アーカイブ・クロニカ ~世界史万年2位の俺、歴史改変を阻止して完全無欠の1位をぶっ倒す~
あおいろぱりお
プロローグ
-現代の日本、とある高校にて-
12月の放課後。
昇降口の掲示板前には人だかりができていた。
全国統一記述模試、結果発表。
俺、一ノ瀬純一は、吐き気をこらえながら順位表を見上げた。
1位:神宮寺 俊 (偏差値 82.4)
2位:一ノ瀬 純一(偏差値 80.1)
「……またかよ」
俺は舌打ちした。
壁だ。どれだけ歴史用語を暗記しても、どれだけ論述対策をしても、あの男には勝てない。
俺は歴史「だけ」のオタク。対してあいつは、全科目満点の怪物だ。
「惜しかったね、一ノ瀬くん」
振り返ると、そこには女子生徒に囲まれた長身の美少年が立っていた。
サラサラの黒髪、輝くイヤリング、紅色の目、そして作り物のように整った笑顔。
「今回は世界史の論述、僕も危なかったよ。君の視点は鋭いね」
「……嫌味かよ」
「まさか。尊敬しているよ、ライバルとして」
神宮寺は優雅に微笑み、俺の肩をポンと叩いて去っていった。
周囲の女子たちが騒ぎ立てる。
「キャーッ、神宮寺くん優しい!」
「なんであんな陰キャと絡むの?」「神宮寺くんが汚れるから近づかないで!」
「まぁまぁ、いいじゃないか、彼も彼なりに頑張っているんだよ(笑)」
神宮寺はこちらに背を向けながら、横目でニヤリと俺を一瞥した。
俺は知っている。
あの笑顔の奥にある目を。
あれはライバルを見る目じゃない。
道端の石ころや、ゲームのNPC(モブ)を見る目だ。
あいつは俺なんて見ていない。俺だけじゃない、この世界の人間全員を見下している。
(クソが……。もし今が法のない時代だったら、あいつなんて……)
俺はポケットの中で、祖父の形見の「粘土板の欠片」を握りしめた。
あれは、6歳の頃だったか。
考古学者だった祖父の書斎は、古い紙と埃の匂いがした。
「純一、これを見てごらん」
祖父は震える手で桐の箱を開けた。
中に入っていたのは、手のひらサイズの茶色い破片。ただの土器の
「これはな、じいちゃんがイラクの遺跡で見つけた、世界最古の平和条約……『カデシュの条約』のレプリカの一部だ」
「へいわじょうやく?」
「ああ。エジプトの王ラムセス2世と、ヒッタイトの王ハットゥシリ3世。二つの超大国が、長年の殺し合いをやめて手を取り合った証さ」
祖父の目は、少年のように輝いていたが、同時にどこか悲しげだった。
「だがな、純一。歴史には『空白』があるんだ」
「くうはく?」
「教科書には『平和条約が結ばれた』としか書かれていない。だが、当時の粘土板をどれだけ解読しても、『なぜ、あれほど憎しみ合っていた王たちが、急に手を取り合えたのか』という一番大事な
祖父は俺の小さな手をとり、その冷たい粘土板の欠片を握らせた。
「歴史の教科書は、結果しか教えてくれない。だが、本当に大切なのは、そこに生きた人間がどんな涙を流し、どんな覚悟でその決断をしたか……その『感情の記憶』だ。じいちゃんはそれを知りたかったが、今となってはもう何もかも遅いようだ」
幼い俺には、祖父の言葉を理解することなどできなかった。
その翌年、祖父は病室で息を引き取った。
手元には、あの粘土板の欠片だけが残った。
祖父だけが、俺の全てだった。優しくしてくれた唯一の人。今の俺を支えているのは、祖父が魅入られた歴史という「過去」への探究心だけだった。
大学入学共通テストの当日。
東京は珍しく大雪だった。
会場へ向かう交差点で、俺は信号待ちをしていた。
ふと、対岸に神宮寺の姿が見えた。
彼は誰もいない路地裏の方を向き、何かを足で小突いていた。
……猫?
いや、うずくまっている浮浪者か?
「死ね! 死ね! 消えろ! 下等生物が! 目障りなんだよ!」
神宮寺は、汚いものを見るような目でそれを何発も蹴り、「猫のようなもの」は動かなくなっていた。
人がすぐにきたのを察知し、直後にパッと「聖人」の顔に戻って表通りへ出てきた。
あいつ、今……
思考が止まる。
だが、異変はそれだけじゃなかった。
彼はスマホを見ながら、赤信号の車道へと、ふらりと一歩踏み出していたのだ。
……おい、何してんだあいつ?
キキィィィッ!!
スリップした大型トラックが、制御を失って交差点に突っ込んでくる。神宮寺の目の前だ。
周囲の人が悲鳴を上げる。
だが、神宮寺は逃げない。
トラックを見つめ、まるで「ここで死ぬのも一興か」とでも言うように、薄く笑って立ち尽くしている。
その唇が、小さく動くのを俺は見た。
「これで……あの世かな」
ふざけんな死ぬ気かよ……!
考えるより先に、体は動いていた。
嫌いな奴だ。あいつさえいなければと思う時もあった。でも、目の前で知っている人間が肉塊になるのを、黙って見ていられるほど俺は冷酷じゃなかった。
「どけッ、神宮寺!!」
俺は雪のアスファルトを蹴り、神宮寺の体を全力で歩道へと突き飛ばした。
ドォォォォン!!
強烈な衝撃。
体が宙を舞い、視界が回転する。
熱い。痛い。寒い。
薄れゆく意識の中で、歩道に尻餅をついた神宮寺と目が合った。
あいつは驚いていた。
まるで計算外の事が起こったかのような顔で、俺を見ていた。
「……なんで、君が?」
神宮寺の唇がそう動いた気がした。
……はは。ざまあみろ。
俺は心の中で毒づいた。
いつも余裕なあいつの、あの間抜けなアホ面。
俺があいつを助けたなんて知ったら、一生借りを感じて生きるだろう。
最高の復讐じゃないか。
そう思っていた。
この時の俺は、まだ知らなかったんだ。
俺はとんでもないことをしてしまったんだと。
そしてそれが、世界を巻き込むことになるとは。
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