学園都市まほろばプロジェクト ~楔《くさび》ヒカリは“兵器”として管理されている~

よみひとしらず

第1章 学園都市編

第0話 闇夜《ノクト》

深紅とエメラルドのオッドアイ。

夜を裂くように揺れる、金色の髪。


空が、わずかに歪んだ。


世界の外縁――

学園都市真秀ろば《まほろば》。


選別され、能力を伸ばすためだけに集められた

デザインベビーたちが暮らす箱庭。


そのすべてを隔てる防壁は、

空を断つように高く、静かにそびえ立っている。


――ここに、記録は残らない。


理由は、存在しない。

名前も、目的も、誰にも与えられていない。


ただ――

目覚めた時には、すべてがそこにあった。


雑音。

歪んだ気配。

理解不能なノイズ。


「……五月蝿い」


少女の声は低く、感情がない。


次の瞬間。

破壊衝動が、夜を切り裂いた。


漆黒をまとい、金色が舞う。

旋風。


防壁の影から、異形が現れる。


人の形に近い。

だが、関節は歪み、皮膚は均一で、

目は“見る”というより、測っていた。


人とも、機械とも言い切れない――

異物。


それらは、少女へと殺到する。


速い。

だが、届かない。


少女は、防壁を――

地面のように駆けた。


空中を蹴り、壁を踏み、

金色の旋風が夜を縫う。


最初の一体が、腕を伸ばす。


触れる前に。


――消えた。


叩き潰されたのではない。

切り裂かれたのでもない。


存在していた“形”だけが、

途中から抜け落ちた。


残骸は、地面に落ちる前に霧散する。


二体目。


少女は近づき、

すれ違う。


それだけで。


異形の胴体が、上下に分かれ、

意味を成さない肉塊となって崩れた。


三体目が、叫ぶ。


音にならない振動。


――うるさい。


少女は、防壁を蹴り、

上から踏み抜いた。


衝撃。


異形は、地面に叩きつけられ、

再生する暇もなく、形そのものを失う。


四体目、五体目。


数は意味を持たない。


触れない。

殴らない。

撃たない。


ただ、近づいた“結果”が消える。


異形たちは、理解しないまま消えていく。


恐怖も、抵抗も、

処理される前のノイズに過ぎない。


最後の一体が、壁にしがみつく。


逃げようとしたのか、

近づこうとしたのか。


少女は、立ち止まる。


紅い瞳が、静かに向けられる。


「……遊び、終わり」


次の瞬間。


異形は、存在していた事実ごと削除された。


音はない。

光もない。


ただ、そこに“何もない”。


夜は、再び静かになる。


少女は、防壁の上層から跳び、

軽やかに着地した。


音もなく。

衝撃もなく。


金色の髪が揺れ、

深紅と翠の瞳が夜を見渡す。


そこには、守るべき都市も、

壊すべき世界もない。


ただ――

邪魔なものが消えただけ。


誰にも知られず。

誰にも記録されず。


それでも、この瞬間。


学園都市真秀ろばの外縁で、

確かに“何か”が目覚めた。


それは、光ではない。


だが――

世界が無視できない闇だった。


――ルナティア。


闇夜ノクトは、

まだ、始まったばかりである。

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