狼も歩けば恋に走る

タルタルつばめ

第1話

私立月影学園には、少し変わった噂がある。満月の夜になると、校舎裏の森でオオカミが出没するというのだ。
 その噂の張本人、灰原ルカは、れっきとした学園二年生。成績は中の上、運動は大の得意、ただし正体は人に化けたオオカミだった。

「正体がバレたら即退学……いや、研究対象か?」

 ルカは今日も尻尾を必死に隠しながら登校する。そんな彼女の密かな悩みは、クラスメイトの犬飼コハルの存在だった。明るくて世話焼きで、名前の通り犬みたいに人懐っこい男の子だ。

「灰原さん、一緒に委員会行こ?」

 彼が近づくたび、ルカの心臓はドクンと跳ねる。オオカミの本能なのか、それとも単なる思春期か。自分でも分からない。

 ある日の放課後、委員会帰りに二人は校舎裏で雨に降られた。逃げ込んだ先は、噂の森の入り口。雷が鳴り、驚いた拍子にルカの耳が――ぽん、と飛び出した。

「……あ」

 終わった、と思った瞬間。

「オオカミだったんだね! かわいいじゃん!」

 あれ?なぜか好感度が上がっている。

「俺、犬派だけど……オオカミも、好きかも」

 そう言って笑う彼に、ルカは言った。

「じゃあ私、走っていい?」

「え?」

「恋に」

 犬も歩けば棒に当たる。でもオオカミが歩けば――恋に走るらしい。

 月影学園に、新たな噂が増えた。
 満月の夜、森で見かけるのは――尻尾を振るオオカミと、笑う犬のカップルだとか。

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