自己支配

太陽SUN

自己支配

朝、目覚ましが鳴る少し前に目が覚めた。


いつもそうだ。音が鳴る直前、胸の奥が縮む。手が伸びる。止める。止めないという選択肢は最初から存在しなかった。


手は知っている。私より先に。


洗面所で顔を洗う。冷たい水が頬を打つ。鏡の中の自分と目が合う。ちゃんと朝の顔をしている。


台所でカップに手を伸ばす。コーヒーにするか、紅茶にするか。


迷った。そう思った直後、手は紅茶の箱に触れていた。決めてから動いたんじゃない。動いたあとで、決めたことにしている。


脳科学者たちは言う。意思決定の0.5秒前に、脳はすでに答えを出していると。


通勤路を歩く。いつもの道。いつもの角。右に曲がるところで立ち止まる。


左に曲がってみようか。


心臓が速くなる。足が動く。左へ。


新しい道を歩きながら気づく。左に曲がったのは三度目だ。最初は先月。次は先週。今日。


「たまに左に曲がる」という新しいルールを、私が私に刻んでいる。


すれ違った人と目が合う。相手はすぐに視線を外す。自分も同じように外す。ほとんど同時だった。


昼過ぎ、ノートを開く。


ページをめくると、三日前の日記が目に入る。


「私は私に支配されている」


その下に、一週間前の日記。


「私は私に支配されている」


さらにその下。一ヶ月前。


「私は私に支配されている」


同じ文章が、わずかに違う筆圧で、何度も書かれている。


背筋が冷たくなる。


ペンを持つ。手が震えている。


今日の分を書こうとする。


「私は——」


手が止まる。書けば、また同じ循環に入る。書かなければ、不安が残る。


結局、書く。


「今日も私は、私に支配されている」


書き終えると、わずかな満足がある。私は私を褒めた。


感情がない。あるいは、感情があるように見える何かがある。


悲しいと思う。嬉しいと思う。


夕方、窓に映る自分は、ちゃんと社会の中の人の顔をしている。疲れてはいるが、破綻してはいない。私が私に強いている。


夜、布団に入る前、もう一度ノートを開く。


今日書いた文章を読み返す。昨日の文章と並べてみる。似ている。完全に同じではない。句読点の位置が少し違う。「支配されている」の後の余白の長さが違う。


ふと思う。もし私が完全に私を支配しているとして、その支配に「自分が自分を支配していることに気づく」という機能が含まれていたら。


疑いを持つことさえ、私が私に許可している。


入れ子に気づいたことに気づいている。その気づきにも気づいている。どこまで遡っても、「気づいている私」がいる。


無限の回廊。私が私を支配し、私は私に支配される。始まりも終わりもない。円環が回り続ける。


答えは出ない。


ただ、ひとつだけ昨日と違う点がある。この文章を書いている今、私は「また書いてしまった」と思っている。私が私を支配していることに気づきながら、なお従っている。


自由でも反抗でもない。私が私に生じさせた、わずかな亀裂だ。


明日、私がコーヒーを選んだとして、それは今日の決意の結果なのか。明日、私が「支配されている」と書かなかったとして、それは私が私から逃れた証なのか。


分からない。


けれど明日もきっと、私は目を覚まし、手を伸ばし、選んだつもりで選ぶ。私が私を支配しながら、その支配に気づきながら、それでも動く。


ペンを握る手が、わずかに震えている。私が、私の手を震えさせている。


私は思う、ゆえに私は私に支配されたり。


私は私を思う、ゆえに私はあり。

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