追放されたら辺境でお菓子屋さんはじめました…なのに元同僚の勇者が店先で土下座して謝ってくるのはなぜ?
@xiangzi
第1話
旅館のロビーで、暖炉の炎が揺らめき、壁の影を長く伸ばしていた。
私は階段の入り口に立ち、着替えを入れた布の袋を手に握りしめていた。
アベルはロビーの中央に立ち、リリナが彼の腕を組んでいて、二人の影が床の上で一つの塊に重なっていた。
「アリス。」
彼が私の名前を呼ぶとき、その口調はとても穏やかで、「今日はいい天気だ」と言っているかのようだった。
私は無意識に背筋を伸ばし、両手を前に組んだ。それはまさに侍女の姿勢だった。
「はい、アベル様。」
彼は眉をひそめた。おそらくこの呼び方が気に入らなかったのだろう。だが彼は何も言わず、ただ腰から財布を外し、私の足元の床に投げた。
硬貨がぶつかり合う音はとても澄んでいた。
「リリナが戻ってきた。」彼は言った。「パーティーにサポート役が二人は必要ない。魔王討伐の効率を考えて、君に去ってほしい。」
ああ。
ついに。
ついにこの日が来た。
私の心臓は胸腔の中でゆっくりと鼓動を打っていた。遅すぎて、一つ一つをはっきり数えられるほどだった。
一つ。
二つ。
三つ。
「……わかりました。」
私は腰を折って財布を拾い上げた。手応えは重かった。おそらく彼は、これで少しは気が楽になると思ったのだろう。
リリナは彼の肩にもたれかかり、目を赤くしていた。泣いたばかりのようだった。彼女は私を見て、声をひそめて言った。「アリス、ごめんなさい……戻ってくるつもりじゃなかったの、ただ……ただみんなが本当に恋しくて……」
「大丈夫です。」
私は彼女に笑いかけた。
本当に大丈夫だった。
私は頭を上げ、アベルを見た。彼の顔は炎の光の中で明滅し、その青い目には何の動きもなかった。
まるで使い古した道具を見るようだった。
「では、これまで私が皆さんに維持してきたすべての加護も、一緒に持ち去ります。」
私はこの言葉を、とても優しい口調で、少し笑いを含ませながら言った。
アベルは一瞬戸惑った。
「何?」
「加護ですよ。」
私は首を傾げ、指先を空中で軽く動かした。
無形の糸が目の前に浮かび上がる——彼らにつながっている、蜘蛛の糸のように細い魔力回路。
【持続治癒】、【負の状態無効化】、【装備耐久回復】、【睡眠品質向上】、【食物浄化】……
全部で十七条。
私がパーティーに加わった初日から、こっそりとこれらを編んでいた。
そうすれば、彼らは私を必要としてくれると思ったから。
馬鹿みたい。
私はそっと拳を握りしめた。
パチン。
すべての糸が同時に切れた。
魔力が逆流した瞬間、指先が少し痺れたが、我慢して表情を変えなかった。
「どうか武運が栄えますように。」
私は膝を屈めて標準的な別れの礼をし、振り返って宿の扉に向かった。
後ろからリリナの小さな声が聞こえた。「アベル、彼女が今言ったこと……どういう意味?」
「わからない。」
彼の声は淡々としていた。
「たぶん、怒って言ってたんだろう。」
私はドアを開けた。
外は雨が降っていた。
どしゃ降りだ。
雨水が石畳に当たり、細かい水しぶきを上げる。私は軒先に立ち、深く息を吸った。
空気には土と草の匂いが満ちていた。
いい匂いだ。
私は傘を広げ、雨の中へ踏み出した。
雨水が傘の表面に当たり、密集した打撃音を立てる。まるで誰かが軽くドアをノックしているようだ。
私はゆっくり歩いた。
なぜなら、突然気づいたのだ。私はどこへ行けばいいのかわからない。
チームはアベルが結成し、任務は彼が受け、ルートは彼が計画した。
私はただついていればよかった。
今は?
今、私は自由だ。
私は足を止め、雨の中に立ち、顔を上げた。
雨水が顔に落ち、ひんやりとする。
少し痒い。
「……ご迷惑をおかけしました。」
私は小声で言った。
誰に言っているのだろう?
たぶん自分自身に言っているのだろう。
そして私は笑った。
涙が出そうになるほど笑った。
でも大丈夫。
どうせ今は雨が降っているから、誰にも分からない。
私は再び歩き出し、町の外へと向かった。
後ろでは、旅館の明かりが次第に遠ざかっていく。
前方には、真っ暗な荒野が広がっていた。
でも、私は怖くない。
なぜなら、ようやく自分が望む生活を送れるからだ。
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