第15話 フンペチ

——夕暮れの仮設校舎裏。


翔馬・与志野・田野の三人は覚悟を確かめ合っていた。


そのとき——

カン、カン……と金属音が近づく。


与志野が反射的に身構える。


「.....何か来る....」


そして、影の奥から“赤い雫”がポタリと落ちた。


「……血……?」


田野が口を押さえる。


影が裂けた。


「よう。」


まるで散歩帰りのような軽さで——

抹殺斗が現れた。


黒い制服。人間味のない気配。

周囲の空気が一気に冷え込む。


そしてもう一人。

抹殺斗の背後の影から、

制服姿の女子高生がスッ……と出てきた。


短めのスカート。少し猫背で、

“顎がほんの少し前に出ている”のが特徴的。


表情は無表情なのか、不機嫌なのか判別しづらい。


抹殺斗が言う。


「紹介しよう。俺の部下——フンペチだ。」


フンペチは深く頭を下げた。


「抹殺斗さんの後処理担当です……よろしく……」


声は小さいが妙に響く。

顎の形のせいか、発音が時おりカクッと震えて聞こえる。


与志野が目を細めた。


「……女子高生?部下?」


フンペチは目線だけこちらに向けた。


「年齢や立場と戦力は……無関係ですよ……

 YOU diedを始末したのも……抹殺斗さんですが……

 その後片付けと痕跡消しは……全部わたしです……」


田野が青ざめた。


「後片付け……?まさか.....その鉄パイプ....」


抹殺斗は微笑むでもなく、ただ淡々と語る。


「言ったろ。俺は仕事が速い。そして——フンペチは“痕跡を残さない”。」


フンペチが顎をほんの少し上げると、

周囲の空気が一瞬ざらついた。


(な、何だ今の……?)


翔馬は反射的に身構える。


抹殺斗は翔馬へ向き直る。


「退院したんだな。確認に来た。」


「……確認?」


「お前が“次に殺す相手”で間違いないかどうか。」


与志野が一歩踏み出す——が。


「動くな。」


抹殺斗の声が刃のように響く。

三人の身体が止まった。


フンペチは横で淡々とメモを取っている。


「ふーん……戦闘は……今日なし……人目……多い……」


抹殺斗は校舎の方角を指す。


そこには警備員や教師のライトが近づいてきていた。


「今ここで殺すと、フンペチが後処理に時間を取られるからな。」


抹殺斗が不敵な笑みを浮かべた。


「それに.....今はまだ殺すなと言われてる....」


「言われてる.....だと?誰にだ?」


抹殺斗は言った。


「守秘義務だ。」


その言葉に温度はない。

ただ、壊れ方を観察する科学者の声。


「だから——もっと強くなれ。

 蒼の気もまともに使いこなせないようじゃ殺す時に何の面白みもない。」


翔馬は眉をひそめた。


「蒼の気.....?」


フンペチが顎をちょっと前に出し、

ひそひそ声で続ける。


「次の襲撃……スケジュール……調整しておきますね……

 翔馬くん……準備……しておいてください……」


「スケジュールって何だよそれ!」


田野の声が裏返る。


抹殺斗は影へ足を踏み入れた。


「次は本気で殺す。」


フンペチも深く礼をして、


「では……また近いうちに……」


影に溶けて消えた。


——静寂。


与志野が拳を握りしめた。


「.....何だったんだあいつら。」


田野は膝を震わせる。


「抹殺斗もやべぇけど……フンペチの雰囲気が……ただもんじゃない....」


翔馬はゆっくり拳を握りしめた。


「抹殺斗だけじゃない……フンペチも強敵だ。

 でも……必ず止める。」


夕闇が三人の影を飲み込みながら、

幕は静かに上がった。

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