「囚われる影」
人一
「囚われる影」
「なぁ、次どこに行く?」
俺は友人とアーケード街に遊びに来ていた。
地元は素寒貧だから、ちょっと足を伸ばして隣の市までやってきた。
日曜日の昼間ってのはあるけど、さすがの人通りで前が詰まるとすぐにもみくちゃにされる。
午前中から遊んでおり、もう昼過ぎだ。
人々は散って、ある程度人通りは落ち着いた。
前を見ずに歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。
――ドンッ
「あっ、ごめんなさい……」
痛いな。
ぶつかっただけなのに痛いな。
腕じゃなくて腹から痛い、急に痛くなった。
下を向くと脇腹に深々と包丁が刺さっていた。
――いつの間に?
いや、そんなこと考えてる暇はない。
見た、認識したその瞬間から、文字通り刺すような痛みと激しい寒気に襲われた。
立ってられない。
倒れる俺を見て、誰かが叫んだ。
こっちを見た人々は、叫び慌てふためきながら我先にと逃げ出した。
誰も俺に手を差し伸べてくれない。
もう周りに誰もいない。
俺を殺した奴ももう逃げおおせたのか。
遠くでパトカーの音が聞こえる気がする。
誰であれ、許さない。絶対に許さない。
声にならない怨嗟を胸に、俺は意識を捨てた。
目を覚ますと……群衆の中にいた。
目を覚ます?
さっき俺は死んだはずでは?
お腹を触るも、穴は空いていない、血も出てない。
「どういうことだ……?」
体をまさぐると懐になにか入っていた。
取り出すと、それはナイフだった。
その瞬間理解した。
これは神様がくれたやり直し、復讐のチャンスなのだと。
ナイフを袖口に隠して、俺は自分を探した。
「なぁ、次どこに行く?」
いたいた。
そして……俺にぶつかった奴も見つけた。
目の前で俺が刺された。
何も無かったように立ち去ろうとする通り魔に歩み寄り、肩を掴んで背後から腹を1突きした。
途端崩れ落ちる通り魔に、逃げ惑う人々。
周りを気にかけず、通り魔の顔を見てやろう。としゃがんだその時――
誰かに背後からナイフを突き立てられた。
息が苦しい。
なぜだ?誰だ?この通り魔を庇う奴がいるのか?
通り魔に覆い被さるように倒れると同時に、電源を切ったようにブツリと意識は消えた。
目を覚ますと群衆の中にいた。
「まただ。」
懐に触れると硬い感触がある。
きっとナイフだろうと辺りを見ると、俺がいた。
みっともなく辺りをキョロキョロ見回しているが、前回の俺、2回目の俺だろうから仕方ない。
その先に目をやると最初の俺がいた。
そして通り魔も2人、俺を襲った。
2人目の通り魔を俺が手にかけた時、またも背後から突き刺された。
振り返る間もなく、意識は途絶えた。
目覚めた。群衆の中で。
目の先には俺が3人と通り魔も3人。
今度は手出ししないことにした。
復讐を遂げても、最後は刺される原因が分かるかもしれない。
目の前の惨劇を見届け、人々は散って残されたのは6個の死体。
3人目の通り魔……どうして死んでいる?
手を出してないぞ?
一旦現場を離れようとすると、薄い膜のようなものに阻まれ先に進めなかった。
現場から一定範囲を覆うようだ。
膜なら切り裂けると、ナイフを取り出した瞬間背後から突き刺された。
目覚めた。
目の先には4人の俺と通り魔がいる。
そして予定調和の惨劇が起こり全滅した。
ここで衝撃だったのは、前回の俺は手出ししなかったはずなのに目の前の前回の俺は通り魔に復讐した。
まるで無理やり辻褄が合わせられたかのようだ。
ちょっとしたタイムリープをしてたんじゃないのか?
目の前の異常現象に復讐心など吹き飛んでしまった。
4人目の通り魔も死んでいる、俺が考え事をしている間に。
きっとナイフを出せば、トリガーとして次の世界に進むんだろう。
そして整合性を取るために、過去が僅かに書き換えられる。
懐の冷たく硬い感触を、不気味に思いながら俺は通り魔たちの顔を確認すべく近寄った。
通り魔のフードを捲ると……そこには俺の顔があった。
最初の通り魔は知らないおっさんだった。けれど……2人目からは俺だった。
なぜすり替わった?
何度か強い復讐心を胸に抱いて目覚めたが、この世界でまともに狂ってるのが俺だけだから"通り魔役"として宛てがわれたのか?
自分で自分を殺し続けるループ、最初通り魔はこれが目的だったのか?
……確かめる術はない。
このループに組み込まれているけど、起点のくせしてもう端役になってしまっているのだから。
俺はナイフを懐から取り出し握った。
すると予想通り、背後から腹を突き刺された。
激しい痛みと寒気の中俺は意識を手放した。
群衆の中で目覚めた。
目の前で惨劇が起こる。
もう俺の手出しは必要ないし、関係もないようだ。
前回の俺も嬉々として復讐した。
まさにこの世界は俺が復讐した前提で繰り返しているようだ。
逃げることも自刃することも許されない。
いやきっとできても、すぐに次の世界に移行するだけだ。
――こんなことになるなら、復讐なんて誓うんじゃなかった。
いや、誓わないなんて無理だ。
いきなり無辜の民である俺が襲われたんだ。
すっかり端役のおっさんを許すことはできない。
今も、きっとこの先何度世界を繰り返してもこれだけは変わらないだろう。
俺はナイフを取り出し握った。
そして確定した死が背後に立った気がする。
振り返り、自分からの刃を受け入れた。
目覚めた。
何度目だろうか。
もうこの場には無数の俺がひしめき合っている。
そしてあっという間に屍の山となる。
後悔はない。けれどいつまでも囚われたまま抜け出せない。
「囚われる影」 人一 @hitoHito93
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