受験勉強中に死んだ僕は、異世界で“魔獣保護公務員”になりました

天照 睦月

〜現代知識と好かれ体質で、平和な職場改革はじめます〜

第一章 受験生、死亡。そして異世界へ


 中学三年の冬。

 高校受験まで、あと二か月。


 僕――相沢悠斗は、机に突っ伏していた。


「……英単語、覚えられる気がしない」


 スマホは封印。

 テレビも禁止。

 ひたすら問題集とにらめっこ。


 クラスでは目立たず、友達もいない。

 誰とも深い会話をしたことがないまま、三年が終わろうとしている。


 それでも、高校では変わりたかった。

 高校デビュー。

 それだけを希望に、勉強していた――はずだった。


 視界が、ぐらりと歪む。


「……あ」


 次の瞬間、僕の意識は途切れた。


 ――そして。


 目を開けると、そこは草原だった。


「……は?」


 柔らかい風。

 青すぎる空。

 月が、二つ。


 現実感が追いつかない。


 夢?

 いや、やけに五感がはっきりしている。


 そのとき。


 ぴょこん、と何かが跳ねた。


 角の生えたウサギのような生き物が、僕を見上げている。


「……え、魔獣?」


 ウサギは警戒する様子もなく、僕の手に鼻先を寄せた。


 ぺろっ。


「……くすぐった」


 思わず笑う。


 すると、ウサギは大喜びで僕に飛びついてきた。


 ざわり。


 草むらが揺れ、犬のような魔獣、巨大な猫、半透明のスライムが次々と現れる。


「なんで!? なんで集まってくるの!?」


「ほっほっほ……これは見事じゃの」


 背後から聞こえたのは、しわがれた声。


 振り返ると、杖をついた小柄なおばあさんが立っていた。


「心配するでない。襲う気はない」


「……本当ですか?」


「この子らが懐く相手に、悪い者はおらん」


 おばあさんは、じっと僕を見つめた。


「少年。あんた、年寄りと動物に好かれすぎる体質じゃな?」


「……体質?」


「この世界では、神の加護扱いじゃ」


 にっこり笑って、彼女は言った。


「王都へ来なさい。

 あんたの居場所が、きっとある」



第二章 魔獣保護局という職場


 王都は、驚くほど整っていた。


 石造りの街並み。

 清潔な道。

 人と魔獣が、当たり前のように共存している。


 案内された建物の看板には、こう書かれていた。


王都魔獣保護局


「ここで働いてもらう」


 そう言ったのは、エルフの女性だった。


「私はリーネ。あなたの上司になるわ」


 流されるまま、僕は職員になった。


 仕事内容は意外にも地味だった。


 街に迷い込んだ魔獣の保護。

 老いた魔獣の介護。

 人と魔獣のトラブル調停。


 完全に、お役所仕事だ。


「悠斗くん、またスライムが増えてるわ」


「彼ら、排水溝の掃除をしたいみたいで」


 スライムたちは嬉しそうに床を磨き始め、局内は新品同様になった。


「……本当に好かれすぎね」


 現代の知識も役に立った。


 データ管理。

 優先順位。

 業務効率化。


 魔獣保護局は、目に見えて成果を上げ始めた。



第三章 貴族の横槍


「魔獣はすべて排除しろ!」


 怒鳴り声とともに現れたのは、バルド伯爵だった。


「却下します」


 僕は即答した。


「魔獣は生態系を支える存在です。

 乱獲すれば、土壌が劣化します」


「な、なぜそれを……」


「あなたの領地、不作が続いてますよね」


 伯爵は黙り込んだ。


「原因は魔獣の減少です。

 このままだと、三年で破綻します」


 完全な論破だった。


 結果、伯爵は王都で叱責。

 冒険者たちは職を失った。


「……あんた、面白いな」


 声をかけてきたのは、大柄な男だった。


 元Sランク冒険者、ガルド。


「俺たちを雇ってくれ」


 強力な仲間が加わった瞬間だった。


第四章 街を守るのは力だけじゃない

 数か月後。


 魔獣保護局の成功を妬んだ一派が、裏で動き出した。

 表向きは冒険者として活動しながら、夜な夜な違法な魔獣討伐を行っていたのだ。


 被害に遭ったのは、街の外れに棲む温厚な魔獣たちだった。

 本来、人に危害を加えないはずの個体が追い立てられ、傷つき、街へ逃げ込んでくる。


 当然、街は混乱した。


「魔獣が増えてるぞ!」

「危険なんじゃないのか!?」


 不安の声が広がる中、僕は深呼吸して前に出た。


「大丈夫です」


 震えそうになる声を、必死に抑える。


「彼らは、ここを守りたいだけです」


 僕がそう言うと、魔獣たちは一斉にこちらを見た。


「守ろう。ここを」


 その言葉に応えるように、スライムたちが地面を這い、即席の防壁を作り上げる。

 老いたドラゴンが低く唸り、空へと舞い上がった。


「……やれやれ、派手になってきたな」


 ガルドが剣を担ぎ、前線に立つ。


「俺たちは守る側だ。手出しは最低限でいい」


 彼の号令に、元冒険者たちがうなずいた。


 戦いは、起きなかった。


 代わりに起きたのは――暴露だった。


 違法討伐の証拠。

 目撃証言。

 そして、街の人々の声。


「悠斗が言うなら、信じられる」

「あの子は、魔獣も人も助けてきた」


 年寄りたちが、次々と証言台に立った。


「悠斗のおかげで、わしらは安心して暮らせる」


 民意は、一気に傾いた。


 調査団が動き、違法討伐団は一網打尽にされた。


 首謀者として名が挙がったのは――

 バルド伯爵だった。


 彼はすべてを失い、爵位剥奪のうえ国外追放。


 街に、静けさが戻った。



エピローグ


 夕暮れの王都。


 魔獣保護局の屋上で、僕は空を見上げていた。


「悠斗くん、これからどうする?」


 隣に立ったリーネさんが、穏やかに問いかける。


「……ここで、生きていきます」


 自然と、そう答えていた。


 高校デビューはできなかった。

 受験も、もう関係ない。


 でも。


 この世界では、僕は必要とされている。


 魔獣に囲まれ、

 仲間に囲まれ、

 今日も平和のために働く。


 異世界に受験はない。


 それでも――

 人生の本番は、案外うまくいっている。


 ――完。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

受験勉強中に死んだ僕は、異世界で“魔獣保護公務員”になりました 天照 睦月 @Sungarden101

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画