おいしい珈琲はいかが?
青川メノウ
第1話 おいしい珈琲はいかが?
新人介護士の成美が、先輩と共に業務に
突然、
「コーヒー、コーヒー!」
という大きな声が居室から聞こえてきた。
八十歳の
寝たきりで言葉も全く話せないのに、唯一「コーヒー」という単語だけは言えた。
「さっき飲んだばかりよ!」
先輩がイラついて声を荒げた。
「成美ちゃん、コーヒー飲ませて。静かになるから」
「はい」
成美はカップにインスタントの粉を入れて、お湯を注いだ。
「勇さん、どうぞ」
口にあてがうと、勇さんは無言でごくごく飲んだ。
「よっぽど好きなんだろうな」
カルテにも〈大好きな物:レギュラーコーヒー〉と書いてある。
「だったらインスタントじゃ満足できないよね」
自分もコーヒーには
翌日成美は家からサイフォンを持って来た。
しかし、
「なにやってんの? 忙しくてそんな暇ないから」
と先輩に注意されてしまった。
「すみません」
謝ったけど、ちょっと悔しい。
それで先輩がいない時にそっと淹れた。
勇さんの居室に、ふわっと本物の香りが漂った。
「どうぞ、勇さん」
勇さんが一口すすった。
「おいしい」
「え、今なんて?」
成美はその後も時々、サイフォンでコーヒーを淹れた。
勇さんの声を聞きたくて。
おいしい珈琲はいかが? 青川メノウ @kawasemi-river
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます