おいしい珈琲はいかが?

青川メノウ

第1話 おいしい珈琲はいかが?

新人介護士の成美が、先輩と共に業務にいそしんでいる時、

突然、

「コーヒー、コーヒー!」

という大きな声が居室から聞こえてきた。

八十歳のいさむさんだ。

寝たきりで言葉も全く話せないのに、唯一「コーヒー」という単語だけは言えた。

「さっき飲んだばかりよ!」

先輩がイラついて声を荒げた。

「成美ちゃん、コーヒー飲ませて。静かになるから」

「はい」

成美はカップにインスタントの粉を入れて、お湯を注いだ。

「勇さん、どうぞ」

口にあてがうと、勇さんは無言でごくごく飲んだ。

「よっぽど好きなんだろうな」

カルテにも〈大好きな物:レギュラーコーヒー〉と書いてある。

「だったらインスタントじゃ満足できないよね」

自分もコーヒーにはこだわりがあるからよくわかる。

翌日成美は家からサイフォンを持って来た。

しかし、

「なにやってんの? 忙しくてそんな暇ないから」

と先輩に注意されてしまった。

「すみません」

謝ったけど、ちょっと悔しい。

それで先輩がいない時にそっと淹れた。

勇さんの居室に、ふわっと本物の香りが漂った。

「どうぞ、勇さん」

勇さんが一口すすった。

「おいしい」

「え、今なんて?」

成美はその後も時々、サイフォンでコーヒーを淹れた。

勇さんの声を聞きたくて。

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おいしい珈琲はいかが? 青川メノウ @kawasemi-river

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