京都怪談
高伊志りく
エレベーターの女
ある晩のことだった。
三年前に始まった大学生活も、いよいよ後一年で終わりを迎えようとしていた。この頃は企業の説明会に参加し、エントリーシートを送る毎日が続いている。そんなストレスの溜まる毎日を送っていたが、その日はなんとか忙しい毎日に無理やり空けた自由時間で、大学の友人たちと遅くまで飲んだ。
出席するべき大学の授業も少なくなっていたので久しぶりに会った友人も多く、お互いに就活の愚痴を言い合い、大いに盛り上がった飲み会は終電間際まで続いた。友人たちと別れ、夜道を歩いていると、火照った顔に六月の涼しい風が当たって心地が良い。
それから電車に乗り、
築二十八年の十一階建。
果歩はマンションを見上げると「この家とも後1年でお別れかあ」としんみりした気持ちになる。そのまま入口まで歩くと、集合玄関はぼんやりと薄暗い光に包まれていた。数日前から電灯が切れかかっており、光がちらついているのを見て、果歩は「さっさと替えてほしいな」と思う。そして、ポケットから出した鍵をオートロックの鍵穴にを差し込んで回すと、入口の自動ドアがゆっくり開いた。
中には、正面右に十部屋ほどあり、左にはエレベーターホールがある。マンションの共用廊下はしんと静まり返っており、整然と並んだ扉は微動だにしない。
果歩の部屋は六階だったのでエレベーターホールに向かう。
そこで一瞬、足が止まった。
薄暗いエレベーターホールには、一人の女性が立っていた。エレベーターの方を向いて、どうやら到着を待っているところのようだった。果歩は「こんな時間に帰宅するなんて珍しいな」と思ったが、自分も同じようなことをしているのに気づいて少し笑ってしまった。
そのうち、エレベーターが到着して果歩は女性に続いて乗り込んだ。行先階を押そうと思ったが、困ったことに女性は行先パネルの前に立っていて、動こうとしない。声をかけて押してもらおうかと迷っていると、やがて扉が閉まってエレベーターが動き出した。
ごうんごうんとエレベーターが動く音だけが、その狭い空間に響く。果歩は焦って、横から無理やり腕を差し込んで自分の階を押そうとしたところで、ギョッとした。
エレベーターの行先パネルはどの階も光っていない。
行き先階が押されていなかったのだ。それにも関わらず、エレベーターは低い音を立てながら上昇している。
完全に酔いは覚めてしまった。
すぐに自分の降りる六階を押して、さっと元の位置に戻って直立する。そのまま盗み見るようにして前に立った女性を見てみると、長い黒髪で線の細い女性のようだったがやはり見覚えはなかった。
ドキドキと心臓の鼓動が早まるのを感じる。
居づらい空気のまま、やがて自分の階に着くと、チンと軽い音を立てて扉が開いた。
目の前の女性は微動だにしない。
一呼吸おいて、果歩は小走りでエレベーターを降りた。そのまま、ゆっくりと前に向かって歩きながら背後の気配を確かめる。コツコツと果歩の履いたヒールの音だけが廊下に響いた。
だが、一向にエレベーターの閉まる音がしない。怖くなったが、このままにすることもできなかったので、果歩は意を決して振り返った。
すると、誰もいないエレベーターの扉がごうんと音を立てながらゆっくりと閉まるところだった。
京都怪談 高伊志りく @takaishi_riku
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