第83話 相性最悪

歓声がまだ闘技場に残る中、

花野が控えへ戻ってくる。


当て野が、拳を突き出した。


「ナイスファイト、花野。」


翔馬も、素直に笑う。


「圧勝だったな!」


花野は肩をすくめ、小さく息を吐いた。


「ありがとう。

次も、この調子でいければいいけど……」


――その瞬間。


空気が、変わった。


歓声が、音を失う。

ざわめきが、喉の奥で凍りつく。


コロシアム全体が、

“何か”に触れたように静まり返った。


花野が、顔を上げる。


「そう簡単にはいかなそうだな。」


当て野が低く呟いた。


「あいつは……」


翔馬の表情が、引き締まる。


相手チームの陣営から、

一人の男が歩み出てくる。


ゆっくり。

だが、確実に。


燃え盛るような神の気が、

抑えられたまま、漏れ出していた。


赤黒い気配が、

床を焦がすように広がる。


『こ、これは……まさか……!』


司会の声が、わずかに震える。


『神界北――

リーダー格……!!』


男は、闘技場の中央で立ち止まる。


鋭い眼光が、花野を捉えた。


「無闘………いい戦士だった。」


低く、掠れた声。


「神界人にさえ産まれていたなら……俺達と肩を並べられたのにな。」


その名が、告げられる。


『次に出場するのは――

神界北・筆頭であり三剣神、火事の実の息子!!』


『――残火ザンカ!!』


炎のような神の気が、

一段、濃く燃え上がった。


花野は、無意識に一歩前へ出る。


――次は格が違う。


誰もが、そう理解した。


花野は、残火の全身から滲み出る神の気を見て、

即座に悟った。


(……炎系の祝福者か、相性悪いな……)


肌を刺すような熱。

蒼の気とは質の違う、燃やし尽くすための力。


花野は表情に出さず、静かに思考を巡らせる。


(落ち着け……やれる事をやるだけだ)


その背後で、翔馬が小さく息を呑む。


「三剣神って……先生が言ってたあの……」


当て野も、信じられないものを見る目で残火を見つめた。


「まずいな……見た所炎系の祝福者……かなり相性が悪い」


三剣神。

野神直属の配下。


その血を引く存在が、

今、目の前に立っている。


一方、残火はというと――

花野たちを見渡し、どこか退屈そうに首を傾げた。


「下界代表は……」


指を折りながら、淡々と言う。


「残り四人、か」


ふっと、口元が歪む。


「……まあ」


肩を軽く回し、炎の神の気がゆらりと揺れた。


「いけるかな?」


その一言に、

観客席がどよめく。


「おいおい……!一人で全員行くつもりかよ……!」

「やっぱ三剣神の息子は違うな……!」


花野は、真正面から残火を見据える。


(俺のことは眼中に無しか……)


胸の奥で、静かに闘志が灯った。


――力で押し潰す相手に、

力で挑む必要はない。


咲かせるのは、罠。


炎に焼かれる前に、

“勝ち筋”を植え付ける。


花野は、静かに構えを取った。


「燃えてきたね……」


次の戦いが始まろうとしていた。


『――試合開始!!』


司会の声が響いた瞬間――

花野は、迷わなかった。


「――Flower Garden!」


足元から、無数の蔓と花弁が爆発的に広がる。

一瞬で闘技場全域が、花野の支配領域へと変貌した。


(炎を出される前に――決める!)


蔓が地を這い、空を裂き、

残火の四方八方から絡みつこうと殺到する。


観客が息を呑む。


「は、速い……!」

「またあのフィールドか!!」


――だが。


残火は、動かなかった。


「……浅いな」


次の瞬間。


ゴォォォォッ――!!


残火の身体から、炎が“噴き出した”。


放つ、ではない。

存在そのものが、災害だった。


蔓が、花弁が、

触れた瞬間に消失する。


燃える暇すらない。

ただ、跡形もなく塵と化す。


「なっ……!?」


花野のフィールドが、

一瞬で削り取られていく。


『全て破壊したァァ!!花野の攻撃が通じない!!』


花野は、即座に後退する。


(――熱量が桁違いだ……!!)


地面から新たな蔓を生成し、

炎の進路を変え、盾にし、逃げ道を作る。


花弁が焼け落ちるたび、

その裏へ、身体を滑り込ませる。


ギリギリだ。


皮膚が、焼ける感覚。

呼吸するたび、喉が灼ける。


「……熱っ!」


残火は、歩いているだけだった。


一歩踏み出すたび、

花野の植物が消えていく。


「諦めろ、俺とお前の相性の差は歴然だ。」


更に火力が、神の気の出力が上がる。


「ハッ!!」


ドン――!!


足を踏み鳴らした瞬間、

衝撃と共に炎が波のように押し寄せる。


花野は、咄嗟に巨大な蔓を幾重にも展開し、

その裏へ転がり込む。


ボォォン!!


蔓が、まとめて灰になる。


(くそ……!)


完全に、押されている。


『す、凄まじい……!!

残火、花野を一切寄せ付けない!!』


観客席は、もはや歓声というより――

狂熱だった。


「これが三剣神の血か……!!」

「下界人のやつ完全に押されてんぞ!」

「下界人、焼け死ね!!」


炎が舞い、熱風が渦巻く。


闘技場そのものが、

巨大な炉と化していた。


花野は、息を荒げながら立ち上がる。


(呼吸が苦しい……!空気が熱すぎる!)


視線は、まだ折れていない。


焼け焦げた花弁の向こうで、

残火の炎が、さらに強く燃え上がった。


――ここからが、本当の地獄だった。

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