第2章 神界高校・体育祭編

第16話 予告

——翌朝。


街路樹の影がまだ長い時間帯。

翔馬と与志野は、並んで自転車を走らせていた。


「学校も久々だな...」


「まあお前は2週間以上入院してたからなー。」


「予習してなかったし授業ついていけるかな....」


「真面目すぎだよお前.....」


仮設校舎へ向かう道をカーブした、その瞬間——


ガッ! と鋭いブレーキ音。


前方から勢いよく自転車が飛び出し、ぶつかりそうになる。


「うわっ!すいません!」


翔馬が慌ててハンドルを切り、停止した。


相手の自転車もギリギリで止まる。

そして——


「ねぇ!何で!!」


高圧的な声が響く。


「え?」


見上げると、髪がボサボサの女子高生がこちらを睨んでいた。

寝癖のまま無理やり結んだようで、ところどころ跳ねている。


(……だ、誰だ?)


翔馬が素直に頭を下げる。


「ごめん、こっちも確認が甘かった。」


「何で!?何でちゃんと確認しないの!?それは違うと思うよ!!!」


「あ...あぁ悪かった....気をつけるよ。」


翔馬はその圧に若干引きながら頭を下げる。


キュッ……!


翔馬が謝ると驚くほどのスピードで自転車を走らせ、

あっという間に視界から消えた。


与志野が眉をひそめる。


「……なんだあいつ。言い方キツくねぇ?

 てか速すぎだろ……」


翔馬も同じく気になったが、ひとまず学校へ向かう。



学校内の駐輪場に自転車を止め2人で校舎に入る。


クラスに入るや否やエルサがこちらに気づき、勢いよく駆けてきた。


「おぉ翔馬!お前大丈夫なのかよ!?」


翔馬は笑って手を振る。


「もう大丈夫だ。心配してくれてありがとな。」


エルサはホッとした顔で背伸びした。


「そりゃ心配するだろ!あんなに怪我してたのに2週間ちょっとで治るのか!?」


「治ったんだなそれが。」


3人で苦笑しながら教室へ向かった。


朝のホームルーム。


担任・多い死おおいし先生が教壇に立つ。

表情は明るいが、どこか生徒たちを気遣うような柔らかさがある。


「……色々あったな、この数週間。」


教室の空気がすっと静まる。


「でもな、俺は思う。

 “大変だったからこそ、やるべき行事がある”って。」


生徒たちは顔を上げた。


多い死先生は続ける。


「予定通り、二ヶ月後——

 体育祭を実行する。」


驚きとざわめきが広がる。


「無理に盛り上がれとは言わない。

 ただ……みんなでこれから作る学校生活の思い出を、

 この状況で無くすのは違うと思うんだ。」


翔馬は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。


(……この先生、本当に強いな。)



休み時間。


クラス中が体育祭の話題でざわめいていた。


「マジかよ……この状況で体育祭やるとか逆にすげぇな。」


「普通なら中止だろ……先生ら、よく決断したよな。」


与志野も腕を組む。


「まぁでも……悪くねぇ判断だと思うぜ。」


翔馬も小さく頷いた。


「そうだな……みんなが前向けるなら……」


その時だった。


——コツ、コツ。


足音がした。


普通の足音なのに、

なぜか教室全体の空気が“凍るように”静まる。


翔馬は反射的に背筋を伸ばした。


(……まさか——)


教室の後ろの扉がゆっくり開く。


「こんにちは……」


顎の先が少し前に出た、無表情の女子——

フンペチが、そこに立っていた。


周囲の生徒は誰一人としてその事に触れない。

それどころか、なぜか“存在そのものに気づいていない”ようだった。


フンペチは歩み寄りながら、

亜里野たち三人の前で立ち止まる。


「突然……失礼します……

 抹殺斗さんからの……伝言です……」


翔馬の心臓が大きく跳ねた。


フンペチは淡々と言う。


「決戦は——二ヶ月後の体育祭。

 その日……必ず殺しに来るそうです……」


教室の中で、その言葉だけが異様に響いた。


与志野が小声で呟く。


「……体育祭が……決戦の舞台……?」


田野は青ざめている。


フンペチは顎を少し前に出し、メモ帳を開いた。


「現場は……整えやすいですし……

 人が多い方が……混乱して後処理が楽なので……」


「お前ら....文化祭でYOU diedが暴れてどうなったか覚えてねぇのか!また同じ事になったら...!」


フンペチは全く表情を変えず、淡々と告げた。


「なりませんよ。抹殺斗さんとあのゴミを一緒にしないでください。」


「なっ...!」


「……では。二ヶ月後……お会いしましょう……」


その瞬間——

まばたきしたら姿が消えていた。


翔馬は拳を握りしめる。


(……逃げ場なんてない。

 だけど——絶対に負けられない。)


体育祭。

歓声が響くあの行事が、

“殺し合いの舞台”にされようとしている。


翔馬は深く息を吸った。


「……覚悟を決めるしかないな。」


——その日の午後、近くの廃工場。


折れた鉄骨が並び、天井から細い光が落ちている。

冷たいコンクリートの床に、靴音がコツン……と響いた。


抹殺斗が歩いている。


その後ろを、顎を少し前に出した猫背の少女——

フンペチがついていく。

手には、例の血痕のついたノート。


静かな時間が続いたあと、

フンペチが口を開いた。


「……抹殺斗さん……一つ質問、いいですか……」


抹殺斗は歩みを止めず、横目だけ向ける。


「ん?」


フンペチはメモを捲りながら、


「なぜ……二ヶ月も……猶予を与えたんですか……?

 本気で殺すだけなら……あの時すぐやれたはず……私なら死体処理に10秒もかかりません。」


抹殺斗は少しだけ顎を上げた。


「二ヶ月の猶予……俺の判断じゃない。」


「フーン...じゃあ……誰の?」


抹殺斗は壁に手をついて止まる。

薄笑いでも怒りでもない——感情の読めない声で言った。


「“こいつ”の依頼だ。」


コン……コン……。


工場の奥、暗がりから靴音。


「君達学校はどうした?」


フンペチが反射的に背を伸ばした。

空気が一瞬で張り詰める。


「サボりは良くないな...授業には出るもんだよ。」


闇から、ゆっくりと一人の影が姿を現す。

マスクで顔は見えない。


「余計なお世話だな。」


抹殺斗ですら、わずかに姿勢を正した。


マスクの人物は抹殺斗の横に立つと、

フンペチを見下ろすように言った。


「……初めまして、フンペチ君。

 あなたの“後処理”の腕は高く評価しています。」


フンペチの目が一瞬だけ揺れる。


抹殺斗がマスクの男に視線を向ける。


「奴らにはちゃんと二ヶ月後と言っておいた。依頼内容は反故にはしない。」


マスクの人物は淡々と続けた。


「二ヶ月の猶予は“必要”なのです。

 彼らが強くならなければ、対抗できない。」


「対抗……?」


フンペチが小さく呟く。


マスクの人物は静かに頷いた。


「舞台は体育祭。

 観客も、生徒も、教師も……全員が“立会人”。

 誰が生き残るのか...フッ。」


抹殺斗が口角だけを上げる。


「殺しは目的じゃない。

 ——“選別”だろ?」


マスクの人物は抹殺斗の言葉を否定しなかった。


ただ、軽く片手を振る。


「詳しく話す必要はありません。

 あなたたちは予定通り動けばいい。」


フンペチは思わず一歩後ずさる。


「……あなたは……何で……」


マスクの人物は階段へ向かいながら答えた。


「ではまた。」


足音が地面に吸い込まれる。


「……準備を進めてください。

 二ヶ月後、“本当の戦い”が始まります。」


やがて姿が完全に消えた。


静寂。


フンペチはメモを握りしめ、

抹殺斗を見る。


「……あの人……」


抹殺斗は答えない。


ただ、影のほうを見ながら言った。


「いいかフンペチ。

 二ヶ月は“準備期間”だ。

 俺たちにとっても、あいつらにとっても。」


そして、口元に笑みを浮かべる。


「今度は校舎の7割どころじゃねえぞ。」


金属音が残響し、幕が落ちた。

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