ヒレ袋を買いに

惟風

観客がエサ

「このお手々にちょうどいい手袋ください」


 帽子屋はおやおやと思いました。サメの手です。手というか、ヒレです。

 サメが手袋をくれと言うのです。そこは手袋じゃなくヒレ袋だろうと帽子屋は思ったのですがそこはグッと呑み込み、これはきっとサメの罠だなと思いました。釣られて戸口を開けようものならがぶりと一口に喰われるに違いありません。そこで、「先にお金を下さい」と言いました。金だけもぎ取ってサメハンターを呼んでやろうと思ったのです。


 サメはすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡すと見せかけて戸口の隙間を押し広げると右からの掬い上げるような強烈アッパー! 帽子屋の顎にクリーンヒットだ! サメはハンド・シャークだった! それは胸ビレを人間の手そっくりに変えられるサメだ! 今日は普通に出し間違えた!

 これでこの店はサメの思うがまま……と思いきや、帽子屋が立った! 勇敢にも立ち上がった! まだ戦意は喪失していない!

 それもそのはず、帽子屋は元・空手家シャークだった!

 全戦全勝、向かうところ敵なし、その両拳で屠った格闘家は数知れずの無敵ファイターだ!


「こんな寒い夜は、拳が寒い寒いって啼いちまうんだよ」


 拳がサメ頭に変化した帽子屋はピーカブースタイルのファイティングポーズを取る。左右のサメ頭がハンド・シャークを睨め付ける。ハンド・シャークも尾ビレを反らし姿勢を低くする独特の構えを取った。


 いつの間にか店頭に集まったギャラリーは大盛り上がり、オッズは空手家シャークの方がやや高いようです。人間同士や人間対サメの戦いはよくありますが、サメ同士の対決は珍しくみんな期待のまなざしを両者に向けているのです。


 通報で駆けつけたサメハンターはそんな様子を見て、「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうにサメはいいものかしら。ほんとうにサメはいいものかしら」とつぶやきました。



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ヒレ袋を買いに 惟風 @ifuw

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