●1 出会い(2)



 「えっと……なので、改めてお願いしますが、説明が全部終った後でも、出来れば今日一日だけでもいいので、その……僕とコンビを組んでいただけませんかよろしくお願いします!」


 ばっ、と腰を九〇度に曲げて勢いよく頭を下げながら右手を差し出す。僕に出来る最大級の『よろしくお願いします』のポーズだ。


 すると、


「……なんじゃおぬし。やけに律儀な性格をしておるのう」


 からかうような調子の声と、右手に触れる柔らかな感触。


 顔を上げたら、フードの奥のヘテロクロミアが弓なりに反っていて、外套の中から伸びた小さな手が僕の右手を握っていた。


 そこだけはフードにも外套にも隠されていない口元が、くふ、と笑った。


「よかろう。妾は今より、おぬしとコンビじゃ」


 その手は思っていた以上に小さくて、柔らかくて、儚くて。


 もしかしたらこの子は僕より年下かもしれない、と思った。


「ありがとうございます! えっと……あ、自己紹介がまだでしたね」


「こりゃおぬし、その言葉遣いはなんじゃ。妾達はもうコンビであろう。他人行儀はやめぬか」


 という、ありがたいやら情けないやら、微妙な感じのお言葉をいただく。僕はその厚意をありがたく受けとることにした。


「――うん、わかった。じゃあ改めまして……僕の名前はラグディスハルト。二週間前まではキアティック・キャバンにいたんだけど、ちょっと思うところがあって、最近この〝浮遊島〟にやって来たばかりなんだ。だから初心者ではないけど、ここではまだ新参者だよ。よろしくね」


 ぎゅっ、と繋いだままの右手に少しだけ力を込める。


「ラグ……?」


「ラグディスハルト」


「ラグディスハルト、か。ふむ。長い名前じゃな。姓はないのか?」


「ああ、僕、ルーツが東の方だからね。名前だけなんだ」


「東の方というと、確か、あの英雄セイジェクシエルの出身地じゃったな」


「そうだね。一応、遠い親戚ってことになっているけど」


「ほう? 英雄の末裔か。頼もしいのう」


「あはは、重荷になることもしばしば、だけどね。君は?」


 今度はそっちの自己紹介をして欲しい、という意味で問うと、彼女は笑うのをピタリと止めて、少しだけ沈黙した。やがて、


「――妾の名は……ハム、という。姓は……すまぬが、故あって言えぬ。……のう、おぬしよ。逆に聞きたいのじゃが、おぬしはこんな妾でも良いのじゃろうか? それとも、信用できぬ、か……?」


 不安そうにこちらを窺ってくる金目銀目に、僕は軽く笑い、首を横に振って見せた。


「大丈夫、気にしないよ。誰にだって言いたくないことの一つや二つ、あるものだと思うから」


 僕がそう言うと、小柄な外套をかぶったハムは、くふ、と再び口元に笑みを浮かべた。


「――うむ。おぬしが気の良い奴で妾は嬉しいぞ」


 きゅっ、とハムの白魚のような手が僕の右手を握る。


「よろしく頼むぞ、おぬし」


 ……毎度のことだけど、僕の名前はちょっと長いので、大体の人がそのまま呼んでくれなかったりする。どうやら今回もそういう流れらしい。


 ちょっと苦笑い。


 僕はハムとの握手を終えると、その手でウェイトレスさんを呼んだ。


「はいはーい、ご注文は何ですかにゃ?」


 赤毛の猫っぽいウェイトレスさん――ここの看板娘のアキーナさんというらしい――に豆茶を注文すると、僕はハムの向かいの椅子に腰を下ろした。


 さて、僭越ながら、僕はこれからエクスプローラーの何たるかを語らなければいけない。


 どうやらハムは、本当に何も知らないままこの〝浮遊島〟に来たらしい。となると、やっぱり初歩の初歩から説明した方がいいだろう。


「じゃあ、説明を始めるね。そもそもエクスプローラーというのは――」


 まずエクスプロールの基本のキから話し始めた僕に、頷きながら熱心に耳を傾けてくれるハム。


 彼女は未だその外套を脱いで顔を見せてはくれないけれど、それはやっぱり、名前を隠していることと関係しているのだろうか?


 出来れば、そのうち顔を見せてくれると嬉しいな、と思う。


 それで、もっと仲良くなれたらいいな、とも思う。


 そして、友達になってくれたらもっと嬉しいな――とも。


 なにしろ僕は、前にいた場所では、最後の最後まで友達が出来なかったのだから。


 そう。実は僕、友達欲しさにエクスプロールの基盤をこの土地へ移してきた人間なのだ。


 あまりに情けない理由だから、人にはちょっと言えないけれど。


 だから今回のこの縁が、友達にまで発展してくれたら、すごく嬉しいんだけどなぁ……


 などと考えつつ、僕はかつて自分の師匠から教わったことをハムに教授していく。


 それから、小一時間アワトほどの講義を終えると、僕とハムは連れ立ってエクスプロールに向かったのだった。



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2026年1月14日 17:00
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支援術式が得意なんですけど、やっぱりパーティーには入れてもらえないでしょうか!? 国広仙戯 @sengisengi

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