第76話 下界人の意地
「下界人の意地ってやつ見せてやるよ。」
観客が、息を呑む。
『お、おおっと!!
無闘、まだ戦意は失っていない!!』
司会の声が、闘技場に響く。
その瞬間、右歩は無闘の背後に回り込んでいた。
無闘は咄嗟に躱わそうとするが右足が固定されて動けない。
重い一撃が無闘の背中に叩き込まれる。
「ウッ!!」
蒼鎧を使って防御はしているものの無闘は多少のダメージを受けた。
(クソ……何とか弱点を見つけないと……!)
逃げようにも右足が地面に吸い付いている。
右歩が、さらに一歩踏み込んだ。
神の気を纏った拳が、無闘の顔面を狙う。
(来る!!防御――)
だが、その瞬間。
スッ。
右足にかかっていた“重さ”が、消えた。
「……っ!?」
無闘は反射的に体を捻る。
拳は頬をかすめるだけで、背後の床を砕いた。
ドンッ!!
「な――!?」
「今、動いたぞ!?」
観客がどよめく。
『おおっとォ!?今のは回避だ!!右足、動いたぞ無闘!!』
司会が声を張り上げる。
無闘は着地しながら、わずかに口角を上げた。
再び、無闘の右足が重くなる。
床に縫い止められる感覚。
(……解除された)
一瞬だけ。
本当に、ほんの一瞬。
(常時じゃねえ……!)
右歩は動じない。
だが、その視線が、ほんの僅かに鋭くなった。
無闘は、確信した。
(クールタイムがある)
祝福は万能じゃない。
発動 → 固定 → 解除
その“隙間”が、確かに存在する。
(短いが……ゼロじゃない、一瞬のクールタイムの間に一撃どでかいのを入れるしかねぇ……!)
蒼の気が、静かに研ぎ澄まされていく。
右歩が、再び踏み込もうとする。
――その時。
無闘の視線が、床ではなく
右歩の足運びそのものを捉えていた。
(来る……)
祝福が、解ける“次”を。
だが、その瞬間。
神の気が爆発的に噴き上がり、
右歩の身体が残像を引いた。
「!?なっ――」
無闘が息を呑む間もなく、
拳。
肘。
膝。
蹴り。
四方八方から、同時に叩き込まれる。
『は、速い!!連続攻撃だァァ!!右歩、先程の攻撃は本気じゃなかった!』
司会の声が追いつかない。
右歩の祝福が、断続的に発動する。
固定。解除。固定。
「……くっ!!」
無闘は受け流そうとするが、
足が止められ、体勢が崩される。
腹に一撃。
ドゴォッ!!
「ぐおっ――!」
背中に衝撃。
視界が反転する。
床に叩きつけられる前に、
さらに拳が落ちてくる。
『右歩、容赦がない!!』
『クールタイムの隙を消す連打だ!!』
観客席が狂ったように沸く。
右歩は淡々と告げる。
「俺の祝福を見切ったつもりか?」
無闘の右足が、再び縫い止められる。
逃げ場はない。
神の気が、
無闘の全身を叩き潰す。
ドドドドドドドッ!!
まるで、
嵐の中に立たされているかのような暴力。
無闘の身体が、
何度も宙に浮かび、叩き落とされる。
「……っ、は……!」
蒼の気が揺らぐ。
呼吸が乱れる。
視界が、赤く滲む。
『無闘、完全に押されている!!これが七天神候補の本気だ!!』
右歩は一歩下がり、
最後の一撃を構えた。
「クールタイム……その弱点は俺もとうに気づいている。」
その言葉に、感情はない。
「そんなものを待つほど、俺は甘くない!」
神の気が、極限まで圧縮される。
闘技場全体が、悲鳴を上げた。
無闘は、膝をつきながらも――
ゆっくりと、顔を上げる。
口元が、僅かに歪んだ。
「ゲホッ……痛えな……」
血の混じる息を吐きながら、呟く。
蒼の気が、再び灯る。
追い詰められたはずの無闘の目に、
恐怖はなかった。
あるのは――
闘志だけ。
「MODE反転。」
同時に右歩の神の気が、臨界まで高まる。
闘技場の空気が、悲鳴を上げた。
次の一撃。
それは確実に、無闘を仕留める角度だった。
――その瞬間。
無闘は、受け流しの構えを解いた。
司会の声が、裏返る。
『無闘、構えを捨てたァ!?』
(諦めたか……!どちらにせよ逆転は不可能!)
蒼の気が、逆流する。
身体の内側で、
今まで抑え込んでいた何かが――反転した。
「ハァッッ!!!」
右歩の神の気が炸裂する。
ドンッ!!!!
一瞬の凄まじい衝撃。
音も、光も、
すべてが遅れて追いつく。
右歩の拳が、
真正面から無闘を捉えていた。
だが――
「……な……」
言葉にならない声。
右歩の身体が、
紙屑のように宙を舞う。
次の瞬間。
ズドォォォン!!
闘技場の床に、
深いクレーターが刻まれる。
右歩はその中心で血を吹き、動かなくなっていた。
神の気が、霧散する。
固定の祝福も、
もう発動しない。
完全な――戦闘不能。
一拍の沈黙。
そして。
『これは……』
観客席が、言葉を失う。
司会が、震える声で叫んだ。
『し、勝者――!!』
『勝者はァァァ!!』
『下界チーム!!無闘ッ!!』
歓声と悲鳴が、
同時に爆発する。
「嘘だろ……」
「七天神候補が……一撃……?」
「今何したんだよ……全く見えなかったぞ!?」
無闘は、拳を下ろし、
荒い息を吐く。
「MODE反転、決闘……」
それでも、立っている。
「一瞬だけでもこんな……まあ温存できた方か。」
蒼の気を防御に使うことを捨て、
攻撃に全てを叩き込む禁断の切り替え。
無闘は、
倒れた右歩を一瞥し――
「……悪いな」
そう言って、
背を向けた。
コロシアムは、まだ騒然としている。
だが確かに。
コロシアムに立っているのは無闘ただ一人だった。
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