青春恋愛漫画の不登校モブの俺、ひきこもっていただけなのになぜかオンラインでヒロインと繋がってしまう
あきらあかつき@10/1『悪役貴族の最強
第1話 引きこもりの俺にも弟子ができました
この世界が大好きな青春恋愛漫画の世界だと気づいたのは数ヶ月前のことだった。
「なっ…………」
もしやと思ってやってきた校門に書かれた『私立渚学園高等学校』の文字を見たときは震えたよね。
最初は漫画と同じ名前の高校があってもおかしくないのでは? と疑ったが、校門越しに見える校舎も運動場も漫画と全く同じだった。
いや、それ以前にわざわざ学校の表札? に『私立』なんて文字を現実世界の高校が入れるのだろうか?
が、俺の疑いが確信に変わったのは校門をくぐって現れたあの人の存在だった。
春のそよ風に靡く新緑のように瑞々しい黒髪を揺らしながら、その美少女は俺のすぐそばを通り過ぎた。
向こうにとってはただすれ違った知らない男かもしれないが、俺には見間違えるはずもなかった。
俺の大好きな漫画『僕らは青く光る恒星のように』に登場するヒロインの一人である。
高校の天体観測部に所属する5人の男女の恋愛模様を描く本作。
これがリアルなら死ねとしか思わない俺だけど、あら不思議、漫画家先生の可愛いイラストで描かれた瞬間に胸がキュンキュンしてしまう。
ちなみに今、俺を横切った椎名瑞希ちゃんはリーダーシップはあるが、そのリーダーシップゆえに自分の本当の気持ちを押し殺してしまうピュアな女の子。
俺の推しであり、もっとも人気のあるヒロインである。
その美しさを目の当たりにしたとき、俺の魂は震えたよね。
大好きな青春漫画の世界に転生した。
これは運命だよね。
これから俺にも甘酸っぱい青春が始まっちゃうよね?
そんなことをほんの一瞬でも思ってしまった自分をぶん殴りたい。
そうそう。まずは自分のことについて話しておこうと思う。
俺の名前は
一週間前までは地方の工場で働いていたはずなんだけど、寝て起きたらこの世界の谷本俊作という高校生になっていた。
目が覚めて見知らぬ子ども部屋の光景が視界いっぱいに広がった俺は、パニック状態で部屋を飛び出してリビングらしき部屋にやってきた。
そしたらセーラー服姿の女の子(後に妹とわかった)がテーブルに座っていて、咥えていた食パンを落とした。
「お、お兄ちゃんが部屋から出てる……」
お兄ちゃん? 俺に妹なんていないはずだけど。
そもそもここどこ?
なんて考えているうちに妹の声を聞いたキッチンから中年女性(後に母だとわかった)が飛び出してきて「俊ちゃんっ!! 部屋を出る気になってくれたのねっ!!」と目をうるうるさせ始める。
そんな未知の事態にパニックが悪化した俺はとりあえず一時退散という選択肢をとることにした。
再び、子ども部屋に戻ってきた俺は、壁に取り付けられた姿見に目をやった。
そこで自分の姿がボサボサロン毛で、贅肉まみれのワガママボディに変貌していることに気がつく。
OH……NO……。
まあそれから色々あって俺は青春漫画の『僕らは青く光る恒星のように』の世界に転生したことや、それどころか自分が主人公やヒロインと同じ私立渚学園の生徒であることを知った。
それと同時に自分が半年近くひきこもり生活を送っており、当然ながら高校も登校拒否をしていることを知った。
あ、あともう一つ。
ドンドンと自室の床をこうやって踵で叩くと。
「俊ちゃん、ドアの前におやつとジュース置いておくわね」
母親がジュースとお菓子を持ってきてくれる便利なシステムが存在することを知った。
最初はよくできた夢だと思ったさ。けど、寝ても覚めても全然夢から覚めやしねえ。
この世界にやってきて数ヶ月が経つが、俺は人生の路頭に迷っている。
おそらく俺は『僕らは青く光る恒星のように』の中で姿はおろか名前すら出てこないモブだ。
まああんな甘酸っぱい青春漫画に、こんなロン毛わがままボディの引きこもりなんて登場させたら、作者様も扱いに困るだろうよ。
なまじ目立つ見た目なだけに、モブだったとしても読者の視線を奪いかねない。
俺だって主人公とヒロインが手繋いで歩いている後ろに、こんな主張の激しいモブがいたらそっちに視線が釘付けだ。
とまあそんな感じでようやくこっちの世界に慣れてきた俺だが、今のところは引きこもり生活を続けて静観している。
これはあくまで自分の存在が『僕らは青くて淡い』のストーリーに悪影響を及ぼさないための処置である。
決してゲームもネットもあって、何もしなくても食事が出てくる今の怠惰すぎる環境に甘えているわけではない。
「俺は世界の改変を防ぐガーディアンとして生きていくっ!! キリッ!!」
自分で言ってて辛くならない?
「………………」
ま、まあとにかく今は静観だ。どうせ高校に行ったところでヒロインたちと仲良くできるわけでもないし、いずれ元の世界に戻れるだろ。知らんけど。
と都合よく物事を捕らえながらパソコンで格闘ゲームに興じる。
時刻は午後七時。
そろそろ仕事や学校から帰ってきたプレイヤーたちが集まってくる時刻だ。
とりあえず一人でゲームをしていると画面にDMが表示される。
『あ、師匠、もうやってるっすか?』
なんてDMを送ってきたのは俺の弟子のユーザーネーム『ミズオ2004』である。
お、来た来た。
ということでミズオと合流してゲームを楽しむ。
ヘッドセットからはやたらとイケボな男の声が聞こえてくる。
「師匠、向こうのガーディアンがガチガチで崩せないっす……」
ちなみに俺たちがやっているのはエリアを動き回りながら敵チームよりも多くのエリアを制圧すれば勝利の陣取り格闘ゲームだ。
なんか聞いたことのないメーカーの聞いたことのないゲームだったが、調べたところこの世界では有名なメーカーの有名なシリーズだった。
前にいた世界にも似たようなゲームがあり、ゲームシステムや操作も似ていたのですんなりハマることができた。
ちなみにミズオはネットでパーティメンバー募集をかけたところ応募してくれた。
4対4のバトルなのだが、今のところメンバーはミズオしかいないため残り二人のメンバーは自分たちの使用していないキャラクターをNPCとして参加させている。
「ミズオっ!! 俺がCポイントに敵を引きつけておくから、今のうちにAとBを取れっ!! 残り時間的にギリ間に合う」
「わかったっすっ!!」
俺のパーティに参加してくれたミズオだが、この手のゲームは始めたばかりらしく、この一ヶ月で俺が彼に手取り足取りコツを教えてやった。
その結果、ミズオはいつの間にか俺を師匠と呼んでくれるようになった。
まあ俺はミズオの年齢を知らないし、俺の方が年下の可能性も全然あるのだけど……。
けど、なんか話している感じではミズオも高校生みたいだし、偶然なことに住んでいる地域も近い。
いや、ほんと漫画家さんが実在する神戸を舞台にしてくれたおかげで、架空の街の名前を覚えなくて済むので大変助かる。
今回のゲームはミズオの頑張りによって無事勝利することができた。
「ミズオナイスっ!!」
「いやいや師匠が守ってくれたからっす」
なんてお互いをたたえ合っていると、唐突にミズオが「師匠……」と俺を呼ぶ。
「どうした?」
「師匠も神戸に住んでるんですよね?」
「え? そうだけど……どうかしたのか?」
「いや、なんというかその……今度一緒に遊びませんか?」
「え? それってリアルでってことか?」
「ですです」
「リアルか……」
「自分、師匠には感謝してるっす。これまでゲームはそんなにしてこなかったんですけど、師匠と出会ってゲームの奥深さを知りました。だからその……感謝の気持ちを直接伝えたくて……」
「な、なるほど……」
「それに師匠に一つ伝えなきゃいけない秘密もあるっす」
「秘密?」
「そ、それは……会えばわかるっす」
「ま、まあなんでもいいけど」
唐突にオフ会を提案するミズオ。
まあなんとなくだけどいつかは誘われるような気がしていた。
そして、俺もまたミズオとは気が合うと思っているし、実際に会って友達になりたいという気持ちもある……。
「わかった。けど、一ヶ月だけ時間をくれないか?」
が、俺は髪の毛ボサボサの贅肉たっぷりのモブすらクビになったような醜態だ。
さすがにこんな姿を晒したらミズオの理想の師匠像がぶち壊しだ。
会うならばそれなりに身なりを整えておきたい。
そんな俺の言葉にミズオは「ま、まあお互いに中間試験とかも近いですしそれが終わってからの方がいいかもっすね」と言うが、そんな何気ない言葉が俺の胸にグサッと突き刺さる。
「そ、そうそう……そろそろ中間だからな」
なお参加するとは言っていない。
ということで唐突だがオフ会が決まった。
俺はカレンダーを見やる。
明日から五月が始まる。
そういや漫画ではそろそろ主人公が、たった一人の天体観測部の部員を増やそうとヒロインたちを勧誘し始めるころだっけ……。
原作ファンとしては主人公とヒロインたちの活躍する姿をこの目で見てみたい気もするが……まあ俺には俺の人生があるし、下手に原作に介入してめちゃくちゃにしたくないしな。
そう。
「俺は世界の改変を防ぐガーディアンとして生きていくっ!! キリッ!!」
そう宣言してからむなしくなってため息が出た。
さてミズオの理想の師匠像に近づくためにまずはダイエットから始めよう。
ということで部屋を出ると、ちょうど洗濯物を取り込んだ母親と鉢合わせた。
「しゅ、俊ちゃんっ!?」
「ちょっくらランニングに行ってくる。晩飯までには帰るから心配しなくていいから」
そう答えると母親は持っていた洗濯物を床に落として「あ、あれ……私、夢でも見ているのかしら……」と呟いた。
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