白寂百物語
刈葉えくす
#1瞳の中の緑の鳥居
「今日のあたしは目が見えません」
そういうわけで、目を瞑って点字ブロックの上を歩いて下校しようとしてる小学11年生、
「なんか目が回る~」
白寂キリカは高校1年生の2学期にどっかから転校してきた美少女で、セーラー服じゃなくて学ランを着てて昭和のアイドルみたいなふうわりとした髪型で、でも顔立ちは中性的でなんかイケメンの猫みたいでカッコよかったので最初こそ『学ランの貴公子』とか呼ばれて持て囃されてたんだけど、すぐに性格の悪さと露悪趣味とオカルトマニアっぷりが露呈して皆から距離を置かれるようになって、仕方なく僕にダル絡みしてるメンヘルの女の子だ。
「ぐるぐるするぅ」
我らがM県・
「もういいだろやめようぜこんなこと」
「やめないー」
くそ、さっきから全然進まねえ。いつもなら10分あれば駆け抜けられる山道が、もう15分は経ってるってのに途方もなく長く感じる。自転車とかが通る度にコイツをグイっと引っ張って『スミマセンスミマセン……』って言わなくちゃいけないし、同級生からは『バカップルだりぃ』みたいな視線を向けられるし、ホント置いてこうかなと思う。コイツは本質的に『かまちょ』なので相手にしてくれないと解れば普通に歩いて帰るだろうけど、次の日拗ねられても困るし、そうなると余計に面倒くさいし。あーもう。
どうせあれだろ?みんな僕のこと『やれやれ系』だと思ってんだろ?『そうは言ってるけど、ホントは女の子が隣りに居て嬉しいとか思ってんだろ?』って思ってんだろ?嬉しいに決まってんだろバカ!タコ!ボケ!
……まあいいや。とにかく今日の僕の役目は白寂を楽しい気分にさせたまま家まで送ることで、他のことはどうでもいい。
比較的広めの場所に出たとき、唐突に白寂が立ち止まる。ぱちくりと目を開ける。黒目の割合が少なくて、ホントに猫っぽい。
「普通に帰ろうぜ」
白寂も流石に飽きただろうと思って僕はそう諭すんだけど、もう一度目を閉じてしまう。
「なあなあ」
開く、閉じる、開く。閉じる。閉じたままちょっと歩いてまた開く、閉じる。
「どうした?」
「なんか、見える」
は?
「見えるって何が」
周りには樹木とアスファルトと点字ブロックと古いバス停しか無い。
「鳥居」
「鳥居?」
「緑の鳥居」
「んなもんどこにも……」
「目を閉じると見える!」
瞬きをする前に白寂が早口でまくし立てたので、僕は反射で瞬きがしたくなるのを必至で堪える。怖い。
「はあ?」
「目ぇ閉じてみて」
恐る恐るゆっくり、ゆーっくり瞼を下げていく。
何も無い。真っ暗が広がってるだけだ。
「なんも無いぜ?」
「きっと、点字ブロックだよ」
「え?」
「あたしは点字ブロックだけを辿ってココに来たでしょ」
「おん」
「多分だけど目を瞑ってるときのあたしは今、ちょっと違う世界?に居るんじゃないかな……」
俺達がこういう怪異に遭遇するのは始めてではない。この町では良くあることなのだ。だからそういう勘が働くというか、ちょっぴり不思議な思考ができる。しかし、だからと言って具体的な対処法があるわけでも無いんだけど。
「盲人の世界ってこと?」
「ちょっと違うと思う」
そのまま目を瞑って歩き続ける白寂。瞳の中の『鳥居』を見つけて距離感が掴めてしまったのか、さっきとは比べものにならないほどスムーズだ。
「鳥居に近づいてる」
「おいおいおいおいおいおい!」
やめとけやめとけやめとけ!白寂キリカよ目を開けろ!
「もう眼の前にあるよ」
白寂が、僕には見えない鳥居に足を踏み入れた。た、
たたたたたたたたたたたた
「ひゃうっ!」
その『足音』を聞いた僕は、咄嗟に白寂の身体を掻っ攫い、抱き寄せる。そこに質量は無くて、力を持て余した僕の体は白寂を抱いたまま1回転して、そのあと唐突に白寂の『重さ』が戻ってきて遠心力でもう2回転して、なんか最終的にフィギュアスケートのペア部門の決めポーズみたいな形になって静止した。片足を上げて倒れそうになってる彼女の体を、その腰に手を回して支えている僕。
キョトンとした表情で僕の顔を見ている白寂に『それ』は見えない。でも僕には見える。
白寂をドンと押して緑の鳥居の中にブチ込もうとした『それ』はピンクの熊の着ぐるみで、勢い余ってそのままアスファルトのなかに落ちていった。バグったゲームみたいに地面を貫通して落ちていった。白寂キリカが落ちるハズだった場所に、落とすハズだった場所に、自分で作り出した『落とし穴』に自分から落下して消えたのだ。
ざ、ざまあねえぜ……
「な、何……?」
白寂が困惑している。僕は説明するのが面倒くさくて、
「別に」
としか言わない。どうでもいいことだ。知らなくても何の損もない。なんかピンクの熊の着ぐるみ着たやつがお前のこと狙ってたぞ。なんて死んでも言わない。意識すらさせてやらない。基本的に『怖いもの』は意識されると調子に乗るから。ピンクの熊ごときに白寂は渡さない。
「……そろそろこの体勢、キツイんだけど」
「ああすまん」
珍しく白寂のやつがちょっぴり頬を紅くしてるような気がするんだけど、夕陽が照らし出してそう見せてるだけかもしれない。
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