各魔物1000匹でMAXスキルらしいけど、ドラゴン1000匹は無理だって!
月城 蓮桜音
第1話 フェリスランドへの切符
――それは突然訪れた。
息が詰まるような衝撃を受けた私、幸田旬一は、昔見た空き地の草むらで、抱きしめていた猫を見下ろしていた。
ん? なぜ、私はここにいるのだろうか……。首を傾げながらも膝に乗せた猫を撫でる。
『ショックで一時的に記憶が飛んでいるようだ。だが、心配せずともじきに思い出す。今はのんびりするといい』
ん? この声はどこから聞こえてきたのだろうか。私はふと膝の上の猫を抱え上げた。
『これ、ちゃんとお尻も支えてくれ給え。宙ぶらりんでは落ち着かぬであろう』
「君が話しかけているのかい?」
どう考えても、宙ぶらりんな猫はこの猫だけだ。しかし、納得できていない私は、猫に尋ねる。周りに人がいないかを確認してしまうのは、やはり人目が気になるお年頃……。
ああ、思い出してきた。しゃべる猫を膝に戻し、思考に
たしか、仕事の帰りにボーッと考えごとを……そうそう、定年が六十五歳から七十歳に引き上げられると聞いて、うんざりしていたんだった。あと十年で退職し、退職金を受け取ったら、のんびりしようと……子どもの頃から飼いたかった猫を飼ってみようなんて思っていたんだ。
そのとき、いきなり猫が車道に飛び込んだのだ。私は条件反射で、車道へ飛び出した猫を助けようと、体が勝手に動き、今に至る……ああ、私はあのときに死んでしまったのだな。
思ったほどの衝撃はなかった。それだけ、心のどこかで覚悟していたのかもしれない。
納得した私は、なぜこの場所にいるのか――。子どもの頃に猫を飼いたいと思った光景を思い出したからここにいるのだろうと理解した。
「ねえ、君。ここは死後の世界と思っていいのだろうか?」
『おっしゃる通り、貴殿は亡くなっている。だが、ここは貴殿の記憶の中……要は、夢の中に魂だけが存在しているのさ』
「なるほど。君はなぜ、ここにいるんだい?」
『ほお? 貴殿は自分がなぜここにいるのかより、わたくしが気になるのかい?』
私の夢の中に出てくる猫は、二足歩行で、姿勢の良い、貴族のような猫だった。そりゃ、気になるでしょう……。
『そうか、気になるのだね。良いだろう。説明してあげ……られなさそうだ。時間がない』
「いや、さっきまでのんびりしていたでしょう!」
『それは貴殿が自力で思い出さなければならない条件だったから、仕方ないさ』
「それは、なんのために?」
私は亡くなったのだろう? であれば……輪廻転生するのであれば、あの世(?)に行くのだろうし、ここに留まってはいけないのだろうと、なんとなく思えた。
『そうそう。ここには長くいられないんだ。貴殿がわたくしを庇ってくれた気持ちに報いたい。わたくしの住む世界で、共に過ごしてはもらえないだろうか』
「君の住む世界? 異世界のような場所かな? 私はあまり詳しくないが、休憩所で盛り上がっているのを聞いたことはある。猫がしゃべるだけじゃなく、二足歩行で貴族っぽいのだから、それで合っていそうだ」
『正解だよ。貴殿の名は何という?』
「幸田旬一です」
『シュンイチが名か? 家名がコーダ?』
「ええ、そうです。シュンイチって呼びにくそうですね。シュンでいいですよ。私の愛称はシュンでしたから」
『ああ、それが呼びやすそうだ。では、シュン。私の住む世界を簡単に説明するよ。間もなく移動することになるからね』
私が頷くと、猫は少し早口で説明を始めた。
『わたくしの住む世界、“フェリスランド”には、パートナーが必要でね。相性が良い人間が多くいるのが、貴殿のいた世界である“チキュウ”だ。わたくしが貴殿とフェリスランドへ帰ることを〝転生〟といって、わたくしの姿は子猫に。貴殿も幼児の姿となる』
「お互いに子どもからやり直すのだね」
『ああ、そうだ。ただ、貴殿が一定のレベルに達しないと、わたくしの能力も、記憶も戻らないのだよ』
「なるほど、最初は大変そうですね」
『武器や防具は最低限、準備されているはずだが……。恐らく貴殿は弱い。それはもう、滅茶苦茶弱い。だが諦めずに、同じ魔物を千体、
「ええっ? 千体もですか?」
『ああ、千体だ。各魔物を千体ずつ斃すことができたなら、貴殿はフェリスランドで最強の勇者として崇め奉られるだろう』
「ええ? できれば目立たずに生きていきたいのですが……」
『わたくしのパートナーとなったからには、無理なお願いだな。おっと、時間切れのようだ。わたくしがしゃべれるようになるまでは誰もサポートしてくれないが、貴殿の“ステータス”にある、【図鑑】に説明があるから見てくれ。幸運を祈る――』
世界がぐにゃりと歪む。私は猫を抱きしめながら、気持ち悪さに耐えたのであった。
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