狼も歩けば恋に走る リメイク

タルタルつばめ

第1話

私立月影学園には、少し変わった噂がある。
満月の夜になると、校舎裏の森でオオカミが出没するというのだ。部活終わりの生徒が遠吠えを聞いただの、見回りの警備員が赤い目を見ただの、真偽不明の証言は後を絶たない。

そして、その噂の張本人、灰原ルカは、れっきとした学園の二年生だった。
成績は中の上、運動は大の得意。長い脚と反射神経の良さは、体育の授業で一目置かれている。ただし誰も知らない事実がひとつある。彼女の正体は、人の姿に化けて学園生活を送るオオカミだった。

「正体がバレたら即退学……いや、退学で済めばまだマシか。研究対象にされる可能性もあるよね」

朝の通学路、ルカは制服のスカートの下で、神経を尖らせるように尻尾の位置を確認する。特製の特製のべルトがなければ、とても人前には出られない。耳も同様だ。少し気を抜けば、感情に引っ張られてぴくりと動いてしまう。

ルカは今日も尻尾を必死に隠しながら登校する。そんな彼女の密かな希望は、クラスメイトの犬飼コハルの存在だった。明るくて世話焼きで、名前の通り犬みたいに人懐っこい男の子だ。噂だと時々尻尾みたいなのをみた子がいるらしい。

「灰原さん、一緒に委員会行こ?」

 彼が近づくたび、ルカの心臓はドクンっと跳ねる。オオカミの本能なのか、それとも単なる思春期か。自分でも分からない。

ある日の放課後、委員会の仕事が長引いて、校舎を出るころには空が不穏な色をしていた。
 夕焼けに溶けきれなかった雲が低く垂れ込め、風が冷たい。

「やば、降りそうじゃない?」
「天気予報、曇りだったのにね」

 そんな会話を交わした直後、雨は容赦なく落ちてきた。ぽつ、ぽつ、から一気にざあっと。
 二人は顔を見合わせ、反射的に走り出す。

「こっち!」

 逃げ込んだ先は、校舎裏のさらに奥。生徒の間でいろいろな噂が飛び交う、あの森の入り口だった。
 木々が壁のように立ち並び、外よりも空気がひんやりしている。

 そのとき、空を切り裂くように雷が鳴った。

 ――ドンッ!

「きゃっ!」

 驚いた拍子に、ルカの頭の上で何かが跳ねた。
 ぽん、という間抜けな音とともに、灰色のふわふわした耳が、ぴょこんと飛び出す。

(見られてないよね……?)

 一瞬の沈黙。雨音と、遠くの雷だけが響く。
 ゆっくりと視線を上げると、彼は確かにこちらを見ていた。

「……え? 灰原さん?」

「ち、違うの! これは、その……!」

 頭を押さえて取り繕おうとした瞬間、ルカの中で何かがよぎった。
 終わった。正体がバレた。転校? いや、退学? 最悪、研究施設送り?

 そう思った、その瞬間。

「オオカミだったんだね! かわいいじゃん!」

「……え?」

 予想していた悲鳴も、拒絶も、なかった。
 むしろ彼は、目を輝かせている。

「耳もふさふさだし、すごく似合ってるよ」

 あれ?
 なぜか、好感度が上がっている。

「じつは俺さ、犬なんだ。」

「……犬?」

「うん。犬って鼻が利くでしょ。だから前から、君が普通の人間じゃないって気づいてた」

 そう言って、彼はくしゃっと笑った。その笑顔は、雨の中でも妙にあたたかい。
 ルカはしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐く。

「……じゃあ私」

「うん?」

「走っていい?」

「え?」

 一歩、彼に近づいて、真っ直ぐに見つめる。

「恋に」

 一瞬きょとんとした彼の顔が、次の瞬間、真っ赤になる。

「ず、ずるいだろ、それ……!」

 雨はいつの間にか小降りになり、雷も遠ざかっていた。
 犬も歩けば棒に当たる。
 でも、オオカミが歩けば、、どうやら恋に走るらしい。

 それからしばらくして、月影学園には新しい噂が増えた。
 満月の夜、あの森で見かける影があるという。

 尻尾を楽しそうに振るオオカミと、隣で笑う犬。
 二匹並んで歩く、その姿はどう見ても、幸せそうなカップルなのだとか。私立月影学園には、少し変わった噂がある。
満月の夜になると、校舎裏の森でオオカミが出没するというのだ。部活終わりの生徒が遠吠えを聞いただの、見回りの警備員が赤い目を見ただの、真偽不明の証言は後を絶たない。

そして、その噂の張本人、灰原ルカは、れっきとした学園の二年生だった。
成績は中の上、運動は大の得意。長い脚と反射神経の良さは、体育の授業で一目置かれている。ただし誰も知らない事実がひとつある。彼女の正体は、人の姿に化けて学園生活を送るオオカミだった。

「正体がバレたら即退学……いや、退学で済めばまだマシか。研究対象にされる可能性もあるよね」

朝の通学路、ルカは制服のスカートの下で、神経を尖らせるように尻尾の位置を確認する。特製の特製のべルトがなければ、とても人前には出られない。耳も同様だ。少し気を抜けば、感情に引っ張られてぴくりと動いてしまう。

ルカは今日も尻尾を必死に隠しながら登校する。そんな彼女の密かな希望は、クラスメイトの犬飼コハルの存在だった。明るくて世話焼きで、名前の通り犬みたいに人懐っこい男の子だ。噂だと時々尻尾みたいなのをみた子がいるらしい。

「灰原さん、一緒に委員会行こ?」

 彼が近づくたび、ルカの心臓はドクンっと跳ねる。オオカミの本能なのか、それとも単なる思春期か。自分でも分からない。

ある日の放課後、委員会の仕事が長引いて、校舎を出るころには空が不穏な色をしていた。
 夕焼けに溶けきれなかった雲が低く垂れ込め、風が冷たい。

「やば、降りそうじゃない?」
「天気予報、曇りだったのにね」

 そんな会話を交わした直後、雨は容赦なく落ちてきた。ぽつ、ぽつ、から一気にざあっと。
 二人は顔を見合わせ、反射的に走り出す。

「こっち!」

 逃げ込んだ先は、校舎裏のさらに奥。生徒の間でいろいろな噂が飛び交う、あの森の入り口だった。
 木々が壁のように立ち並び、外よりも空気がひんやりしている。

 そのとき、空を切り裂くように雷が鳴った。

 ――ドンッ!

「きゃっ!」

 驚いた拍子に、ルカの頭の上で何かが跳ねた。
 ぽん、という間抜けな音とともに、灰色のふわふわした耳が、ぴょこんと飛び出す。

(見られてないよね……?)

 一瞬の沈黙。雨音と、遠くの雷だけが響く。
 ゆっくりと視線を上げると、彼は確かにこちらを見ていた。

「……え? 灰原さん?」

「ち、違うの! これは、その……!」

 頭を押さえて取り繕おうとした瞬間、ルカの中で何かがよぎった。
 終わった。正体がバレた。転校? いや、退学? 最悪、研究施設送り?

 そう思った、その瞬間。

「オオカミだったんだね! かわいいじゃん!」

「……え?」

 予想していた悲鳴も、拒絶も、なかった。
 むしろ彼は、目を輝かせている。

「耳もふさふさだし、すごく似合ってるよ」

 あれ?
 なぜか、好感度が上がっている。

「じつは俺さ、犬なんだ。」

「……犬?」

「うん。犬って鼻が利くでしょ。だから前から、君が普通の人間じゃないって気づいてた」

 そう言って、彼はくしゃっと笑った。その笑顔は、雨の中でも妙にあたたかい。
 ルカはしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐く。

「……じゃあ私」

「うん?」

「走っていい?」

「え?」

 一歩、彼に近づいて、真っ直ぐに見つめる。

「恋に」

 一瞬きょとんとした彼の顔が、次の瞬間、真っ赤になる。

「ず、ずるいだろ、それ……!」

 雨はいつの間にか小降りになり、雷も遠ざかっていた。
 犬も歩けば棒に当たる。
 でも、オオカミが歩けば、、どうやら恋に走るらしい。

 それからしばらくして、月影学園には新しい噂が増えた。
 満月の夜、あの森で見かける影があるという。

 尻尾を楽しそうに振るオオカミと、隣で笑う犬。
 二匹並んで歩く、その姿はどう見ても、幸せそうなカップルなのだとか。

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