第74話 2回戦開幕

控え室の扉が、静かに開いた。


 ――無い野が、戻ってくる。


 闘技場の喧騒は分厚い壁に遮られているはずなのに、

 まるで地鳴りのような歓声が、床を伝っていた。


 無闘が無い野の方を向く。


「遅かったなおい、尻尾巻いて逃げたかと思ったぜ。」


「雑魚が、お前と一緒にするな。」


 無い野は短く呟く。


 控え室の空気が、

 僅かに歪んだ。


 次の瞬間。


 控え室の扉からノックの音がし、静かに開いた。


「時間です」


 淡々とした声。


 振り向くと、そこに立っていたのは執事だった。

 表情も、声色も、前回と何一つ変わらない。


「二回戦の準備が整いました。

 コロシアムへご案内します」


 翔馬たちが立ち上がる中、

 控え室の隅に座っていた当て野が一歩前に出る。


「……もうそんな時間か。」


「ええ。およそ三時間、予定通りです」


 執事は腕時計を見る仕草をする。


「では――」


 そう言いかけた瞬間。


 無い野が、執事を一瞥した。


「貴様……何のつもりだ。」


 一瞬だけ、

 執事の視線が揺れた。


「……何の事でしょう?何か粗相をしましたか?」


「……タヌキが。」


 無い野はそれ以上追及しない。


 執事は軽く頭を下げる。


 下げた顔をニヤリと歪めたのを無い野は見逃さなかった。


「二回戦第一試合、

 先鋒は決まりましたか?」


 その言葉に、

 控え室の空気が引き締まる。


「ああ、俺だ。」


 答えたのは無闘。


「……そうですか、ご武運を。」


 無い野は背を向け、執事に肩をぶつけ先にコロシアムへと向かう。


「せいぜい頑張れよ。」


 短い言葉。


「では、コロシアムへ」


 執事が扉を開く。


 ――同時刻。


 コロシアム最上階、

 多死Rossの私室。


 巨大な闘技場を見下ろしながら、

 多死Rossは楽しげに笑っていた。


「二回戦……あいつらか、運が悪いな下界人。」


 拘束されているFが威勢よく鎖の音を鳴らした。


「随分余裕そうだね、あんたがぶっ殺されるのも遠くないんだから今のうちに神様に祈っとけば?」


「余裕?当然だ。」


 多死Rossは即答する。


「あのチームには現七天神候補が三人。」


「“候補”とはいえ、

 選ばれれば神界の秩序を担う存在だ」


 視線が、

 闘技場中央へ向く。


「初戦が、無闘と右歩みきほ。」


同じく拘束されていた田野が驚きの表情を見せる。


「無闘……!」


「哀れだとは思わんか?」


 笑みが深くなる。


「二回戦で当たる相手としては――

 重すぎる」



 コロシアム。


 再び歓声が爆発する。


 無闘と右歩が、

 闘技場の中央で向かい合う。


 司会の声が、

 震えるほどの熱量で響いた。


「――それでは!!

 二回戦第一試合!!」


「先鋒、無闘!!」


「対するは――

 神界北、右歩みきほ!!」


無闘と右歩が、向かい合う。


 右歩は、無闘を一瞥し――

 わずかに、首を傾げた。


「随分、落ち着いてるな」


 右歩が、淡々と口を開く。


「普通ならここで足が震える。」


 無闘は、構えを崩さない。


「生憎、震えるほどの余裕はねぇ。」


 右歩は、微かに笑った。


「そうか」


 その瞬間。


 右歩の神の気が、

 一気に解放された。


 ドン――!


 見えない圧が、

 闘技場を押し潰す。


 観客が、息を呑む。


「……っ!!」


 無闘の足が、

 床に沈む。


(重い……!!)


 司会が、声を振り絞る。


『――――試合開始ィィィッ!!』

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