僕らがつながる場所

happy song

僕らが繋がる場所

タイトル:僕らが繋がる場所


 一月のとても寒い夜、僕は夏にやり残した、小さな打ち上げ花火を車から引っ張り出してきた。この最後の花火を打ち上げるためだけに、僕は夜の海岸を歩いている。それが君との約束だったからだ。


 この海岸を君と一緒に歩いたことを思い出す。半年前、僕たちはここで夜の海を眺めていた。君はいつも僕の隣にいて、僕に何かを話してとせがんでくる。僕は思いついたことをつらつらと話すことになるんだけど、君は何も言わずに僕の話に耳を傾けてくれた。


 君は本当に花火が大好きで、夏には打ち上げ花火を見に出掛けたし、自分達で買った花火でもよく遊んだ。だけど、この小さな打ち上げ花火だけは、もったいないから何かの記念日に飛ばそうと、君が言ったんだ。


「例えば、初めて出会った日や、初めてデートをした日とか、きっと忘れちゃったでしょ。だから、そういう日を思い出にできるように、勝手に記念日を創って忘れられない思い出にするの。多分、あなたは覚えてないでしょ?」


 君が僕の目を覗きこんで言うので、僕は頷いて「ごめん」と謝った。君のその優しい目が印象的だった。


 この暗闇の中、今夜は一人で潮の匂いを嗅ぎ、波の音を聞いていた。君と一緒にいたときは、楽しくて何も感じなかったけれど、一人で暗闇の中で冬の海を見ていると、なんだか危ない気持ちになってしまった。この闇の中に溶け込んでしまいたいという衝動的な何かが、少なからず僕の心を支配してしまったのだ。けれども、それと同時に、この暗闇の中で瞬いている淡い星の光が、まるで美しいピアノの旋律のようにも感じられ、このままここに居たいという想いも生じてしまい、矛盾した僕の心は完全に混乱して、結局寂しくなってしまった。


 僕がしばらく星空を眺めていると、真っ黒な空に、流れ星が一筋の線を描いて消えていった。僕は流れ星を見ると寂しくなる。誰かが亡くなってしまった。その星が描く淡い一筋の軌跡は、命の光なんだと誰かに教えてもらったことがあるからだ。もしかしたら、あの流れ星が君だったのかもしれない。そう思うと、一瞬とはいえ、君と繋がった世界に僕がいる気持ちになって、情けないほど泣いてしまったんだ。


 僕は海岸を見渡した。今、ここには僕以外には誰もいない。残念だけど君もいない。僕は寒さも忘れて、海岸の砂で打ち上げ花火を固定して、火をつけた。花火は少しだけ空の方に舞い上がって、冬の海の上で、乾いた音を鳴らし、すぐに暗闇の静けさの中に消えていった。それは、大きな打ち上げ花火とは違った美しさがあった。それはちっぽけで、あまりにも儚かった。それが美しく、そして悲しく感じさせたのだろう。


 端から見れば、小さな花火を一つだけ打ち上げるなんて意味のない行為なんだと僕も思う。君にだって、この光は届かない。だけど、それでも、僕は約束を守りたかった。それは君との大切な約束だったし、そうしなければならないような気がしていたからだ。


 君は交通事故に巻き込まれてしまい、結局帰らぬ人になってしまった。流れ星が君の命を運んでいった。


 そして僕は、君との約束を果たしにやってきた。大丈夫、僕は君の命日は忘れないから。


 ねえ、ナナミ。何百年、何千年先になるのか分からないけれど、もしも、僕たちがまた会える日がきたとしたら、また一緒にこの空を見上げよう。僕は君と約束したことだから、決して忘れはしないから。君が忘れても、僕が教えてあげるから。


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