第77話 面で捉える
闘技場の中央。
倒れ伏した右歩が担架で運ばれていく中、
無闘はその場から動かなかった。
――勝ち残り戦。
先鋒が倒れなければ、
次も、また次も、同じ者が戦う。
『し、試合は続行!!
神界北、次の選手を選出中!!』
司会の声が、どこか上擦っている。
無闘は、ゆっくりと息を整えた。
(……よし、まだいける。)
だが一瞬だったとはいえMODE反転の反動が、
身体の奥にずっしりとのしかかってくる。
拳が、微かに震えていた。
その時。
「おい」
背後から声がかかる。
振り返ると、翔馬たちが結界越しに立っていた。
「ナイスファイト!」
翔馬が言う。
無闘は、鼻で息を吐いた。
「……おう。」
視線を落とす。
花野が心配そうに言った。
「まだ、いけるか?」
無闘は一瞬だけ黙り――
「当たり前だ」
短く答えた。
「ここで引いたら、
Fに笑われる」
観客席から、
次第にざわめきが大きくなる。
神界北の控え。
数人が言い争うように前に出たり、引いたりしている。
その中で。
一人だけ、静かに前に出た影があった。
長身。
均整の取れた体格。
纏う神の気は、鋭く、澄んでいる。
観客が、どよめいた。
「あれは……」
「まさか……」
司会が、息を呑む。
『し、神界北――
次に出るのはァ……!!』
男が、一歩、闘技場へ踏み出す。
『大平おおだいら!!』
歓声が、爆発する。
「来たぞ……」
「神界北の切り札……!もう出るのか!」
大平は、無闘を正面から見据えた。
その目に、油断も侮りもない。
「無闘……とか言ったな。」
低い声。
「下界人が右歩を倒すとは思わなかった」
無闘は、口角を少しだけ上げる。
「褒め言葉として受け取っとく」
「そうしてくれ」
大平は、静かに構えた。
神の気が、
ゆっくりと、しかし確実に高まっていく。
「だが」
視線が、無闘の拳に向く。
「次は、そうはいかん。」
無闘は、深く息を吸い――
再び、拳を構えた。
(集中しろ……俺は……)
背後で、翔馬が小さく呟く。
「……頑張れ無闘」
司会が、声を張り上げた。
『――二回戦!!
第二試合!!』
『無闘、連戦!!
対するは神界北・大平!!』
闘技場の空気が、
再び張り詰める。
――本当の山場は、ここからだった。
大平は、構えたまま一切動かない無闘を見据え、静かに口を開いた。
「……先に言っておく」
その声音に、驕りはない。
あるのは、覚悟だけだった。
「俺は最初から全力で行く。
手加減も、様子見も、しない」
観客席がざわめく。
無闘は、視線を逸らさず答える。
「……望むところだ」
『試合開始ィィィ!!!』
その瞬間。
大平の足元から、
黒く濃い神の気が噴き上がった。
低く、しかしはっきりとした声。
「御亡おな。」
空気が、歪んだ。
大平の背後、
地面から影のようなものがせり上がる。
それは――人の形をしていた。
筋骨隆々の男。
顔はぼやけ、感情は読み取れない。
だが、その身体から放たれる圧は、本物だった。
『な、なんとォ!!』
司会が声を張り上げる。
『大平の
神の気を用いて戦闘用の人形を創り出す能力!!
ここで早くも出すか!!』
観客席の最上階。
拘束されたまま観戦していた田野が、
目を見開く。
「……あれ……」
息を呑む。
「俺の祝福と……似てる……」
隣でFが、無言で歯を食いしばった。
(無闘……!)
闘技場。
大平が、前に一歩踏み出す。
それと同時に、
御亡が、地を蹴った。
――速い。
無闘が反応する前に、
御亡の拳が迫る。
無闘は咄嗟に受け流すが、
次の瞬間――
別方向から、
大平本人の蹴りが飛んできた。
「……ッ!」
二方向。
同時攻撃。
無闘は後退するしかなかった。
『見てくださいこの連携!!
創り出した存在と本人による
完璧な挟撃だァ!!』
司会の声が、熱を帯びる。
御亡が殴る。
大平が斬り込む。
受け流せば、死角からもう一撃。
避ければ、退路を塞がれる。
無闘の足が、
少しずつ、闘技場の端へと追い込まれていく。
(くそ……!)
連戦の疲労が、
確実に、身体を鈍らせていた。
拳で弾く。
肘で逸らす。
大平が低く言う。
「どうした、さっきみたいに受けて見ろ!」
御亡の拳が、
無闘の腹部を掠める。
鈍い衝撃。
無闘の身体が、くの字に折れた。
『無闘、劣勢!!
連戦の消耗が、
ここに来て重くのしかかる!!』
観客の歓声が、
次第に大きくなる。
無闘は歯を食いしばり、
血の味を噛み締めながら、立ち続けた。
「クソッ……!」
大平と《御亡》のコンビネーションは、
確実に、無闘を追い詰めていた。
無闘は、深く息を吸う。
追い詰められた身体。
連戦による消耗。
そして――二方向からの圧殺。
それでも、その目は死んでいない。
「出し惜しみしてる場合じゃねえか……!」
低く呟いた、その瞬間。
無闘の身体から、
蒼の気が反転するように噴き上がった。
蒼の気がその身体を流れる血液の如く体内で踊る。
空気が――鳴った。
その変化を誰よりも早く大平は感じとる。
(来たか……!奴の本領……!)
観戦する遠くの翔馬達もその変化を感じ取った。
「反転……!ここで出し切るつもりか!」
花野の頬から汗がつたう。
「MODE反転……!決闘!」
闘技場全体が、
一瞬、白く染まる。
『何だ!?無闘の周りが……!!』
司会の声が裏返る。
『これは……!まさか……!信じられません!下界人がMODEを使用しています!』
(MODE……下界人があの技を……)
だが――
大平は予想外の事態にも動揺していなかった。
むしろ、口角をわずかに上げる。
「思ったより骨がありそうだな。」
次の瞬間。
大平の全身から、
神の気が爆発的に放出された。
だがそれは、
攻撃でも、防御でもない。
空間そのものに、
神の気が“張り付く”。
「俺も本気で行こう――」
静かな声。
「"面"で捉える。」
大平の周りの空気が変わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます