第3話
廃屋にいつもの様に佇む。私は人ではなく妖怪だ。サトリと言う人や妖の心が読める種族。その中でも私は特に強く、心の深部まで読め、鬼に負けぬほどの膂力を持つ。
人の乱世にも関与し、妖の争いも、その政にも名を通すほどだった。
だがしかし、私は疲れてしまった。心を読める私は人の欲も、妖の真っすぐに血濡れた心も散々見た。私は血の道を進む先に、私もこれらと同じ形の心になるのではという恐怖が芽生えた時、すべてを捨てて流れ者となりこの廃屋に漂着した。
しかし、それも潰えた。夜に偶に来る若者であれば少し脅して追い払う事も出来たが、昼によくわからない黄色の象が家を壊しに来た。ひとまず様子見として最低限の物を持ち出し山から観察する事にした。
すると彼らは大工なのか、廃墟をみるみるうちに別の建物にしていった。それの様子は興味深く、久々の山の生活で目を離している間に覗いていると完成した様だ。
とはいえあの家は長らく私が住んでいた場所だ。新しくなったあの家を奪おうか。そう考えて記念に遠い川から岩魚を取って来て戻った所で、先客が居た。
昔はどこでも取れたのに今となっては山奥にしか取れないからと文句を言いつつ、山から家の様子を見る。
見ると男が中で荷物を広げている。ふむ、一人の様ならどうやってあいつを追い出そうか。そう見ていると男は軒先に座った。さてどんな男かと近づき、男の記憶を覗く。
私はそれをもって、相手の恐れる物、状況を作り脅かして追い払っていた。そして覗いた結果、体が止まる。
彼は人とのかかわりに疲れ、一人になる為にここへ来たのだ。私と同様に。
その一瞬の同情の後にすぐ気を取り戻す。そうだとしても、それが男の性根とは別の話だ。屑が屑を殴り群れから追い出す事だってままある話だ。
どのみち、頭を殴れば首ぐらい飛ばせる。私は男をよく見る為に、そして私を見た後の性根を見る為に男の前に出た。
そして男と目を合わせる。そこには私への疑いと情欲が見えたが、直ぐにそれをかき消し純粋な心配だけがあった。
私はそれに、純粋な親愛を憶えた。私を見て権威欲が渦巻く心も無く、心を読まれる事への恐怖しかない視線も無い、純粋な心。
今までの悠久の孤独から、久しく類する友を見た。十日ぶりの水の様に、一月ぶりの食事の様に、抗えぬ程に心へ染みていく。
「すいません、一晩泊めていただけませんか。」
私は首を飛ばす代わりに、そう聞いた。かつての廃屋は間取りだけそのままに住みやすくなっていた。そしてその間も彼はそのまま彼である事に心が満たされていく。
しかし明日町へ連れて行く思いを読み取った後、なんとかしてここに彼と住む様な流れに持っていくために頭をひねった。
そして私が力を持つ妖怪である事を彼が知れば、彼の心を見た事がある物の様に醜く汚す事になるのだろうか。そう考えた後、私自身が酷く汚いものに見えてしまい、急ぎ目を覆って寝る事にした。
社会に疲れた男が、山間の平屋で妖怪サトリと出会う。 中立武〇 @tyuuritusya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます