていない。
震えもしない。
私の足は自然と進んでいく。
すると、扉の奥から影が伸びてきた。
それは…とても綺麗な白い肌をした腕と澄んだ汚れの無い純白の手がゆったりと揺れながら落ちてくる雪の様に私に手招きの仕草を見せてきた。
ゆったり…ゆったり…私を小屋に誘う様に…。
私は招かれる…招かれている。
あの小屋にの中に引かれるように…いや、あの淡雪の様に美しく淡麗で細身で風花の如く私を
私は恐怖心も…寒気も感じず…。
心から溢れ出る感情は、人肌の暖かみ…。
私は、小屋へ招き入る。
山奥から…悲鳴が木霊した。
世、妖(あやかし)おらず ー淡雪白手(はわゆきのしろて)ー 銀満ノ錦平 @ginnmani
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