あおのひかり
アジ
日常の光
起きて。メシ食って。歯磨いたりなんなりして。着替えて。ちょっと髪を整えて家を出る。
朝のバスは来ないから駅まで歩く。道中でメッセージが一件届く。駅に着いてから用件を見る。URLをタップすると見慣れたユーチューバーのアイコンが表示される。内容を読んで、『爆笑』のスタンプを送り返す。
電車に乗って、ゲームをして、バスに乗り換えて、気づいたら学校に着いて。
授業を受けて、友達と喋って、繰り返して、弁当食べて、また繰り返して、帰る。
そんな変わり映えのない楽しい日々を過ごしてるのが、俺、早川碧人、中学二年生だ。少し前まで一年生だったが。ただ、変わり映えのない日々に一色を足してくれる人もいる。感謝だ。
色々思いながら授業の支度をしていたら、肩を叩かれた。
「呼ばれてるぞ」と。
フッとドアの方を見ると、いた。俺の人生に色をつけてくれる人。
「はーかわぁ、ちょっといぃ?」
母音をわざと強調するように呼んでくる彼女、都西紗倉。彼女こそが俺の初恋の相手だ。淡々とした世界に、イレギュラーな色をぶちまけていく。太陽のような、眩しいくらいに明るい女の子だ。彼女の後ろから春の光が差し込み、キラキラと輝いて見える。まるで女神や天使のような...
呼ばれたからには行かなければならない。けど廊下はまだ寒いから、教室から出る寸前のところまで行く。
「なぁめんどくさがんなって〜」
そう言って彼女もドアのレールのギリまで近づいてくる。猫背の俺より少し低い背。その分上目遣いになっていて、ちょっと可愛い。この前、『私はまだ成長期止まってないかんな! 将来絶対に抜かしてやるからはやく成長止まれぇ!』って上から肩を押されたから、さっき思ったことなんて言ったら殺されるんだろうな。
「てか、お前まだダウン着てんの?!」
そう言う彼女はまだ四月だっていうのにすでに半袖を着ている。
「...いっつも言ってるじゃん。寒がりなんじゃなくて、上着が好きなの。」
紛れもない事実だ。彼女は半袖と動きやすい服が好きらしい。だから動きずらいジャケットは極力着ないし、ましてやその上に上着なんてもってのほからしい。去年の校則改訂で来年、つまり今年からポロシャツが着れるとなった時は部活中も一人で喜んでいた。
(…きっと着たら可愛いだろうなぁ、)
言い方は悪いが、別に彼女はモデルのように美人とかなわけではない。口だって悪いし。それでも俺が好きになった理由は...
「そうだそうだ、本題!今日部活行く?」
思考を一時停止して質問に答える。
「まあ、行く...んじゃない?」
「いやどっちだよ!」
彼女のツッコミはところどころ面白い。正直なところ、今の時期は彼女が部活に行かないなら俺も行かなくてもいい。逆にいうなら彼女がくるなら行きたい。それを含めての曖昧な返事だ。
「んー、早川が行くなら私も行くかぁ。後輩たちの見学もそろそろ始まるしねぇ」
来てくれる。少し心が躍る。思考は既に帰り道のことに向かっている。
「そだ、あれ、レベル45までクリアしたよ」
あれ、というのは俺たちが共通してやっているRPGゲームだ。そういえば、今朝のURLもこのゲームに関する彼女のお気に入り配信者の投稿だった。
「俺、60までクリアしたし」
「えー、まじぃ〜?やりすぎだろぉ」
そう言って笑い合う、小学生みたいな意地の張り合い。でも、この時間が結構好きだ。
それに、この"話題"こそが、彼女を好きになった理由の一つだ。ゲームや配信の話ができて、俺みたいな陰キャが話しかけても反応が優しくて、話してて楽しくて、面白くて頭がいい。そんな彼女が好きだ。もちろん、彼女が自分を落とす発言をするようにダメなところもあるのかもしれない。でも、今は気にならない。
「んじゃ、そろそろ戻るね」
時計を見ると、授業が始まるまで五分を切っていた。俺たちは学年の端と端の教室だ。今まで同じクラスになれたことはないから、来年こそは同じクラスになれたらいいな。修学旅行もあるし。二年生の間でも行事とかでも接点があったら嬉しい。
楽しい時間が終わり、彼女の明るい色が少しずつ抜けていく。また授業かと少ししょげながら席に戻ると、数人の男子が俺をニヤニヤしながらつついてきた。数少ない友達だ。どうせもう、否定したところでバレてるんだろう。彼女が遊びに来た時に、俺に伝えにくるのはほとんどこいつらだ。チャイムと共に幸せの余韻は散り、代わりに楽しみへの待ち時間が始まった。
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あおのひかり アジ @Sashimi-Aji
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