第2話 輪郭の証明

 朝が、ゆっくりと瞼を開く。

 夜の名残が深い紺色のとばりを静かに引き摺りながら退いていくと、空の端から、絞りたての雫のような淡い光がこぼれ落ちた。その光はまだ幼く、眠る世界を叩き起こすにはあまりに遠慮がちだったが、触れるものすべてを等しく照らし出そうとする、静かな意志を秘めていた。


 生まれたばかりの雲は、その光に指先で触れられるようにして、初めて自らの輪郭を知ることになる。

 光は雲の柔らかな表面を、慈しむように撫でた。その触れ方は、音のない言葉となって、雲の内側に微かな震えをもたらした。それは鋭い痛みでもなければ、跳ねるような喜びでもない。ただ、自分がこの広大な虚空に確かに刻印されているのだと知るための、最初の合図だった。


 光は雲の耳元で、静かに語りかける。

 「あなたは、ここにいる」

 「あなたは形を持ち、世界に触れていい存在なのだ」と。


 雲はその声を、ひんやりとした胸の奥で大切に受け止めた。

 促されるままに体を広げ、自分を縛っていた境界を解いていく。自分が空の「余白」ではなく、空を構成する「一部」であることを、彼はようやく理解し始めたのだ。


 風はまだ遠くで微睡み、地上の世界も完全に目覚めてはいない。

 けれど、雲は光の抱擁の中で、ひとつの命のように確かに脈動していた。自分がなぜ、この朝に生まれたのか。その理由を、言葉になる前の直感としてぼんやりと感じ始める。


 光は、絶え間なく雲を照らし続けていた。

 その温かさは、雲が初めて触れる「世界の体温」であり、これから始まる果てしない旅路を指し示す、最初の道しるべでもあった。


 雲は深く、静かに息を吸い込む。

 胸いっぱいに光を抱きしめると、彼は重力から解き放たれたように、真新しい空へとゆっくりと漂いだした。



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